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安心安全な食を目指して効能追究 学生とともに熊本の食素材の機能性研究に取り組む日 東海大学 農学部 バイオサイエンス学科 准教授
安田 伸

2017年7月3日掲出

 超高齢社会へと到達した日本。人々の健康食品への関心が高まり、「高血圧に効く」「やせる」といった情報があふれています。しかし、中には効果の根拠があいまいなものも少なくありません。農学部の安田伸准教授は、熊本の食素材の未知なる可能性に着目し、その効能をデータで示す基礎研究を展開しています。学生も積極的に研究やデータに基づく食品加工、開発に取り組む安田研究室。熊本地震で被災した阿蘇キャンパスから熊本キャンパスに拠点を移し、再び実験に取り組む研究室をのぞいてみました。【聞き手・中嶋真希】

 

 ――「安心・安全な食を追究する」が東海大学農学部の大きなテーマです。そのテーマに向かって、農学部ではどう取り組んでいますか。

 農学部は、応用植物科学科、応用動物科学科、バイオサイエンス学科の3学科からなり、「『食』『環境』『生命』の未来をつなぐ」がキャッチフレーズ。「食の重要性」と「生命の尊さ」をよく理解した上で、最先端の科学技術を取り込みながら、食料生産について理論と実学を身につけます。白衣を着た屋内での研究から、品種改良や栽培、家畜動物の飼育方法を科学的に学び、畜産物の効率的な生産に取り組むフィールド系まで、各学科が連携し、食料生産や限りある資源利用について幅広く研究できるのが農学部の強みです。

 

 ――バイオサイエンス学科の学生さんたちはどのようなことを学んでいるのですか。

 バイオサイエンス学科では、特に食品科学と生命科学における専門知識と新技術を習得します。例えば、チーズやヨーグルトなどの発酵食品やハーブが持つ有効物質を研究やバイオテクノロジーを用いた機能性食品の開発、また食材や薬草の成分分析や菌類を培養、酵素タンパク質や遺伝子の制御メカニズムの解明を行なっています。細かい作業が得意な学生が多く、食品加工実習などを通じて食品衛生の実践的なノウハウを学び、食品メーカーの研究開発、品質管理や製造に多く就職をしています。

 

 ――安田先生の研究室では、機能性食品や食材などの有益性を調べていますね。

 食の安全・安心に対する関心は年々高まり、さまざまな健康食品や食に関する情報があふれていますが、特定保健用食品(トクホ)のように国が効果を認めたものもあれば、科学的な根拠に乏しいものもあります。食品の成分や機能を詳しく調べて、データとして表すことでその効能を科学的に示しています。最近では「機能性食品」という言葉を広く耳にすることも多くなってきたように思います。

 

 ――研究には学生が積極的に参加しているそうですね。

 学部生それぞれが興味を抱く卒業研究テーマとともに1年半、大学院修士課程に進学してプラス2年間、大学院博士課程に進学するとさらにプラス3年間、より専門的な研究を進めることになります。国内外を問わず、一緒に学会への出席や発表、学術論文を書くなど積極的に取り組んでいます。研究は、私一人で行っているものではなく、多くの学部生や大学院生との実験やディスカッションで成り立っています。

 

 ――実戦的な研究に参加するために、どのようなトレーニングを積むのですか。

 バイオサイエンス学科では1・2年次に実験の基礎を身につけ、3年次の春学期に研究室に配属されます。私たちの研究室では、3年次の当初は、まずは、4年次生や大学院生から指導を受けながら、基本的な実験を繰り返します。

 機能性食品や食の機能を研究する上で、「たまたま結果が出た」ということは絶対にあってはなりません。まずは身近な市販のお茶を使って、ポリフェノールの含量測定や、麦茶と緑茶で抗酸化作用がどれだけ違うかなどを調べています。再現できるデータが取れるまで、何度も実験を繰り返します。それは自分たちが出したデータが、「間違いでした」とはならないようにするためです。実験を重ねて、さらにデータをどう整理し解析するかというトレーニングを積みます。そして、4年次には本格的に自分自身の卒業研究を進めながら、今度は後輩に指導もします。大学院生たちもまた、実践的な研究面で大きな指導力を発揮し、後輩たちの相談相手になってくれています。

 

 ――安田先生の研究室にはどのような日常風景がありますか。いつもにぎやかなようですね。

 思うようにできない時は、「どうしてだろう」と、みんなで話し合いを行います。時には、研究室ではバーベキューなどの楽しい思い出も作りながら、一生懸命に実験に取り組み、卒業研究に臨みます。私がうれしいのは、卒業式の日に、「研究室では先輩たちから多くのことを学ぶことができ、無事に卒業できた」と振り返る学生が多いことです。先生のほか仲間や先輩・後輩らとともに過ごす時間が家族よりも長く、責任感と感謝の気持ちを持って卒業できれば、教師冥利に尽きます。「楽しい思い出作りも大切に、悔いのない学生生活を送ろう」というスタンスでやってきました。

 

 ――みんなで楽しむための仕掛けは、何がありますか。

 研究発表会後のイベントなどや、学園祭で模擬店、年末は大掃除をして忘年会をやっています。私たち研究室ではそれぞれに役職を設けています。研究室のリーダーである学生の室長と副室長や試薬の管理係のほかに、イベント・会計係、機材・備品係もいます。これらの役職は、誰がどの役に適しているかを先輩らが考えて毎年引き継いで行きます。研究活動においても、メンバー全員がそれぞれの役割を持って取り組んでいます。

 研究室の説明会で、「求める学生は、組織の一員として約束を守れる人」と必ず話します。楽しむだけでなく、仕事をする場所として認識してほしいからです。

 

 ――学生が安田先生の研究室を選ぶ理由は。

 健康に良いとされる食べ物の効果について専門的に研究したいという気持ちで選ぶ学生が多いですね。私が受け持つ食品関連の授業をきっかけに選ぶ学生もいますよ。今年3月に卒業したある学生は、「黒大豆を使ってカフェインレスのコーヒーを作りたい」と研究室への配属を希望してきました。彼の熱意に負けて、コーヒーの生豆用のロースターを買いました。大豆を焙煎して試行錯誤を繰り返し、ほのかにきなこのような甘い後味が特徴のおいしい大豆コーヒーの試作品ができました。その機能性研究もまた後輩学生が引き継いでいます。ほかにも、地域に特色ある食材を使ったハーブティーの研究開発を推進している学生もいます。

 

 ――農学部でも、ヤーコンのオリゴ糖シロップや、ムラサキイモの焼酎の粕(かす)を利用したデザートソースなどが開発されていますね。

 これらは複数の農学部の教員が、それぞれの専門を生かして開発したものです。私たちは機能性を調べる担当で、学生たちも一緒に、卒業研究のテーマとして原材料や製品のポリフェノールの含量の測定や、効能などを調べてきました。もちろん、試食して、味を調べるのも大事な仕事です(笑い)。

 ものづくりの技術修得は、学生に大きな自信を与えます。バイオサイエンス学科では、食品の加工・製造実習に力を入れています。1年次の食品加工基礎実習ではこんにゃくやマヨネーズなどの製造、3年次の食品加工実習ではソーセージなどの肉の加工やチーズの製造を行なっています。

 

 ――「健康食品管理士」の資格取得にも力を入れていますね。

 昨今の健康食品をめぐる問題は非常に大きなものがあります。過去に、「これを食べるとやせる」というテレビの特集の後で、調理方法を間違って多数の健康被害が出たということがありました。薬なら薬剤師、食事なら栄養士と専門家がいますが、健康食品に関して正しい情報を発する国家資格はなく、本当に効果があるのか、安全性は大丈夫なのか、医薬品との関係はどうなっているのか、本当に必要な人が摂取しているのか、などの面で「食の効能、安全・安心」を科学的に判断できる人材の養成が急務になっています。

 今まで健康食品は、「これに効く」とはっきり言えませんでした。それが、研究データとして「こういう人に効果が期待できます」と言えるようになったのが、トクホ。例えば、トクホは1回飲んだからといってすぐに効果が現れるようなものとして開発されたものではありません。高血圧や肥満に悩む方が、一定期間、目安量を毎日摂取または飲み続けることで期待される効果が出てきます。最近では、2015年4月に、食品表示法の制定ととともに、従来のトクホに加えて「機能性表示食品」が新たに市場に出回るようになってきました。トクホなどを日常生活にどう取り入れたらいいのかなど、いわゆる健康食品だけでなくトクホなどの保健機能食品についてもアドバイザリースタッフとして専門家が必要になりました。そこで、医師・薬剤師・臨床検査技師・管理栄養士等を養成する大学教員の有志により、健康食品管理士認定協会(現日本食品安全協会)が設立され、この民間資格「健康食品管理士」が生まれました。

 「健康食品管理士」の認定試験は、医師や薬剤師、栄養士、臨床検査技師など、国家資格を持っている人でないと受験できませんが、東海大学農学部は養成校として認定されているため、特定の授業を受けて指定単位を修得すれば3年次以上の学生が受験できます。これは、本学農学部が国家資格である「食品衛生監視員・管理者任用資格」の養成校として「食の安全・安心」を学ぶことができる教育プログラムを配していることにも関連しています。認定試験では、通常の一般的な農学部では習うことがない疾患と病態解析、薬事法関連法規、医薬品と食品の相互作用などの臨床分野も試験に出ます。

 

熊本地震を乗り越えて

 ――昨年(2016年)4月、熊本地震があり、農学部のあった阿蘇キャンパスは、大きな被害を受けました。

 昨夏、農学部の拠点が熊本キャンパスに移り教育研究を再開しました。昨年の春学期は休講期間も長かったため、135分授業(通常は90分授業)という類を見ない授業を行いました。教職員ならびに学生皆で力を合わせて遅れを取り戻し、また教育研究の環境整備などの復旧活動にも取り組みました。実学尊重で学んでいる農学部の学生たちには、団結力も生まれて、現在でも「勉学」・「課外活動」・「研究」・「就職活動」と、毎日有意義な学生生活を元気に送っています。

 

 ――農学部を目指す高校生には、どんな学生生活を過ごしてほしいですか。

 「やらされてる」と思ったら、なかなか次につながりません。私の研究室では、自分から何がやりたいか、何ができるのか考えてもらうようにしています。自ら動けば、周囲の人たちもサポートしてくれます。それに、研究だけではなく、先生や仲間との出会いがあります。研究室のフェイスブックページ(https://www.facebook.com/SHOKUKI2525/)がありますので、覗いてみてください。雰囲気が伝わると思いますよ。組織の一員としてたくさんのことを先輩たちからも学び、かつ、たくさん遊ぶことで、「自ら考える力」、「集い力」、「挑み力」、「成し遂げ力」の本学の目標である「4つの力」を身に付けて卒業し、また新しい場所で活躍する。そういう自覚を持って、がんばってもらいたいですね。

 

学生たちのテーマは?

 安田先生の話を聞くかたわら、多くの学生が研究活動に取り組んでいました。どんなテーマで研究を行なっているのでしょうか。研究室の学生たちに話を聞いてみました。

 地元である熊本の伝統的な肥後野菜について研究している学部4年次生は、「スイセンジナなど、熊本の伝統野菜の機能性を調べ、広めることで、保全活動にも広がるのでは」と期待しています。研究室での生活については、「メンバーの仲が良いのが自慢で、実験で失敗したり、たとえ就職活動で忙しくても、お互いにカバーして支え合っています。」と語ってくれました。

 また、ヤーコンの機能性について調べている博士課程1年次の学生は、「抗炎症や、抗糖尿病作用が期待されるヤーコンは、熊本県内では菊池市で栽培されています。1株あたり2~3キロのイモ部分が収穫でき、生ジュースやアイスクリーム、シロップなどに加工されますが、2~3キロある地上部、特に1キロもある葉は食材としてはまだまだ多くが有効利用されていません。そこで、お茶に加工することによって成分がどう変わるのか、品種によって機能性にどの程度違いがあるのかを研究しています。」と話します。また、「研究が盛んになることで、よりヤーコンへの健康面での理解と需要も高まるとともに、さらに研究が進み売上が伸びれば経済効果にも期待できるのではないか」と話してくれました。

 修士課程2年次生の学生は、食品の機能性だけでなく、薬やアミノ酸などの代謝物の研究にも取り組んでおり、薬を飲んだ時、体の中で起こる反応について研究しています。解熱鎮痛薬が体の中で代謝された時の作用について研究しているこの学生は、「先輩が研究する姿を見て、『先輩たちと一緒にもっと研究して見識を広めたい』と大学院に進みました」と話します。また、一緒にアミノ酸代謝物の研究している4年次の男子学生は、「代謝後のアミノ酸の化学構造の違いがもたらす機能性の変化について研究を進めています。」と説明してくれました。

 このように安田研究室では、先生と学生が一丸となって、「安心安全な食を目指した効能研究」、「熊本の食素材の機能性研究」、「薬物代謝研究」を行なっており、賑やかに研究室での活動に取り組んでいるとのことです。

 

東海大学 農学部 バイオサイエンス学科 准教授 安田 伸 (やすだ しん)

1976年、沖縄県出身。岡山大学農学部卒ならびに修士卒、2004年九州大学大学院生物資源環境科学府食糧科学分野修了。博士(農学)。米国の教育研究機関で4年間の博士研究員の実務を経て、2008年から東海大学農学部バイオサイエンス学科に赴任。食品機能科学研究室を運営。2011年、国際食品保健因子大会で若手研究奨励賞を、2017年、学校法人東海大学の創立者を記念した松前重義学術奨励賞を受賞。上級健康食品管理士。現在、「食品素材の機能性に関する研究」と「生理活性物質の機能性と代謝調節」、「代謝物の機能性」に関する研究に取り組んでいる。