オピニオン

楽しみながらフランス語を習得 最大限の成果を上げる工夫と取り組 東海大学 国際教育センター国際言語教育部門 教授
惟村 宣明

2017年4月3日掲出

 東海大学国際教育センターでフランス語を教える惟村宣明教授は、徹底的に基礎をたたき込みながらも、学生が楽しみながらフランス語を習得できる仕組みを模索してきた。2013年以降深井陽介准教授と息の合ったコンビを組み、同大の仏検受検者はこの2年で200人を超え、主宰するフランス語教育振興協会から文部科学大臣賞・団体賞が贈られたほか、昨年の「全日本学生フランス語弁論大会」では同大学生が優勝。そのほかにも、“戦隊モノ”の映画をフランス語で製作するなど、常に新しいことに挑戦している。フランス語専門の学科がないことを不利とせず、第二外国語の枠組みで最大限の成果を上げてきた。その工夫と取り組みを聞いた。【デジタル編集部・中嶋真希】

 

 ――2005年前後にフランス語の履修者が減り、仏検や弁論大会に取り組むことで学生を増やしたそうですね。

 カリキュラム改訂があり、新体制になったのが01年ごろ。第二外国語が必修ではなくなり、自主的に履修する学生が減りました。そこで、学生の学習動機を高めようと、さまざまな工夫をしました。

 私が教員になったころは学生に留学を勧めていましたが、全員が行けるわけではない。しかし、仏検なら誰もが受験することができます。「半年勉強して5級」「1年勉強して4級」というのをわかりやすい目標として提示したところ、徐々に履修者の数が増えていきました。「仏検に合格したことを履歴書に書いたら就職活動でも認められた」という情報が学生たちにも伝わり始めたからです。特に13年になって跳ね上がったのは、新たに深井陽介先生が加わって2人体制になり、こうした情報がうまく伝わったからです。

 

 ――年々、仏検受検者と、合格者の数が増えています。このデータを見ると、熱心な学生の姿勢が浮かんできます。かつての、「フランス語は必修だから取らなければならない」という態度の学生は減っているのではないでしょうか。

 自ら志願して学ぼうという学生が増えています。ただ、私たちは、「フランス語は、楽してできますよ」ということは言いません。楽しく学びますが、勉強するときはしっかりやらないといけないと伝えています。そういう方針でやっているうちに、楽しいと思った学生が翌年も残るようになって、徐々に成果が出てきました。

 

 ――フランス語は、基礎として覚えることが山積みです。そこを乗り越えた時におもしろさがわかるのではないでしょうか。

 その通りです。英語にはない文法の習慣や、日本語にはない癖に慣れるまでには、急坂を上らなければなりません。フランス語は動詞が活用します。それをクラスで「Je mets(ジュメ)、Tu mets(チュメ)、Il met(イルメ)…」なんて大きな声を出して覚えさせて、46個の動詞の変化を覚えさせます。半年もやると、「フランス語がわかるようになってきた」という安心感が生まれる。急坂を上った学生には、さらに充実したトレーニングをさせます。

 

 ――急坂を上らせる工夫はありますか。

 グループ学習です。クラスには30人くらいの学生がいて、理系も文系も体育系もいます。その学生たちにグループを作らせて、一緒に学習し、議論させます。サークルのような雰囲気で、授業が終わると勉強会と称して誰かの家に集まって、朝まで語るなんてことがあるようですよ。毎回小テストをやって鍛えますが、苦しいだけじゃ学生は脱落してしまいます。つらい急坂のトレーニングをしているうちに、仲間ができるという体制を整え、さらに上を目指していきます。

 

 ――さらに仏検を受けることで実践的な力が身につきますね。

 3級に合格すれば基本ができているということになります。2級、準2級に受かれば、ある程度の情報は理解できるという目安になります。ただ、口頭の試験が準2級からしかありませんし、準2級でも、絵を見て簡単な質問に答えるというもの。会話力に関しては、仏検は弱いところがあります。2級を取っても、フランス人と自由に会話できるとは限りません。

 

 ――そこで、弁論大会に出場することでコミュニケーション能力を強化しているのですか。

 そうです。自分の意見をしっかり述べるという能力を身につける上でも、非常に役に立ちます。弁論大会では、質疑応答もありますから、質問に対して素早く答える力も鍛えられます。

 

 ――すごい練習量になるのでは。

 大会が近くになってくると、相当な量です。かつて、京都の大会で優勝した学生は、「納得いかないからもっと練習する」と言って、「もう門が閉まりますよ」なんて言われる時間まで練習していました。それくらい、非常に熱心ですね。

 

 ――弁論大会に出るには、どのような準備が必要ですか。

 まず日本語で、何を話したいかを書かせます。最初に日本語で書くことにこだわるのは、日本語の内容があいまいなままだと、フランス語に訳した時に、何を言いたいのかわからない文章になってしまうからです。たとえば日本語で、「よろしくお願いします」というのは、フランス語には訳すことができません。フランス語はもっと具体的に、「この人は初めてフランスに行くので、電車の乗り方を教えてあげてください」と、具体的なお願いがないと「よろしくお願いします」にはならないのです。日本語のようにもとがあいまいなものを明確なフランス語に訳す努力は大変です。次にフランス語の原稿を作成し、フランス人の先生に見てもらいます。「こういう表現はしないよ」と直してもらうことは、非常に学生にとってためになります。そこから先は、弁論のトレーニングです。

 

 ――それだけ大変でも、学生が自主的に大会に出場しているのはすごいことですね。

 「つらいから、やめたい」という学生ももちろんいます。しかし、それでも参加すれば、評価されて、ほかの大学のフランス人の先生から「君のスピーチは素晴らしかった」などと言われることもあります。後輩たちは、「あんなきついこと、私にはできない」と言いますがが、先輩たちが、「いや、やったほうがいいよ」と背中を押してくれるんです。

 

「フランス語が専門じゃないけど」がこれからの国際化

 ――フランス語を身につけた学生は、次のステップとして何を目指すのですか?

 国際的な仕事をしたいという学生は多いですね。去年卒業した学生は、英語はTOEIC980点、フランス語は仏検2級を持っていて、国連関係の仕事がしたいとロンドン大マスターコースに留学しました。仏検の取り組みを始める前の卒業生ですが、フランスの有名なワイナリーで働く人もいます。今年、フランス政府給費留学に合格した航空工学の学生は、将来はフランスで働きたいと言っています。

 

 ――フランス語専門の学部学科がない中で、フランスに理解を深め、ここまでやるのはすごいですね。

 これは、深井先生と私の挑戦でもあります。フランス語を話せるのは、仏文科、フランス語学科出身の人たちというのでは、おもしろくない。ほかの学問を勉強している人たちが話せるようになるほうが、今後の国際化には必要なことと考えてます。「フランス語が専門じゃないけど、フランス語もできます」という学生を育ててフランス語教育の世界にも挑戦したかったですし、日本全体にも提案したかったのです。深井先生は来年度から別の大学に行きますが、これからもチームとしてフランス語教育に挑戦していきます。

 

カミュの故郷で見た自然

 ――先生がフランス語と出合ったきっかけは?

 最初は、理系志望でした。中学生の時、国語の先生に「もっと本を読みなさい」と言われて、図書館で借りて小説を読んだくらい。それが文学との出会いではありましたが、文系に進むとは考えていなかったですね。高校に入って、悩む年ごろにヘルマン・ヘッセと出会い、「自分のことが書いてある。こんな表現ができる世界に行きたいな」と思いました。そこで、理系から文系に進路を変えました。

 フランスのヴェルコールという作家の「海の沈黙」という第二次世界大戦のころのレジスタンス文学を読んだ時に、主人公が「ドイツにはゲーテ、イギリスにはシェイクスピアがいる。ところがどうだろう、フランスにはこれだけいるじゃないか」と、ユゴーやバルザックの名前を挙げる場面があります。そこで、「あ、これだ」と。私は、日本の私小説がどうも苦手でした。しかし、フランスの文学は客観的に物を見ようとしている。それで、フランス文学に決めました。

 

 ――大学院では、フランスに留学もしたそうですね。

 カミュの研究をしていたので、本場が見たいと思い、1984年から2年間、留学しました。いざフランスに行ったら、昔の勉強の仕方ですから、まるっきり話せない。観光案内所で地図をもらおうとしたら、「あなたのフランス語はよくわからないから、英語にしてもらえませんか」と言われてしまいました。5年は勉強していたのでショックでしたね。

 

 ――実際に滞在して、カミュをより理解できましたか?

 フランスからカミュの故郷アルジェリアを訪れたら、一目瞭然でしたね。とても美しい国でした。カスバ地区から見下ろした美しい青い海。ところが、人々は貧しい。貧しさと美しさが同居する世界は、異邦人の魅力。それがすぐにわかりました。

 アルジェリアは、当時は社会主義政権で、矛盾を抱えた国でしたが、エネルギーを持っていました。ちょっと気が合えば、「ホテルに泊まるのはもったいないから、おれの家に来いよ」「おれとお前は兄弟だ」というノリで接してくれる。そんな素朴な国からフランスに戻ると、熟成しているけれど、すれてしまっているとも感じました。

 

 ――学生にも、そのような経験をしてほしいですか?

 はい。学生にも、留学しなさい、フランス語の腕前を上げなさいと言っています。私のように5年もフランス語を勉強したのに「話せません」なんてことはダメです。だから、授業では会話に力を入れています。

 基礎である文法もしっかり教えますが、実践的な会話を芝居で教えます。みんなであるシチュエーションを芝居してみることにしました。最初は、学生たちは恥ずかしがっていましたが、だんだん楽しんで、「自分でアレンジしてみて」というと、もう喜んでアドリブを入れてきます。その延長で、深井先生の提案のもと映画を作ることとなり、「東海ヌーベルバーグ」というのを始めました。学生たちが「戦隊モノ」をおもしろおかしく、フランス語でやっています。その動画をユーチューブにもアップしています。

 

 ――大学進学を目指す高校生に、アドバイスはありますか?

 大学生活はアクティブに、いろんな可能性に挑戦してほしいです。フランス語じゃなくてもいいんです。人に語れる大学生活を送ってほしいです。おもしろい例がありますよ。大学4年間をのんびり過ごした学生が就職活動で大学時代の活動について何か書けといわれた時に、何も書くことがないという話になったそうなんです。ところが、うちの学生たちは、書くことがありすぎて、書ききれないとか、小さい文字でないとおさまらないと言う。

 本人の人生観にとっても大切なことだと思います。大学生活を振り返って、これはやったぞと思えることがあるかどうか。密な時間を過ごすためには、楽しいことばかりではありません。私たちのモットーは、やるときは徹底してやること。体育会系フランス語ですから、朝から晩まで、一日8時間は勉強しろと言っています。去年、ソルボンヌ大学の修士過程に進んだ子は、その教えを守っていました。きついと思います。泣いて帰らない学生はいないです。でも、楽しいときは、徹底的にバカ騒ぎです。

 フランス人も、遊ぶときは“モーレツ”。仕事をするときもすごいです。やるときはやる。これ、私がフランスで学んだことです。

 

東海大学 国際教育センター国際言語教育部門 教授 惟村 宣明 (これむら のぶあき)

1955年、静岡県出身。武蔵大学人文学部卒、東海大学大学院文学研究科文明研究専攻博士前期課程修了、同博士後期課程を満期退学。東海大学外国語教育センター助手を経て現職。専門はフランス文学、フランス語教育学。