オピニオン

急増する若い女性の子宮がん、卵巣がん 予防と早期発見で患者を救いたい 東海大学 医学部医学科専門診療学系(産婦人科学) 講師(医学部付属病院病棟医長)
信田 政子

2017年1月5日掲出

世界の人に影響を与えた「今年の女性100人」に、乳がんと闘いながら妻として母としての思いを日々ブログにつづっている、フリーアナウンサーの小林麻央さんが選ばれた。麻央さんに限らず、女性特有のがんに侵される人は近年増加傾向にある。日々、そうした患者さんに向き合っている東海大学医学部医学科専門診療学系(産婦人科学)の信田政子講師(医学部付属病院病棟医長)に、婦人科がんと産婦人科医の現状について聞いた。【聞き手・小松やしほ】

 

 ――産婦人科の診療内容と体制について教えてください。

 東海大学医学部付属病院産婦人科は、「産科」「生殖・内分泌」「婦人科腫瘍」の三つの部門に分かれており、総勢23人ほどのスタッフで診療にあたっています。具体的な業務といたしましては、産科は一般のお産からハイリスク妊娠までお産全般を取り扱い、生殖・内分泌は不妊治療や更年期障害などの相談も行っています。婦人科腫瘍は主に悪性腫瘍の手術、治療を担当しています。

 

 ――先生のご専門の婦人科腫瘍部門は、悪性腫瘍の手術、治療を担当されるとのことですが、悪性腫瘍とはどのようなものでしょうか。

 体にできる、正常と異なる組織のかたまりを「腫瘍」といいます。腫瘍は、異常な細胞が過剰に増えることにより発生し、その性質の違いにより「良性腫瘍」と「悪性腫瘍」の2種類に分かれます。このうち、私たちが「がん」と呼んでいるのは「悪性腫瘍」の方です。悪性腫瘍の場合、細胞が広がるときには周囲の組織に食い込んでいき、細胞の増殖スピードは比較的速く、転移することもあります。また、一度取り除いても再発するケースもみられ、生命に関わるものです。婦人科が扱っている悪性腫瘍は、子宮がん、卵巣がんなどが主なものとなります。その他非常にまれですが、腟がん、卵管がん、腹膜がんなどがあげられます。

 

 ――やはり子宮がん、卵巣がんが多いのですね。

 婦人科がんと言いますと、子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんが主なものとなっています。子宮は赤ちゃんが育つ「体部」と、入り口部分の「頸部」とに分けられます。体部にできるのが子宮体がん、赤ちゃんが通ってくる産道の部分にできるのが子宮頸がんです。

 

 ――最近の婦人科がんの傾向について教えていただけますか。

 婦人科悪性腫瘍のなかで多いのは子宮頸がんですが、日本ではここ10~20年ほどは子宮体がんが増加傾向にあります。先進国の中でも日本では子宮頸がんも減少傾向にはありません。特に、若年層に子宮頸がんが増えていることが、産婦人科医の間で問題視されています。

 

 ――なぜ頸がんが若い人に増えているのでしょう。

 明言はできませんが、恐らく性交渉開始年齢が早くなってきたということと、特に若い女性が婦人科検診になかなか行かないことが原因と考えられます。また、ワクチン接種が進んでいないことも影響しているかもしれません。より多くの人に検診に来ていただけるよう産婦人科医は検診の重要性を伝えていく必要があると思っています。

 

 ――頸がんワクチンをめぐっては、接種により健康被害が生じたとして、国とメーカーを相手取った集団訴訟が起こされています。

 頸がんはヒトパピローマウイルスが関係していると分かっています。ヒトパピローマウイルスにほとんどの女性が一度は感染すると言われています。検診に来ていただいて早期に発見することができれば、子宮摘出以外の治療法も考えられます。若い人で進行してしまうと、これから結婚、出産というライフステージが待っていますが、子宮を取らざるを得ない場合があります。

 副反応などの問題もあるようですが、若くして進行子宮頸がんが見つかり治療のかいなく亡くなっていく人が増えているという実感があります。小児期にワクチンを打っていれば、頸がんにならなかったのではないか、少なくとも子宮や命を失わず、救うことができたのではないかと歯痒さを感じます。年を取っているからいいというわけではもちろんありませんが、やはりまだ結婚もしておらず、子どももいない年代の方が亡くなるのは本当につらいです。私たち産婦人科医としては、原因が分かっているので、きちんと対応していただければ、本当に多くの頸がん患者さんが救えると思うのです。

 

 ――小林麻央さんはじめ著名人女性が乳がんや子宮がんなど婦人科系がんであることを公表する例が増えています。女性のがんに対する社会の意識も変わってきているのでしょうか。

 著名人ががんを公表されるのは大変に勇気が必要だと思います。実際には、著名人が公表されると、検診にいらっしゃる方が増えます。

 私が医師になった当時は、がんと告知せずに抗がん剤の治療をしている患者さんが結構いらっしゃいましたが、今は必ず告知します。告知することで、患者さんもご家族ももちろん動揺されますが、お互いグレーゾーンがあると信頼関係は築けませんし、治療を理解し、前向きに取り組んでいただけると思っています。告知をして患者さんやご家族にとって不利益だったという経験はほとんどありません。

 残念ながら再発したり、かなり進行している場合でも、現状(命に限りのあること)のお話をします。完治は難しいと説明をした場合、積極的な治療はせずに、病院に縛られることなく、自分の生活を楽しみたいという方もなかにはいらっしゃいます。患者さん自身で選択できることも増えたと思います。

 

 ――麻央さんもQOL(クオリティー・オブ・ライフ、生活の質)向上のための手術をしたと公表していました。

 私たちのような大学病院の医師はどうしても治療優先になりがちです。患者さんに一日でも長く生きてほしい、治ってほしいという思いが前面に出すぎてしまうのかもしれません。麻央さんの例を見聞きしますと、患者さんのことを身近にみてくれて、些細なことでも気になることがあれば相談できるホームドクターのような方がいてくださると、より良い方向に向かうのではないかと思います。

 最初は多くの患者さんが、がんセンターのような有名な大きな病院に行きたがります。しかし、うまく歯車がかみ合えばいいのですが、なかなかその病院の医療体制と合わないということで、治療から脱落してしまうような人もいます。そういう患者さんに、もっと近い存在の医師がいらっしゃると、治療に前向きになってもらえるのではないかと思います。

 

 ――東海大学医学部付属病院は神奈川県西部エリアで随一の規模を有する病院です。地域における安心にもつながっているのではないでしょうか。

 そう思っていただけると幸いです。しかし、最近は近隣で総合病院と呼ばれているような規模の病院でも医師の数が減ってきて、患者さんの数に対して医師不足が問題となっております。

 

 ――産婦人科医が少なくなっていると言われて久しいですが、現状はいかがですか。

 産婦人科医になる人は少ない中、今や半分以上が女性です。医師にも自分の人生があり、結婚、出産などを経て通常通りの働き方をするのはなかなか難しいのが現状です。

 こういう状態があと10年続くと、お産を取る人がどれぐらい残るのだろうと不安に思います。

 

 ――東海大の医学部生の中で産婦人科を希望する人はどれぐらいですか。

 東海大では5年生のときに研修で各科を回ります。その際は好印象を持ってくれる学生はいるのですが、本学で産婦人科医になる学生は約100人の中で1人、2人ですね。どのようにすれば産婦人科医が増えてくれるのか、私たちも模索中です。

 

 ――先生はなぜ産婦人科医になり、婦人科腫瘍を専門になさったのですか。

 もともとは内科を希望して初期研修をしていたのですが、産婦人科で出産を見て、感銘を受けて産婦人科医になりました。腫瘍を専門にしたのは、とても心に残る患者さんとの出会いでした。この患者さんとの出会いで、自分が治療することだけで満足するのではなく、患者さんとしっかり向き合うことができ、さまざまなことに気づかせてもらいました。

 

 ――現在取り組まれている課題はなんでしょう。

 卵巣がん、卵管がん、腹膜がんのもとは同じで、卵管の上皮というところから発生して、そこから卵巣や腹膜に出て行ってがんになるのではないかと考えられています。卵巣がんはサイレントキラーと言われるほど、自覚症状がほとんどありません。おなかが張ってきたなと思って病院にいらした時には、腹膜播種(はしゅ)といっておなかの中にがんが散らばっていて、たまった腹水の中にがんがプカプカ浮いている状態で見つかるのが8割です。そうなると卵巣がんのⅢ期。進行がんで見つかることが多いので、予防や早期発見の方法を模索しています。最近、卵管を結紮(けっさつ)すると、卵管がんにならないかもしれないという話が米国から出てきていて、予防についての調査が始まっており、注目しております。

 頸がんは、ヒトパピローマウイルスが原因で、ほとんどの女性が一度は感染します。9割ぐらいの方が自分の免疫で排出しますが、残念ながら感染が長期間持続するとがんになるといわれています。そこには、何か感染しやすい理由があるのではないかと考えております。例えば、腟洗浄をしすぎると頸がんになりやすいという報告があります。腟の中の細菌層に何か理由がないか。腟内の環境がウイルスの感染に対して悪影響があるのか、あるいは逆にブレーキをかけているのではないか、そういうところを研究してみようと思っています。

 

 ――医学生に限らず、若者へのメッセージをお願いします。

 産婦人科はきつくないとは言いませんが、それだけではありません。大変にやりがいがあります。どんな職業に就いても、つらい時、苦しい時があると思います。しかし、楽な方向に行くのではなく、ちょっと飛び込んでみると違う世界が見えてきて、もっといい人生が歩めるのではないでしょうか。つらかった、苦しかったけれど、やって良かったと思える経験をみなさんにはしてほしいです。ぜひ産婦人科医になってやりがいを感じる仕事を一緒にしていただきたいです。

 

東海大学 医学部医学科専門診療学系(産婦人科学) 講師(医学部付属病院病棟医長) 信田 政子 (しだ まさこ)

東海大学医学部医学科卒業。医学博士。同付属病院産婦人科助教を経て2009年より現職。専門は婦人科腫瘍学。