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建学75周年に思う 世界に存在感を示せる大学に 東海大学 学長
山田 清志

2017年11月1日掲出

 今年、建学75周年を迎えた東海大学。2018年には新たに「文化社会学部」と「健康学部」を設置するなど、グローバル化の中で日々、その姿を新たにしている。創立者である松前重義博士の精神を継承しつつ、次の100周年に向けて新たなステップを歩み始めた大学の今と将来像を山田清志学長に聞いた。【毎日新聞デジタルメディア局 浜名晋一】

 

75周年は「転」

 ――東海大学の建学75周年を振り返ってください。

1965年

 東海大学は2017年に建学75周年を迎えましたが、これまでも25年ごとの節目でその歴史を振り返ってまいりました。75周年は1942年に清水(現・静岡市清水区三保)に東海大学の前身である航空科学専門学校を設置した時から起算しておりますが、25周年の時は1963年に湘南キャンパスを設置して数年が経過し、大学としての一つの拠点を確立した出発点であったと思います。

 そして、50周年を迎えた1992年には、東海大学としての理念を堅持し、時代に沿った新しい学部・学科を開設し、全国にキャンパスを展開した拡充期といえると思います。

 50周年で大学として今日の形が確立された時期とすると、その後の25年はそれを成熟させた時期であり、起承転結で例えると75周年は「転」に当たると思います。75周年は4分の3世紀ですので、ここからの25年は100周年に向けて新たな展開を始めていこうと考えております。

 

 ――目に見えない東海大学の学風はどのようなものですか。

 多くの方が思い浮かべる東海大学のイメージは、理工系を中心とした総合大学であること、スポーツ活動や国際交流活動が盛んであることなどが挙げられると思います。これは、創立者の松前重義博士が確固たる信念によってつくりあげた大学の精神的な支柱であり、今でも、東海大学の学風として力強く息づくものと思います。

 

松前重義博士

 ――東海大学の教育理念とはどのようなものですか。

 創立者の松前重義博士は、東海大学創立にあたって大きく次の三つの理念を掲げました。一つ目は文科系と理科系の垣根を取り除いた文理融合教育の実践、二つ目は科学技術立国を支える人材の育成、三つ目は世界平和に貢献する人材の育成です。これらは松前重義博士自身の経験則から導かれている理念であり、一つひとつが独立しているものではなく、それぞれが密接に関連づけられ、教育に活かされています。

 そのための教育の核となるものは、全学生必修科目の「現代文明論」です。これは創立者の松前重義博士が掲げた建学の精神に基づき、文明に対して深い思慮と洞察を身につけ、自らの思想を培うことを期して開講された文理融合の科目です。人文科学・社会科学・自然科学の各分野の専門家である研究者がリレー形式で講義を受け持ち、文系・理系の枠にとらわれず、全学生が必ず履修しなければならない、東海大学の核となる科目です。

 そして、科学技術立国を支える人材の育成面においても、松前重義博士は、単に科学技術という理系の科目を修めるだけではなく、文系のことにも理解を持つような文理融合の人材を育成することが科学技術立国を支えることに繋がると主張しております。そのベースとなるのは人間、社会、自然、歴史、世界といった幅広い視野を持ち、人生の基盤となる思想を培うことであり、文理融合教育の基盤である現代文明論に組み込まれています。

 この現代文明論の科目を、建学75周年を機に改訂しようと考えております。今までの現代文明論は、大きく「自校史」の部分と、生命倫理の問題、環境問題、冷戦の問題などの「現代社会の諸問題」が、縦糸と横糸のように織り交ぜられて開講されていました。改訂する新しい現代文明論の趣旨は、東海大学の建学の精神や自校史の部分を独立させて入学時に学び、次に基礎教養科目を学んだ上で、現代文明論へと継げます。即ち、現代文明論は、新入生が自分の大学がどんな大学かを知ることにも主眼を置いて、1年次の授業として開講していたのですが、今後は、生命倫理や環境の問題を考えるには基礎教養科目を修得した上で、ということから2年次開講へと変更する予定です。

 松前重義博士が亡くなった1991年は、ソ連共産党が解党した年であり、冷戦構造が崩壊して20世紀の社会主義の実験が終わった年です。松前重義博士は、冷戦構造の後に真の世界平和ができてくると考えていました。ところが、時代が逆行し再び戦争の脅威が世界を、特に東アジアを覆う今日、正しい歴史観や世界観に基づき、東海大学は真の世界平和に貢献できる人材を育成すべきと、改めて肝に銘じなければいけないと思います。

 

学生との距離感と教員の役割

 ――教育システムの特徴や強みは何でしょう。

 大きな特徴は三つ挙げられます。一つ目は幼稚園から大学院までの一貫教育体制、二つ目は文理融合の教養教育の充実、三つ目は少人数教育の実施です。

 一貫教育体制につきましては、付属高校から大学への入学生という視点で見ると全体の3分の1近くを一貫教育で支えています。付属高校からこれだけの数の学生が進学しているのは、少子化の時代にあって一定の学生数を確保できるという面では、経営的な強みだと思います。しかし、一貫教育が全て強みになっているのかというと、検証・改善しなければならない面も含んでいます。

 大学が育成する人材に求められる能力には、コンピテンシーとリテラシーがあります。コンピテンシーは言い換えて「人間力」と解釈すると、特に東海大学付属高校出身者はこの能力は高いと思います。しかし、一方では大学受験を省略しているために、基礎学力とでもいうべきリテラシーの面では、受験を経験している学生と比較すると若干劣ることは否めません。コンピテンシーを伸ばしつつ、リテラシーをどう担保していくのかを、75周年という節目の中で改善することが、特色を強みに変えられるかどうかのポイントだと考えています。

 文理融合の教養教育の充実につきましては、前述した全学生必修の現代文明論をコア科目に設定していることが基本となります。その上で、東海大学は北海道から九州までキャンパスを展開し、あらゆる学問分野の学部・学科を設置しているという大きな強みがあります。他学部他学科開講科目の履修はもちろん、副専攻科目で将来の可能性を広げる自由な履修システムの導入やキャンパス間留学制度など、東海大学ならではの独自の教育システムを採用しております。また、正課活動だけでなく課外活動面に目を向けましても、サークルやクラブ活動、プロジェクト活動などの大学生活を通じて、文系と理系との出会いの中で、真の意味の文理融合教育ができるのではないかと思います。

 少人数教育の実施につきましては、東海大学は約3万人の学生を抱えるマンモス大学でありながら、教員と学生の比率やクラスの大きさを考えると、リベラルアーツ型の大学と同じような組成になっております。同規模の大学ですと、教員1人に対して学生数は50〜60人くらいの比率が普通ですが、東海大学は教員1人に対しての学生数は30人以下であることは間違いありません。大規模大学でもきめ細かい教育を提供しており、いかに学生と教員の緊密度が高い大学であるかということは特色として挙げられると思います。

 また、学生と教員の比率だけでなく、教員の役割についても特色を出していこうと考えています。今までの大学の教員は、1人で教育、研究、学生指導の全ての面で能力を発揮することが期待されていました。しかし、現実的には全ての面で能力を発揮するということは、極めて難しいことです。

 そこで、東海大学では現在約1,650人の教員を抱えておりますが、各教員の役割を3つに分けることにしました。研究に専念する教員、教育と研究をバランスを取って行う教員、教育に専念する教員です。学生と教員の距離が近い大学という特色を持っておりますので、それを学生に実感してもらうことで、さらに満足度を高めたいと思っています。

 

グローバル化の鍵は中間層

 ――大学のグローバル化についてのお考えをお聞かせください。

 東海大学は国内の評価より海外の評価の方が高い大学です。2000年代、東海大学は世界大学ランキングで500位以内に入っており、一番高いときで総合226位、理系部門では86位でした。

 当時は世界大学ランキングに入っている大学は欧米の大学だけでしたが、最近はアジアの大学が怒濤(どとう)のように入ってきており、どん欲にグローバル・スタンダードを取り入れています。しかし、日本はグローバル・スタンダードの導入に出遅れており、日本の大学は世界のトレンドから取り残されています。その一例を挙げると、日本は4月を新学期にしており、以前あった9月入学という議論は尻すぼみになりました。

 残念ながら現在のところ、グローバル・スタンダードとはアメリカン・スタンダードだと思っています。英語での発信力もその理由ですが、かといってイギリスが世界大学ランキングの多数を占めているということではありません。500位以内にランキングされているイギリスの大学は約50校、しかし、アメリカは150校ほどランクインしています。その理由は、アクレディテーション(外部機関による教育機関の品質認証)制度によって、アメリカの大学はグローバル・スタンダードに叶う判定基準を備えているからでしょう。「スチューデント・アウトカム(学習成果)」や学生に親切な「スチューデント・フレンドリー・システム」などを用意していることがその要因と考えられます。

 今後は、日本の大学もグローバル化を加速していく必要があると思います。その意味では一部の上位層の大学ではなく、日本全体として大学がどれだけグローバルに活躍するかが鍵になると考えています。その理由は、これから多くの大学を卒業した者が日本のグローバル企業を中心的に支えることになるからです。企業を支えるのはトップランナーだけではありません。中間層の活躍が必要不可欠になってきます。

 英語を話している時に、例えば「三人称単数のSが抜けている」といった細かな部分を気にする必要はありません。多少文法が間違っていても、相手に意味は通じます。英語を話すことはあくまでも手段であり、目的ではありません。細かなことを気にしすぎない、図太い神経の持ち主を育成していくのが、これからのグローバル化に向けて、日本の全ての大学のミッションではないでしょうか。それを裏付けるのがアメリカのアクレディテーション(外部機関による教育機関の品質認証)だと思います。

 東海大学としては、このアメリカのアクレディテーションの取得を目指したいと思っています。東海大学のモットーは「先駆けであること」です。アクレディテーションを目指すことも、我々にとっての「先駆けであること」であります。

 

QOLに資する人材を

 ――来年4月に開設される「文化社会学部」と「健康学部」の目的は何ですか。

 2018年は75周年から100周年へ向けてのキックオフの年です。新しい節目に向かう第一歩として、新たに「文化社会学部」と「健康学部」を開設します。2018年度改組の根幹をなすのは、「QOL(生活の質)の向上に資する人材を育成する」「東海大学そのものが生活の向上に資する大学でありたい」ということです。一方で大学をマーケティングしていくという観点からすると、今までに付いている「理系」「スポーツ」といった東海大学の既存のイメージに新たなイメージをどう重ねていくかという事も重要な課題です。そこで、何をキーワードにするかという時に、今後東海大学が目指すものは「健康」「QOL」であると考えました。

 文化社会学部の目的についてですが、もともと東海大学は工学部と文学部から始まりました。現在の文学部は、人文科学系と社会科学系の様々な領域を拡大して大きくなった背景があり、純粋な人文科学系と言われる文学や哲学といった分野に、社会学や心理学、地域研究学などが追加されていきました。来年度の改組では、広範囲となった文学部を機能に合わせて2つに分け、文学部には本来のイメージに合う4学科3専攻を残し、文化社会学部には実利的な「多文化理解」「言語表現」「メディア」「自立と共生」をキーワードにした6学科を設置いたします。

 文化社会学部には地域研究系として、アジア学科、ヨーロッパ・アメリカ学科、北欧学科の3学科を設置します。学科構成を見ると、なぜ北欧なのかという疑問が生じるかもしれません。しかし、それこそが文化社会学部とQOLをつなげるキーワードです。

 歴史を紐解くと、創立者の松前重義博士は、デンマークの教育による国づくりの歴史に啓発され、1936年に東海大学の母胎となる望星学塾を開設いたしました。1968年には、後の大平正芳首相と土光敏夫経団連会長と共に、スウェーデン社会研究所を創設いたしました。この時期は高度経済成長が終焉し、その矛盾が出てきた時だったと思いますが、松前重義博士はこれから先の日本は北欧に学ぶことが多いのではないかと考えました。

 改組を検討する上で文学部北欧学科については、文化社会学部のヨーロッパ・アメリカ学科の中に北欧コースとして設置するか、独立した北欧学科として残すかの議論を重ねました。最終的には、東海大学が目指すQOLの方向性と、歴史的に関わりが深い北欧の位置づけを明確にするということで、文化社会学部北欧学科という独立した学科として残すことで結論を出しました。

 現在、日本では月末の金曜日はプレミアムフライデーですが、北欧では毎週がプレミアムフライデーのようなものです。金曜の午後3時ごろには誰も働いていません。しかし一人当たりの生産性は高く、生活にも余裕があります。出生率も低くなく、年金も破綻していません。これからの日本にとって、再考・再評価しなければならないのは北欧の社会や文化であり、我々のQOLにもその知見が生かされるのではないでしょうか。日本社会と北欧社会の違いを比較しながら、現在日本が抱えている社会問題を考えていきたいと思います。

 一方、健康学部は健康に関する包括的な人材を作ろうというのが目的です。管理栄養士、心理カウンセラー、社会福祉士といった専門に特化した人材を作るのではなく、これから日本が迎えようとする人類史上未曽有の急速な高齢化と、それに起因する諸問題を解決していける人材育成を主眼に置いています。即ち、科学的なエビデンス(根拠)に基づく食・栄養、運動・エクササイズ、メンタルヘルスに関する専門知識や技能を修得すると同時に、コミュニティ福祉や社会・経済学などの社会学的な知識をベースとしたマネジメント能力を養成し、家庭や学校、自治体、企業などそれぞれのコミュニティに必要なゼネラリストの育成を健康学部は志向していきます。

 日本は世界の中でも少子高齢化という大きな問題に早くから直面し、現在も急速に進み続けています。若者が少なくなり、高齢者が増えていくことは、日本経済や医療に与える影響だけでなく、文化や人々の生き方が変わっていくことを意味しています。厚生労働省では「2035年、日本は健康先進国へ。」というビジョンを発表し、世界に先駆けて日本全体でこの問題に向き合おうという姿勢を示していることからも、健康学部が果たす役割は大きいと考えております。

 社会で健康へのニーズが高まり、人々が考える「健康」の形も変わりつつあります。従来の身体的健康や精神的健康だけでなく、社会的健康という新たな枠組みを総合的に捉えることが、健康をマネジメントする力をより現実的な技術にしていくことに繋がります。まだ日本には健康学部という学部は一つもありません。東海大学が最初であり、4年後には日本で最初に「健康学士」という学士号を持つ卒業生が世に出て行きます。

 

 ――100周年に向け、東海大学はどのような大学を目指しますか。

 一言で申しますと、世界に存在感を示せる大学を目指します。日本の大学そのものが世界に存在感を示せていません。トヨタやホンダなどの日本企業の名前は、世界中の人々が認知し、存在感を示せていますが、日本の大学の名前を思い浮かべる人はどれほどいるでしょうか。これからの社会が知識集約社会であるならば、それを担う一つの大きな組織として、大学が世界に存在感を示さなければならないでしょう。私たちはそれを目指して100年の頂に向かってまい進していきたいと考えています。

 

東海大学 学長 山田 清志 (やまだ きよし)

学校法人東海大学常務理事。東北大学大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻単位取得満期退学。東海大学副学長などを歴任し、2014年10月より現職。