オピニオン

保有から共有へ IoTで循環型社会を 東海大学 情報通信学部 組込みソフトウェア工学科 教授
撫中 達司

2016年11月1日掲出

 18世紀に起こった第1次産業革命から現代まで、社会はあらゆる変革を遂げてきた。第4次産業革命と言われる今世紀は、大量消費から再利用へと循環型社会の実現が求められている。現代のカギとなるのがモノのインターネット「IoT(Internet of Things)」だ。ゴミ箱を通してIoTを研究する組込みソフトウェア工学科の撫中達司教授に、IoTが果たすべき役割や将来について聞いた。【毎日新聞デジタルメディア局 江刺弘子】

 

 ――まず「組込みソフトウェア工学科」についてご説明ください。

 携帯電話やデジタルカメラ、自動車などに内蔵されたマイクロコンピューターを制御するプラグラムが「組込みソフトウェア」です。通信ネットワーク工学科だとネットワークプロトコルや認証技術を、情報メディア学科ならバーチャルリアリティーや画像処理を中心に学びますが、「組込みソフトウェア工学科」は、ハードウェアとソフトウェアの両方を学ぶので、なぜモノが動くのかを基礎から理解したうえで、物事にアプローチできます。

 

 ――その中でもIoTを研究なさっています。IoTをどのように捉えていらっしゃいますか。

 代表的なのは車の自動運転や、家電がインターネットにつながり新たな機能を持つことです。一般的に言われているIoTとは、すべてのモノがインターネットにつながって、情報交換することで、新しいサービスが提供されることです。

 私は30年近く企業の研究所で、情報通信技術を研究開発してきました。その中で、インターネットが発達し、本当に我々の生活が豊かで安全安心なものになってきたのだろうかという疑問をずっと感じてきました。

 確かにインターネットによって色々な情報を得ることができたり、ゲームができたりと便利になったことは皆さんが認めるところでしょう。一方でテロや環境破壊など、安全安心の部分で寄与してきたのか、という疑問が生じてきます。

 全てのモノが有効で安全安心に利用されるには、単にモノを作って終わりではなく、それをリサイクルして、もっと言うと、それがもともとどのような考えから開発されたのか、最初の設計のところまでさかのぼって情報がフィードバックされなければなりません。そういったことのためのIoTでなければならないと思っています。

 

 ――その具体的な取り組みの一つが、今年1月から始まったスマートゴミ箱の実証実験ですね。

 スマートゴミ箱は、米BigBelly社が開発したものでゴミ箱の中に通信機能を設置し、携帯電話網を通じて、ゴミの蓄積状況をリアルタイムで把握できるものです。ゴミ箱の上面にはソーラーパネルがついているので、外に電源がなくても設置することができます。

 東海大学の高輪キャンパスでは、㈱NSW社の協力を得て構内の高輪口と品川口のそれぞれの玄関にスマートゴミ箱を2カ所設置しています。ビン・カンとペットボトルの二つで1セット。ペットボトルの方はたまってくると、自動で圧縮する機能があります。箱の上部にランプがついていて、信号機をイメージしてもらえばわかりやすいのですが、通常は緑、たまってくると黄色、回収しなければいけなくなると赤になります。我々は黄色になると、「そろそろ回収か」と認識することができます。

 スマートゴミ箱はロンドン五輪でも採用されましたし、米国ではすでにハーバード大学や南カリフォルニア大学など、大学を中心に設置が進んでいるほか、ニューヨークのタイムズスクエアやボストン市などの自治体や、国立公園でも導入されています。広大な敷地を持つ米国の国立公園では、回収業者がゴミのたまり具合を、インターネットを通じてチェックできるので、わざわざ車で毎回すべてのゴミ箱をまわる必要はなくなり、たまったゴミだけを回収することでCO2(二酸化炭素)の削減にも貢献しています。

 

 ゴミ箱はIoTを象徴

 ――なぜゴミ箱に着目したのですか?

 有効で安全安心なモノを示すには、ゴミ箱がわかりやすい例だと考えました。言い方が乱暴かもしれませんが、ゴミ箱でさえインターネットにつながって、「ゴミがたまりました。回収にきてください」とゴミ箱自身が情報提供していく。それがIoTであって、これまでのインターネットと違うところです。

 つまりインターネットは人が相互につながるのですが、IoTはモノ自身がつながっていく世界です。ゴミ箱に着目すると、我々は回収箱と呼んでいますが、単にゴミを捨てるだけでなく、ビン、カン、ペットボトルは再生されて、再び循環型社会で利用される。モノの最後の形態から始めて、再び製品の設計開発の段階に戻って物事が進んでいくという循環をIoTによって非常に象徴的に表しているのがゴミ箱です。

 

 ――9月17日、米ニューヨークの繁華街でゴミ箱の中に爆発物が仕掛けられ、爆発する事件が起きました。

 テロは大きな問題です。日本ではテロ対策として、大きなイベントがあると警察や自治体などは、公共の場からゴミ箱を基本的に撤去する方向で動きます。

 日本人はゴミの持ち帰りの文化がありますが、海外の人に持ち帰りができるかというと難しいでしょう。4年後には東京五輪が開催されます。国際的なイベントで安全面を確保しつつ、そういったところをケアするのは大きな問題です。

 実は現在、試作しようとしているのですが、ゴミ箱に高性能カメラを入れて、ビンなど所定のモノ以外のものが入れられれば異物と判断し、アラームが鳴るというものです。ゴミ箱の外には監視カメラを設置し、内と外の両方で守っていくことが必要だと思います。これで全て解決できるものではありませんが、検証を進めていく中で本当に安全であるための課題も見えてくるのではないでしょうか。

 

 ――これまでの実証実験で得たものや課題を教えてください

 少ないゴミ箱の数で最適なゴミ収集をしようとすると、どこにゴミ箱を置くかが大きな課題です。現在は高輪キャンパスの二つの玄関口においていますが、実際にそこでゴミを捨てる学生はものすごく少ないのです。学生は外でペットボトルを買って、学内で食事をしてそこで捨てる。学内を出るときには、学生の手には買ってきたペットボトルはありません。

 高輪口と品川口のゴミ箱では、たまり方も中身も違います。品川口では、外から品物を売りにきていたり、学内の催し物があったりで、ゴミが高輪口よりも多くたまります。また大学の場合、夏と冬の休みは利用されないなど、季節によっても差があります。本当に色々なファクターがあって、それらを考えていかないといけないのだと、やってみて改めて分かりました。

 それからこれは教育面でのことなのですが、きちんとゴミが分別されず、開けてみると変なものも入っている。学生が分別しないでゴミを捨てることで、その後にどのようなことが行われるのか認識していないことが問題です。分別しなかった行為が環境面やコスト面でどれほどのマイナスになっているのか、こういったことの認識を持てば、意識的に変わっていくはずです。

 今は学内での試みですが、これが社会全体となると、もっと大変でしょう。単に分別しなさいと言ってもあまり意味がないので、それをまずは学内でうまくやっていきたいです。

 

 日本人のもったいない精神 IoTで共有文化へ

 ――IoTでめざす循環型社会。どのような将来像を描いていらっしゃいますか?

 IoTは単に買って保持する世界から、それを共有して、再生して使っていく社会に代わっていくための大きな取り組みです。

 米国では、一つの例としておもちゃの再利用があります。サービスを提供する人が、おもちゃを回収し、清潔な状態に戻し、次の人に貸し出す。最初におもちゃを買った人に対しては、貸し出しが何代か続くと、何%かのお金がフィードバックされる仕組みがあります。一つのモノがずっと共有されて使われることがインターネットの世界で実現されているのです。

 このことは、もともと日本人が持つ「もったいない」の精神で実現すべきことなのではないでしょうか。日本では、捨てるのがもったいないという所有する文化のほうが根強く、共有する文化にいたっていません。モノが個人に納まっていて情報発信ができていない現状を、IoTの力で変えていきたいです。もったいないという日本人の文化的ベースがあるからこそ、日本人らしさをIoTを使って、アピールしていくことができないかと考えています。

 

 ――IoTが発達することで、人間の活躍の場が奪われることはありませんか。

 人の仕事を奪うのではなく、IoTの発達によって余裕がでた人材を、別のリソースに有効活用していけばいいのです。それは今に始まったことではなく、第1次産業革命で、それまで人が一生懸命動かしてきたものが機械化され、馬が自動車に取って代わっても、機械に任せるものと、人がやらなければならないものが、その場その場で判断され、実行されてきた歴史があります。全てが機械に置き換えられることはありえないわけで、人間が豊かになっていくための機械にならなければいけません。それを我々がしっかりと提示していかなければいけないのだと思います。

 

 最適化されたモノの流れを社会全体に

 ――現在の研究課題を教えてください。

 たとえば電球を買ってきて、しばらくすると切れて捨てる。そこにスマートゴミ箱のような出口が用意されていたら、必要な個数やどれぐらいの期間で使い終わるのかなどの消費がわかりますよね。そうすると電球が切れたから買いに行くのではなく、IoTを活用した出口を用意することで、切れる時期になると自動的にEC(電子商取引)サイトに発注して、家には常に何らかのストックがあるという、家の中の循環型社会が簡単にできると思います。

 限られたスペースをいかに有効活用するかと考えた時、家の中もそうですし、社会全体の流通も、すごくコストがかかっていることに気付きます。その中で、どこでどのような消費があって、そのモノがいつ必要なのかの情報を共有できれば、供給する側も供給される側もバランスがとれます。そうすると、社会全体で最適化されたモノの流れができるはずで、その小さなところを、家の中の消費から始められないかと考えています。

 

 ――そうなると、私たちの暮らしから「捨てる」という概念はなくなりますね。

 これだけ環境問題が世界的に大きな課題となっている今、我々の子孫のことを考えると、モノを捨てるのではなく、再利用につなげていかないといけないと思います。高度経済成長は大量生産の時代でしたが、いまは技術開発によって再利用を目指す時代です。

 これまでの産業革命と、IoTによる第4次産業革命には決定的な違いがあります。これまでは、技術革命があって、何らかのものを犠牲に、なかでも決定的なものは環境を壊して豊かになってきました。IoTを使った第4次産業革命は、循環型社会によって、地球の環境を維持し成長していく、それを実現していくためのものでなければなりません。

 日本では、まだどうしても技術を積み上げていくことに重点がおかれています。技術の先にあるものがどうあるべきかを考え、そのためにはどうしていくと形になるのかを考えることができる技術者が求められています。

 

 ――今後はどのようなテーマをお考えですか?

 現在、IoTは家電など身近なところに利用されていますが、それを社会全体に広げていき、どのようにIoTが寄与できるのか、ひもといていきたいです。モノが作られて、運ばれ、消費されて、捨てられていくという大きなサイクルを、社会全体の大きな仕組みの中で、IoTをどのようにうまく利用して、便利で豊かで安全安心な社会が実現できるか考えていきたいです。

 

 ――学生へのメッセージをお願いします。

 学生には悩んでほしいです。いまの学生は考える時間が圧倒的に減っています。答えがないことをじっくり考えて、悩む。長い時間考えることは、価値のあることです。自分ではなく、世界が、地球がどうよくなるかを考えると、そんなに簡単に解決策はでません。答えがでないことを考え、悩むことをいっぱいしてください。そうすると、次の問題にあたったとき、悩んで考えたことが、突破できる力になります。自分の中で問題意識をもって、悩んで考えてください。

 

東海大学 情報通信学部 組込みソフトウェア工学科 教授 撫中 達司 (むなか たつじ)

静岡大学大学院計算機専攻博士課程修了。博士(工学)。三菱電機㈱情報技術総合研究所にて、ネットワークシステム、ネットワークセキュリティ、単距離無線通信システム等の開発に従事。2015年より現職。安全・安心なIoTシステムや、IoTを活用した産業システムのサービス化などに関する研究開発に取り組んでいる。