オピニオン

脳と光の不思議を科学する 東海大学 情報理工学部情報科学科 教授
高雄 元晴

2016年7月1日掲出

 人間を包み、照らす光。情報理工学部情報科学科の高雄元晴教授は光と脳との関係に焦点を当て、光が人間の体に与えるさまざまな影響について研究を進めている。そして、「脳にいいプラモデル」「携帯電話依存症」「バーチャルリアリティー」へと、探求の対象は広がり続ける。【毎日新聞社デジタルメディア局 浜名晋一】

 

 ――「非イメージ形成視覚の光の受容」が研究テーマですが、具体的な内容を教えてください。

 目から入ってきた情報を脳で情報処理するに当たって、二つの経路があることが分かっています。一つが「写真に友人が写っている」「赤い夕焼け空だ」という感じで、意識される視覚。最近ではイメージ形成視覚と呼ばれています。もう一つは、目から情報が入ってきて、脳に伝わるが認識されない無意識の視覚です。こちらは非イメージ形成視覚と呼ばれています。私は、主に後者の光受容の仕組みを調べています。

 非イメージ形成視覚の代表例として、概日リズムの光同調が挙げられます。概日リズムとは、約1日のリズムを刻む体や心のリズムを指します。このリズムは主として脳の視交叉上核(しこうさじょうかく)で刻まれます。人間は朝起きて夜寝る生活をしていますが、脳で刻まれている時計というのは、多くの人の場合、24.5時間とか、24.1時間という感じで24時間より少し長くなります。例えば、昼も夜も分からないような暗い部屋にずっといて、そこで暮らすとします。朝7時に起きて、夜12時に寝るなら、本人はいつも通りに生活しているつもりでも、体のリズムを調べると、だんだんと後ろにずれてきます。1日に30分ずれている人は、24日たったら12時間ずれてしまう。このずれてしまった時間の感覚を、人間はどのようにして毎日巻き戻しているのかというと、光が大きな役割を果たしています。これを光同調と呼びます。

 人間は朝浴びる光が視交叉上核に情報を伝えるおかげで、毎朝7時なら7時にきっちり起きられます。頭の中で「朝の光が入ってきた。目を覚まさなくちゃ」と意識しなくても、自動的に無意識のうちに処理されます。

 

 ――光を浴びることで、ずれた脳内の時計をリセットするということですね。非イメージ形成視覚の産業への応用も考えているとか。

 米国の大学に留学していた時に、この視覚系に関わる特別な細胞が網膜にあるということを発見しました。内因性光感受性網膜神経節細胞と私たちが名付けた細胞ですが、この性質を調べることで、非イメージ形成視覚の特徴を明らかにできるということが分かり、東海大に赴任してからも、この研究を続けています。この細胞は、波長がだいたい480ナノメートルくらいの光に最も感度が高いことが研究で分かりました。この波長の色はやや薄い青色ですね。

 また、この青色1色よりも、他の色を混ぜた方が明らかに概日リズムの光同調の効果が高いということも分かってきました。光の色をブレンドすることによって、気持ちよく目覚めて、夜はしっかり寝られるような照明器具ができないかと応用研究を進めています。

 

 ――光と睡眠との関係で言えば、スマートフォンと不眠との関連を指摘する研究があります。先生も携帯電話依存に関する研究をされていますね。

 スマホは液晶画面のバックライトを青のLED(発光ダイオード)も用いて発光させています。この青の光が概日リズムのリセットに関係する光ということで注目されています。寝る前に強い光を浴びると、概日リズムは遅い時間にずれてリセットされることから、スマホを寝る前に操作すると、画面の強い青い光で不眠になってしまうかもしれないということが盛んに言われています。

 私が学生たちと行ったのは「携帯電話依存の心理学的研究」です。この研究は2006年に行いました。当時、スマホはあまり出回っていませんでしたが、携帯電話を手放せない学生はいました。そのような学生はみな性格に同じような特徴があるということで、研究をしたところ、面白い結果が出ました。

 携帯を手放せないのは、「孤独な性格」のためと思われがちですが、実際手放せない学生は、非常に外向的な性格の学生が多く、承認欲求が強い傾向にありました。承認欲求とは「自分を認めてほしい」という欲求のことです。そしてセルフモニタリングという特性も高いことがわかりました。セルフモニタリングはカメレオニズムともいいますが、自分がなく、周りに同調してその場その場で自分を変えてしまう性格・行動特性のことです。いわば、お調子者で空気が読めて、集団の中で自分を演じられる学生です。まとめていうと、外向的で自分のことをも認めてほしい気持ちが強く、しかも空気の読める学生ほど、携帯依存になりやすいことが分かりました。

 

 ――先生の研究の中で他に実用化を目指したものはありますか。

 光のブレンドの他に、プラモデルメーカーと共同で、プラモデル作りが脳にいいということを明らかにする研究をしています。脳にいい条件を組み合わせて、新しいコンセプトのプラモデルをメーカーと共同開発しています。

 

 ――プラモデル作りの何が脳にいいのですか。

 Fmθ(シータ)という脳の前頭葉の中央部で出現する周波数4〜7ヘルツの脳波があります。通常、θ波は眠りに落ちようとするまどろみの状態で出現します。しかし、何かに集中している時には、本来頭はさえているはずですが、記憶、理性、人格など人間らしい脳機能をつかさどっている前頭葉でこの脳波が出現します。特にプラモデルを作っているときに、強く持続的なFmθが長時間にわたって出現することがわかりました。

 最近の研究で、Fmθは集中力に加えて記憶にも関わっていて、しっかり頭の中に記憶が刻み込まれた時には強く出現し、うまく覚えられなかった時にはあまり出現しないことがわかってきています。

 しかし、Fmθは年齢と共に出にくくなります。だから、それが出やすいような状態にするプラモデルを作れば、集中力も上がり、それによって記憶力も高まると考えられます。このことは高齢者の認知機能の改善にも役立つのではないでしょうか。Fmθを指標にして、プラモデルがどれだけ脳にいいのか、脳機能の改善に役立てられないかということを検証しているところです。

 

 ――先生の研究テーマの一つであるバーチャルリアリティーについて、教えてください。

 バーチャルリアリティーを説明するにあたっては「目」が重要となります。目が何のために横に二つ並んでいるのかというと、目は左右で見えている情報が異なります。ずれている画像を脳の中で再構成する際に、奥行き感を感じます。一方、ちょっとずれた画像をそれぞれの目の前に置いても、奥行きを感じることができます。ゴーグルの中で左右の眼の前にあるモニター画面に映し出した画像をちょうどいい具合にずらすことによって、立体に見せるようにしたのがバーチャルリアリティーの原理です。

 産業応用もなされていて、例えば手術シミュレーターがあります。これは、医師がバーチャルリアリティーのゴーグルをかけて、あたかも患者さんが目の前にいて、専用の道具を使って、実際に手術をしているような気分になれるトレーニングマシンです。実際に患者さんに手術する前に、この手術シミュレーターで十分にトレーニングを積んでおくのは大切なことですよね。また、自動車をデザインするにあたって、粘土で実車の大きさのものを作って形状を検討しますが、粘土といっても1台に対してコストが何百万とかかるので、何台も作れません。そこでバーチャルリアリティーで実際とそっくりのものを作るということが試みられています。

 

 ――多忙な研究の合間を縫って、照明工学の国際学会「Lux Pacifica(ルクス・パシフィカ)」の副会長に就任されました。

 ルクス・パシフィカは太平洋地域の国々による国際学会です。照明工学の分野では欧州勢の力が強く、欧州から提案されたものが国際標準になったりします。太平洋地域の意見を強くして、欧州に対抗しようと、三十数年前に米国や日本などの照明学会が連合して国際組織を作りました。それがルクス・パシフィカで、今では11カ国・地域の照明学会の連合体になっています。

 私は副会長ですが、21年間日本で大会が開かれていないというので、2018年3月に東海大高輪キャンパスで大会を行うことにしました。太平洋地域の国や地域の研究者が集まって、声を大きくして、我々の研究開発の影響力を高めようということを考えています。

 一方、学会は研究活動を発表する場であると共に、若手を育てる場でもあります。世界の照明分野の発展に貢献できる学生や企業の若手社員を教育する場として、ルクス・パシフィカを活用していきたいと考えています。国際学会ですので、学生を国際的な場面で育てるにはもってこいです。今後、教育的なワークショップを設けて、年配の高名な研究者から若者が直接学んで、次世代の照明分野を引っ張っていってくれるような人材を育成する場として活用していきたいと思います。

 

 ――若者に対してメッセージをお願いします。

 若者には夢を持ってほしい。今の学生に聞くと、あまり夢を持っていないようです。現実的な学生が多いと感じます。でも、夢を抱けるのは、20歳前後の一時期。夢はかなわなくても、かなえるように追いかけてほしい。社会の現実に自分を合わせるのは大学を卒業してからでも十分です。

 東海大学創立者の松前重義先生がおっしゃった「若き日に汝(なんじ)の希望を星につなげ」という言葉がありますが、これは東海大の学生だけに出したメッセージではなく、おそらく世界の若者に与えたメッセージだと思います。与えられた多感な4年間に、希望すなわち夢を持ち続けて、成功しようが失敗しようが精一杯チャレンジしてみる。いい意味でのモラトリアムをぜひ、謳歌(おうか)してもらいたいと思います。20歳前後の宝石のような時間は2度と戻ってこないのですから。

 

東海大学 情報理工学部情報科学科 教授 高雄 元晴 (たかお もとはる)

大阪大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。日本学術振興会海外特別研究員(米国ブラウン大学)、同特別研究員(自然科学研究機構基礎生物学研究所)を経て現職。専門は神経科学と実験心理学。研究成果は「ニューヨーク・タイムズ」「ガーディアン」「プロビデンス・ジャーナル」など海外の新聞でも紹介されている。