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目標は明確でなくてもいい 大学で「自分のやりたいことを見つける力」を養って欲しい 東海大学 文学部 広報メディア学科 教授
飯塚 浩一

2017年9月1日掲出

 2018年4月、東海大学湘南キャンパスに「文化社会学部」が誕生する。アジア学科、ヨーロッパ・アメリカ学科、北欧学科、文芸創作学科、広報メディア学科、心理・社会学科の6学科で編成され、「多文化理解」「言語表現」「メディア」「自立と共生」をキーワードに、多様化する社会で新しい世界を切り拓くアプローチを提案する。学部創設にかかわっている文学部広報メディア学科の飯塚浩一教授に、学部の開設理由やその特色を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 西田佐保子】

 

 ――「文化社会学部」を開設する理由をお聞かせください。

 大きく分けて2つの理由があります。一つは、18歳以下の人口が急激に減少する「2018年問題」です。日本で今後も少子化が進む中、受験生から選ばれる大学へ向けて対応が迫られており、他の多くの大学でも新学部の開設や学部の再編が行われています。

 もう一つはより積極的な理由です。01年に、文学部はそれまでの6学科を11学科に改編しました。当初は新たな学科が増えたことで活気が出ましたが、徐々に「文学部」という大きな枠組みの中で、それぞれの学科の特色の違いが外部から見えにくくなってきました。

 例えば「文芸創作学科」「広報メディア学科」など社会の具体的な課題に対応する実践力の養成を前面に出す学科と、「文明学科」「歴史学科」などの伝統的な人文科学系の学科では、カリキュラムの組み方や授業のスタイルが違ってきますが、組織が大い分、外部からその違いが見えにくくなる傾向がありました。

 そこで、文学部を母体として、異なる文化の地域から共生の精神を学ぶ「アジア学科」「ヨーロッパ・アメリカ学科」「北欧学科」の文化系3学科と、表現・メディア・コミュニケーションを学ぶ「文芸創作学科」「広報メディア学科」「心理・社会学科」の現代社会系3学科で編成される文化社会学部を開設することになりました。

 文化社会学部は、「文化」の観点から「社会」を考えます。今回の改組により、学部としてのコンセプトが明確になり、「何を学べるか」がよりクリアになったと思います。また、学部を新たに編成したことで、グローバルな視点を身につける「多文化理解」、発信力のある言葉のスキルを磨く「言語表現」、デジタル時代のコミュニケーションを考える「メディア」、社会の中の自分に向き合う「自立と共生」という特色を打ち出すことができました。

 

アジア学科
ヨーロッパ・アメリカ学科
北欧学科

 ――日本の大学では「文化社会学部」の開設は初めてとなりますが、海外ではいかがでしょうか。

 イギリスやオーストラリアをはじめとした英語圏では非常に人気のある学部です。文化社会学部は英語で「School of Cultural and Social Studies」ですが、海外では社会と文化の順が逆の「School of Social and Cultural Studies」(社会文化学部)という名称の方が一般的かもしれません。日本でも今後、文化社会学部が注目されてくると思います。

 

 ――文学部を母体としたということですが、新たに「アジア学科」「ヨーロッパ・アメリカ学科」が設置されました。

 「アジア学科」は、「歴史学科東洋史専攻」と「アジア文明学科」を統合した学科です。日本における東洋史研究は中国史研究が中核となっていますが、アジア文明学科との統合により、韓国、中国から東南アジア、インド、中東、エジプトまで研究範囲が広がります。語学にも力を入れていて、アラビア語、トルコ語、ペルシア語、ヒンディー語などの授業を設けています。「アジアの歴史と文明」「アジアの文化と社会」「アジアの言語」の観点から、現代のアジアと日本を読み解くと同時に、現代社会の問題の解決法を考え、行動する力を身につけます。

 「ヨーロッパ・アメリカ学科」は、「ヨーロッパ文明学科」と「アメリカ文明学科」を統合した学科です。常に世界に大きな影響を与え続けているヨーロッパとアメリカは、歴史的にも地域的にも広く深く、多様で複雑です。人々の営みと文化を、文学・芸術、宗教・思想、歴史・社会などさまざまな観点から学んでいきます。イタリア語、ギリシア語、ラテン語の授業も履修可能です。

 

 ――北欧学科はとても珍しい学科ですね。

 日本には一つだけです。ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、デンマーク、アイスランドの5カ国の言語と文化を学ぶことができます。グローバル化と競争社会がもたらす「格差」が先進国では問題になっていますが、北欧諸国では社会全体で格差の解消に向けた取り組みを行っています。福祉や教育、女性の社会進出などに関する北欧諸国の施策から豊かな社会のあり方を学びます。東海大学では、全ての学部でQOL (生活の質)の向上に取り組んでいますが、その目標の核となる学科だとも言えるでしょう。

 アジア学科、ヨーロッパ・アメリカ学科、北欧学科では、海外実地研修がカリキュラムに組み込まれています。海外で語学研修などを受けられるので学生に人気です。他の学科の学生も履修可能です。

 

文芸創作学科
心理・社会学科
広報メディア学科

 ――現代社会系の「文芸創作学科」「広報メディア学科」「心理・社会学科」についてご紹介いただけますか。

 文芸創作学科では、論理的でクリエイティブに表現する力を身につけます。現役の作家や脚本家、俳人による授業があり、学びの中に「現場の風」を感じることができます。連句の会、映画上映会の開催や、学生の小説やエッセイを集めて編集した雑誌『文藝工房』の発行など、文芸活動を行う場も提供しており、4年次で履修する「卒業制作ワークショップ」でそれまでの成果を発表することになります。

 心理学と社会学を学ぶ心理・社会学科では、日々の生活に必要なコミュニケーション能力と社会の課題に対する具体的な解決法を提案できる社会的構想力を養成します。「インタビュー」「社会調査」「カウンセリング」などの技法を学び、問題にアプローチしていきます。実際に人の話を聞いたり、グループディスカッションを行ったりするなど実践的な参加型授業を数多く取り入れているのが特徴です。

 広報メディア学科は、メディアの知識や技術の習得を目指した実践的なカリキュラムを編成しています。学科には収録スタジオがあり、毎週火曜日の夜8時からの30分間、ラジオ番組「こちらラジオ番組制作部」を湘南平塚コミュニティ放送(FM湘南ナパサ 78.3MHz)で生放送しています。番組のパーソナリティ、ミキサー、レポーター、企画立案、番組構成などの番組作りの全てを学生が行っています。

 同じく収録スタジオで、地域の話題を取り上げるドキュメンタリー番組「東海大ミネスタウェーブ」と、文学部の教員をゲストに迎えたトーク番組「東海Book Cafe」をそれぞれ年間6本制作し、湘南ケーブルネットワーク(神奈川県平塚市)をはじめとする全国各地のCATV局でレギュラー放送しています。「広報班スピナッチ」という学生グループは、これらの番組情報を載せたニュースレターを制作しています。また東海大学の運動部に所属する選手たちの活躍を伝えるスポーツ新聞「東海スポーツ」を発行する学生グループもいます。

 

 ――文化社会学部を卒業した学生にどのような人材になって欲しいですか

 まず、海外に一人で行っても、もの応じせずその国の人たちとコミュニケーションを取りながらたくましく生き抜く力を身につけて欲しいですね。それと、物事がうまくいかないとき、周りをおとしめて自分を浮かび上がらせるのではなく、周りの人たちの生活を豊かにすることで自分も幸せになるという志向を持って欲しいです。

 現代は競争社会ですから、社会に出ると「人を蹴落としてでも」という発想に取り囲まれます。一方、大学4年間は、競争社会から切り離された最後の時期です。こうした「競争社会から切り離されたもう一つの世界」を卒業後も自分の中に持ち続けて欲しいと思います。

 

 ――新学部を目指す高校生へのメッセージをお願いします。

 「将来の目標を決めてから学部や学科を選びなさい」と言われることが多いかもしれません。でも、高校生のうちから目標がはっきりと定まっている人は、実はそれほど多くはないだろうと私は思っています。だから目標は明確でなくても構わないので、大学を使って自分のやりたいことを見つける力を培って欲しいですね。

 例えばヨーロッパの大学には就職課はありません。在学中に就職して大学を辞めて、何年か働いてお金をためてまた大学に戻ってくる人もいます。大学は、自分がやりたいことを見つけるトレーニングの場でもあります。ぜひ大学を使って、目標を見つける力を身につけてください。

 

東海大学 文学部 広報メディア学科 教授 飯塚 浩一 (いいづか こういち)

1961年、東京都生れ。89年慶應義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士課程単位取得退学。同年、東海大学文学部広報学科広報メディア課程専任講師、95年同助教授(2001年から広報メディア学科助教授)、02年同教授。1992年4月から1年間、英国スターリング大学訪問研究員。その後、広報メディア学科主任、チャレンジセンター次長・主任、To-Collabo推進室次長を歴任。2016年から文学部長補佐。18年文化社会学部長就任予定。専門は、英国放送協会(BBC)の制度史を中心とした英国における政治とメディアの関係。最近の研究成果は「「見せる政治」とデモクラシー-2010年英国総選挙における初のテレビ党首討論会-」(『東海大学紀要文学部』第104輯、16年3月)など。