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防災にICT活用 「自助共助」の仕組み構築へ 東海大学 情報理工学部 情報科学科 教授
内田 理

2017年5月1日掲出

 東日本大震災を経験し、各分野で防災・減災への取り組みが広がっている。しかし、大きな災害がまた起きた時、状況判断と的確な行動に不可欠な情報は迅速に得られるのだろうか。ツイッターを活用した災害情報システム「DITS」を研究する情報理工学部の内田理教授に、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を活用した防災研究の取り組みを聞いた。【デジタル編集部・江刺弘子】

 

 ――情報科学を専門とする先生が災害情報システムに取り組むようになったきっかけは?

 東日本大震災が発生した時に、ツイッターを始めとするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の活用事例が多数報道されました。私の研究室でも学生から災害時のSNS活用の研究をやってみたいと声があがったのがきっかけです。

 研究室は「安全・安心・快適な社会を情報科学の力で実現する」をモットーとしており、災害情報システムの研究も進めるべきだと思いました。

 災害情報システムといっても様々ありますが、私が主に取り組んでいるのは、災害が発生した時に、ツイッターを使って被災者自身が災害の状況を発信したり、行政などがその情報を収集し、必要な人に届けるといった「自助・共助」を促すシステムです。

 

位置情報埋め込み、状況把握を迅速化

 ――その一つが災害情報システム「DITS」ですね。

 私の研究室が開発したDITS(Disaster Information Tweeting System)は、ツイッターを活用した災害情報投稿システムです。

 災害時のツイート活用といっても、いざやろうとすると難しいのが現状です。東日本大震災が起きた2011年3月11日は、日本全国で約3300万のツイートがありました。この膨大なビッグデータから有効な情報を引き出し、さらにその情報がツイートされた場所を特定することは困難です。

 私自身、当初は3月11日のデータを分析し、地図上にツイートを表示する研究をしていましたが、行き詰まってしまいました。ツイートの文言だけでは、災害現場の位置が特定できません。たとえば広域災害が起きた時、「第一小学校に避難所開設」とツイートがあっても、「第一小」は全国どこでもあります。また、外出先など不慣れな場所にいた場合、投稿者自身が現在地を認識できず、ツイート内に正確な住所を書き込むことは難しいと思います。

 

 ――「DITS」の特徴は?

 このアプリでツイートすると、位置情報が自動で埋め込まれることです。

 DITSでユーザーがスマートフォンから入力するのは、ツイートの文言だけですが、スマホのGPS機能をオンにしていれば自動的に「神奈川県平塚市北金目4-1」といった現在地の位置情報と「#平塚市災害」というハッシュタグ(目印)がつきます。

 さらに位置を表すUTMポイントと呼ばれる座標も埋め込まれます。UTMポイントは世界で利用されており、自衛隊もこの座標を活用しています。栃木県那須町のスキー場で起きた雪崩事故のように、一つの住所が広範囲を示す場合、UTMポイントによって救助に向かうためのより正確な位置が特定できるのです。(画像1)

 DITSからの投稿は地図上にアイコンで表示されるため、「この道は陥没している」「停電している」といった情報を直観的に得ることができます。より多くの人がDITSを通して情報を発信するようになれば、住民自ら判断し行動することが可能になります。(画像2)

 一方、行政は迅速に状況を把握でき、的確な指示を出すことにつながります。また、ツイートはDITS内にクローズされているのではなく、ごく一般的なツイッターのクライアントで見ることができるオープンなデータです。これも大きな特徴の一つでしょう。

 

 ――簡単にツイートすることへの不安や懸念もあるのでは?

 投稿者の位置情報が自動的につくことで、個人情報保護の観点から否定的にとらえる方もいます。しかし私は、災害時は積極的に自分の位置情報を出したほうがいいと考えます。電話で連絡がとれなくても、ツイッターの投稿で生存を確認できた事例もあります。安否確認の意味を含めてツイッターに投稿することには意味があると思います。

 またデマへの懸念もあるでしょう。しかしそれ以上にツイートを活用することで、従来なら取ることができなかった災害対応が可能になると思います。マスコミの報道はとても多くの人に伝わりますが、きめ細やかなリアルタイムの情報は漏れが生じる懸念があります。一方SNSは一人ひとりのニーズにあった情報提供を行うことができ、マスコミでは伝えきれない情報を補完するメディアになり得ると考えます。

 

 ――DITSの活用が、神奈川県の政策提案制度に選定されました。

 神奈川県が大学からの政策提言を募集し、共同で取り組む事業を決める「大学発・政策提案制度」で、DITSをはじめとするICTを活用した若年層への防災教育が最優秀提案に選ばれました。

 内閣府が「防災教育へ参加したり見学した」経験の有無を調査したところ、参加したと答え人が全体で39.2%なのに対して、20代は27.6%と大きく減っています。また20代の39%が「訓練の実施を知らなかった」と回答しています。若い人への防災の意識付けが急務で、その一つの方法としてICTの活用があるのです。若者にとってスマホは日常的に使うもので、それを利用して防災教育を進め、意識付けするようにしていきたいと考えました。

 さらにデマ情報を流すとどれだけ危険なのかといったような、情報リテラシー教育も展開できます。

 

 ――災害時、ICTの活用で期待されることは?

 一つの例ですが、国の第5期科学技術基本計画(平成28~32年度)では、「防災に関して早期に被害状況を把握し、国民の安全な避難情報に資する技術や、迅速な復旧を可能とする技術などの研究開発推進する。災害情報をリアルタイムで共有し、利活用する仕組みの構築を推進する。」といったことが記されています。これこそがまさにICTの出番です。

 東日本大震災から6年しかたっていませんが、スマホの普及は格段に上昇し、当時では入手できなかった情報も、今ではスマホを通して得ることができます。

 最近ではドローンの活用も注目されています。土砂災害などは、高い視点からの現状確認が重要で、かつ可能な限りリアルタイムであることが求められます。ドローンの映像のよる状況把握は、ICTの活用といっていいでしょう。

 人工知能(AI)もさらに活用されるでしょう。状況に即して一人一人に適切な情報を配信する。きめ細やかな情報提供こそがICTに期待され、研究を進めていくことは、自然災害大国・日本にとってとても大切なことです。

 

 ――災害時のICT活用の課題は?

 DITSを使った神奈川県の防災訓練には、多くの方が協力してくれました。しかし、特に高齢者の中にはスマホ操作になれていない方もいらっしゃいました。そうすると情報格差が生まれ、情報弱者がそのまま災害弱者になってしまう懸念があります。電子媒体を使えず、情報を得ることができない人たちにも、なんとかうまく扱ってもらうインターフェースを考えていかなければいけません。

 また電子媒体がなくても情報をうまく受け取るような仕組みを作っていくことも重要なテーマです。たとえば公民館にデジタルサイネージを用意して、情報発信は若い人が担当するといったことも一案でしょう。こうしたことは大学の研究だけではやっていけず、行政を巻き込む必要があります。避難伝達の指示を可視化するなどし、逃げ遅れによる死者をなくしたいと願っています。

 

グローカルな防災システムで世界貢献

 ――ICTを活用した防災、海外ではどうでしょうか

 2013年のフィリピンを襲った台風30号「ハイエン」では、ICTが大いに活用されました。被災地からのツイートを世界中の人が協力して地図上にプロットし、迅速に災害マップを作ったのです。熊本地震の時は発生の数分後に慶応義塾大学の学生が被災者支援マップの作成を始めたと聞いています。これは世界のムーブメントになっています。

 東海大では、学内の防災研究を世界展開する取り組みとして、文科省の「平成28年度 私立大学研究ブランディング事業」に応募し、防災に関するグローカルなシステム構築のプランが選定されました。

 たとえば衛星では津波被害の全体像はわかりますが、個々の細かな状況はわかりません。そこを補完するのがSNSです。衛星を使った東海大の環境監視研究と、私が取り組むSNSを使ったシステム、これまでそれぞれ独立して行われてきた研究を組み合わせることによって、今までとは異なる安全安心対策に貢献できるのではと考えています。

 

個別の状況にあった災害情報の配信めざす

 ――今後の研究テーマを教えてください。

 一人一人の状況に応じた災害情報の配信システムを確立したいと思っています。それは、究極的な防災情報のパーソナライズです。まずは、例えば被災した場所が自宅か外出先かで、受け取る情報を変えるようなシステムを構築したいと考えています。個々のその時々の状況はスマホのセンサーで判断します。例えば、電車の中で被災した時は、乗車している路線の運行情報を届ける、海岸近くにいる場合には津波に関する警報等を届ける、また別の所でも、といったようなことを実現したいです。

 まだまだ越えなければいけないハードルがたくさんありますが、実現できるところから一つずつやっていって、課題を乗り越えていきたいです。

 

 ――学生へのメッセージをお願いします。

 世の中のさまざまな問題をだれかに解決してもらうのを待つのではなく、自分で解決する気持ちを持ってください。普段からスマホばかり見ているのではなく、顔をあげて、世の中を見てみてください。自分一人の力では解決するには難しいものもあるかもしれませんが、「自分だったらこういった方法がとれるなあ」と、日ごろからか問題意識を持っていてください。

 東海大には「自ら考える力」「集い力」「挑み力」「成し遂げ力」の育成する4つの力があります。この4つを身につけて社会に出てください。

 

東海大学 情報理工学部 情報科学科 教授 内田 理 (うちだ おさむ)

1973年、神奈川県出身。明治大学理工学部卒、北陸先端科学技術大学院大学博士前期課程修了、 電気通信大学大学院博士後期課程修了。博士(工学)。神奈川工科大学助手、本学電子情報学部 講師を経て現職。現在は主に災害情報システムに関する研究に取り組んでいる。