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余録

江戸湾にはしばしばクジラが迷い込んで騒ぎになった…

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 江戸湾にはしばしばクジラが迷い込んで騒ぎになった。1798(寛政10)年に漁師が捕らえたクジラは浜御殿で将軍家斉(いえなり)の上覧に供された。9日間にもわたって見物人の舟が詰めかけ、品川宿が潤ったという▲「品川の沖にとまりしせみ鯨(くじら)みなみんみんと飛んで来るなり」はセミクジラと「見ん見ん」とする人々をかけた狂歌だが、これを記した随筆にはナガスクジラとの説もある。その夏はクジラ模様のうちわや手ぬぐいが流行したという▲物見高く、世の話題をすぐ商売にするのは江戸っ子の伝統だが、今度はホエールウオッチングができると喜んでもいられない。海上保安庁は東京湾を航行する船に、目撃情報が相次ぐクジラと見られる生物への注意を呼びかけている▲先週初め、葛西海浜公園沖合で「潮を吹いている」という漁船の通報から始まった東京湾北部での目撃情報である。驚いたのはNHKに寄せられた動画で、海ほたるの北方約5キロの海面から大きくジャンプする姿がとらえられていた▲目撃談によると体長約15メートル、海保担当者は「東京湾の奥でのクジラの目撃は珍しい」という。江戸時代と違い、今日の東京湾は1日500隻が航行する世界有数の海上交通過密海域だ。人にもクジラにも、不幸な接近というしかない▲大海原(おおうなばら)を自由に泳ぐクジラにすれば、何やら怪しく物騒な気配のただよう異界に迷い込んでしまった心境だろう。まずは落ち着いて自然の呼び声に耳をすまし、外洋への帰路を探りあててほしいところだ。

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