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悲願の大学選手権初優勝へ ラグビー部が目指すプレーの“表現力”とは 東海大学 体育学部競技スポーツ学科 教授
木村 季由

2017年12月1日掲出

 昨年、2年連続で全国大学ラグビーフットボール選手権大会決勝まで駒を進めるなど、大学ラグビーをけん引するチームとなった東海大学ラグビーフットボール部。1998年に就任した木村季由監督のもと、関東大学ラグビーリーグ戦で7度の優勝を誇るチームは今季、悲願の大学選手権初優勝を狙う。木村監督に今シーズンへの意気込みや全国優勝を狙うチーム作りについて、語ってもらった。【毎日新聞デジタルメディア局 永井大介】

負けるときには必ず理由がある

 ――リーグ戦(11月6日現在5戦全勝)も佳境を迎えています。現在はどのようなチーム状況でしょうか。

 来年1月の大学選手権の決勝を目指して1年間を通したチーム作りをしています。リーグ戦1戦1戦ごとのそれぞれの段階でのチームの到達度を意識していて、課題もありますが、成果は着実に出ています。

 

 ――昨年の帝京大との選手権決勝でチームに足りない部分を感じられたとか。

 ここ数年、個人の力を最大限に引き上げていき、その上でフォワード、バックスといったポジジョンごとの力を上げ、最終的に両者を連動させるチーム作りをしてきました。これは相手の戦術などは関係なく、自分たちの強みを作り上げその強みで相手を凌駕するというやり方でした。

 こうして築き上げてきた強みは昨シーズンも手応えがあり、フォワードのスクラムなどは帝京大学戦でも優位性を示せたと思います。それでも、我々が帝京大学に勝てなかったのは、必ず理由があると思います。極端な言い方をすれば、勝つ時は運で勝てることもありますが、負ける時には必ず明確な理由があります。その理由を曖昧にせずに突き詰めていかないと勝利はないと思います。

 帝京大学戦でいえば、全体的なゲームの進行や勝負どころでのプレーの選択といった部分で、やはり帝京大学が我々を上回っていましたし、我々にも細かな部分で判断エラーがたくさんありました。こうしたエラーをなくさない限り、勝てないということがはっきりと分かりました。

 

 ――決勝での敗戦を受け、今シーズンは具体的にどういった取り組みをされてきましたか。

 ラグビーはゲームの状況が次々と変わるため、選手にはその都度、状況判断が求められます。試合ごとにゲームプランを立てますが、高いレベルになればなるほどプラン通りにいくことは困難で、それがどんどん崩れていくのがラグビーです。その時、ある選手がキックだと判断し、別の選手はパスだと判断すれば、そこには小さな意識のズレが生じます。判断の連続の中で生じた意識のズレは次第に大きくなり、最終的には試合結果に直結する大きな判断ミスにつながりかねません。そのため、全員が同じ判断をしているかが重要になります。

 状況判断能力を磨くため、毎日のトレーニングは常にゲームを意識したプレッシャーの中で行ってきました。特にスクラムやラインアウトといったセットプレーではなく、アンストラクチャー(崩れた)な状態でも偶然を排除し、いかに組織化できるかに時間を割きました。

 

 ――目指しているような試合運びには近づいてきましたか。

 80分のゲームを10分刻み、8回に分けて試合運びを考えさせています。4勝4敗ならば五分五分、5勝3敗にすれば勝てるんです。試合全体で負ける時間帯もあります。その場合に次の10分をどう取り返すかを考えられるかが求められます。

 何かのミスをきっかけに10分、10分と次々と相手に試合の流れがいってしまえば、取り戻すのは大変です。誰かが早いタイミングで悪い流れを断ち切らないといけません。流れの悪さを生み出す小さなほころびに気が付いて、キャプテンを中心に誰かが声をかけたり、プレーで盛り返したりすればいいのですが、今年のチームはそこがまだ足りません。

 日常の練習でもそうした部分はあって、まだ気がついたコーチが声をかけている状況です。コーチはプレーしていませんので客観的に捉えることができます。しかし、試合ではコーチは手助けできません。選手自身が気づかなければ解決できないのです。私はプレーも言葉も表現力だと思っています。練習でも試合でもプレーのほころびをその場で見つけて、表現力で修正していかないと選手権決勝は勝てないと思っています。

 その表現力を身につけるためには、演じてしまうぐらいの覚悟が必要だと学生には言っています。表現とは自分たちのこだわりや徹底です。その上で状況判断があり、言われたことや決められたことをただ盲目的にやっているだけでは強くはなれません。スクラムであれば今より1センチ低くするとか、足の指が右向いているとか左向いているとか、すごく細かな部分までこだわり抜いて、こだわっている部分を試合の中で表現できなければ、自分たちと同じかそれ以上の実力のあるチームと戦うことはできないんです。

 

リセットではなく継続を

 ――木村監督就任でチームは強くなりました。もともと今のような指導方針だったのですか。

 最初から今と同じ考えでやっていたら、もっと違った結果が出ていたかもしれません。毎年の積み重ねの中で自分自身の変化もあり、気付かされたことはたくさんあります。失敗からもたくさん学びました。本当にとことん頭を打たないと分からないことがたくさんあります。試行錯誤を繰り返し、できたことと、できないことを忘れずにやるしかないのです。チャレンジしなくなったら、退化と一緒です。勝てないとあきらめたら絶対に勝てませんから。

 

 ――監督はラグビーの指導だけでなく、「人間形成」にも力を入れていると聞きます。

 東海大の監督に就任する前は、母校の日体大大学院の研究室で助手をし、休日は流通経済大学ラグビー部でコーチングのお手伝いをしていました。そこで関東大学リーグ5部から1部にまで押し上げた上野裕一監督から学んだことが大きかったと思います。上野先生は、学生に競技をする上で一番大事なことは何かということを様々な視点からずっと問いかけていました。そこで学んだことを自分なりにアレンジしながら、東海大学でやってきました。

 私の就任当時、東海大学は2部に降格した時代でした。学生の場合、競技力が落ちるのは、日常生活の乱れと因果関係があることが多く、それはラグビーに向き合う姿勢にはっきりと出ていました。部員は80人いましたが、20人ほどグラウンドに出てこない学生もいて、それを学生達が把握できていませんでした。仲間を気にしない状況で、チームスポーツをやろうというのですから、無理な話です。さらに基本的な生活習慣も乱れており、朝ご飯も食べなければ授業にも出ない。それが部全体のスタンダードになっていたのです。

 今までのやり方を否定して、私のやり方を強引に押しつけるのは簡単です。でも、そうはしませんでした。過去は事実であり、何が悪かったかを認識した上で、変えていくことが大切だと思います。リセットなんて簡単にはできません。監督が替わったので、何かが急に変わるわけでもなければ、学生の考え方が変わるわけではない。なぜ、こうなったかについて学生と一緒に向き合いました。

 まずは、午前6時半から朝練を始めました。朝練といっても技術的なことはやりません。とにかく川沿いを10キロ走るんです。途中で隠れてサボる部員もいました。でも、朝早く起きるので、お腹が減ります。朝から動いているので、夜、早く寝るようになります。生活習慣が改善され、ラグビーに対する姿勢は変わりました。練習メニューは違いますが、朝練は今も続いています。

 

チャレンジと失敗経験

 ――昨年はラグビー強豪国のオーストラリアにコーチングを学びにいかれたそうですね。

 若い頃から行きたいという思いがあり、年齢的にも最後のチャンスかなと思い、大学の派遣研究計画制度で4月から7月いっぱい行かせてもらいました。オーストラリアは、コンタクトスポーツという本質を大事にしていて、パスやキャッチ、コンタクトなどの基本プレーを徹底していました。また、なぜこうしたプレーをするのか、という部分について、すごく時間をかけて指導していて、常に選手に考えさせながら指導していました。シンプルでわかりやすい基準に基づき、それを確実に遂行するということを大切にしていました。

 日本人はスキルの取り込み方はすごく上手で、強豪国の練習方法などはすぐに取り入れます。指導者の指示で選手が動くことが多いのですが、なぜこのプレーをやるのかという説明が足りません。高校生や中学生のトレーニングを見ていても、レベルに合っていない危ない練習をたくさんしている。そのレベルに見合った必要なものをきちんと理解させながら伝えていくということは大事だと思います。真似をすれば良いというものではありません。

 オーストラリアは特別なことをしているわけではなく、幼少期から常に考えさせることで、基本プレーをいかに確実に遂行させるかを大事にしています。プレーをあいまいにせず、いつでもできるようにしています。たとえば、ラグビーの基本プレーの一つにパスを受ける選手はその前に手を上げて待つ「ハンズアップ」がありますが、日本では言わないとできない選手も多い。オーストラリアでは、当たり前のことなので、雨だろうがなんだろうが、ボールを落とすシーンがすごく少ないんです。当たり前の水準をいかにあげていくかが大事だと感じました。練習というのは試合のためにやるものですから。

 

 ――今の若い人に向けて伝えたいことはありますか。

 一つのことにどこまでこだわれるかを大切にして欲しいです。ラグビーでもこだわりのあるチームは強いです。流されたり、ぐらぐらせず、ここだけは譲れないという部分を持つことが大切だと思います。そして、どんどん失敗して構わないので、チャレンジすることです。失敗しないと人は成長しません。たとえ同じ失敗を繰り返したとしても、チャレンジしたのであれば構わないと学生には言っています。中途半端な意識でできたことなんて次につながりません。チャレンジをしないときに起こることはダメなことが多いのです。若いうちはチャレンジと失敗をたくさん経験してほしいですね。

 

東海大学 体育学部競技スポーツ学科 教授 木村 季由 (きむら ひでゆき)

日本体育大学体育学部体育学科卒業。日本体育大学大学院体育学研究科でバイオメカニクスや運動生理学を専門に学び修了。98年より、東海大学体育学部講師となり、体育会ラグビーフットボール部監督に就任。現在に至る。これまでにリーグ戦優勝7回、大学選手権準優勝3回。日本ラグビーフットボール協会強化委員、コーチ委員、テクニカルスタッフ、U19・U23・日本A代表のフィットネスコーチを務めた。日本体育協会ラグビーフットボールマスターコーチ、コーチトレーナー、オーストラリアラグビーコーチレベル4などの資格を持つ。