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IT講師刺殺1週間

ネット憎悪がリアル暴力に

松本容疑者とみられる人物を巡るネット上のやり取りと事件の経過

 福岡市中央区の起業支援施設でIT関連セミナーの講師をしていた男性が刺殺された事件は、ネット空間で膨らんだ憎悪が現実の世界の暴力となって表れる危険性を浮き彫りにした。事件発生から1日で1週間。事件の背景にネットの匿名掲示板における不特定多数とのやりとりがあった可能性が指摘されており、ネットユーザーらの間には「誰が狙われてもおかしくなかった」という不安が広がっている。【柿崎誠、石井尚、平塚雄太】

 ネットの事情通らによると、殺人容疑で逮捕された福岡市東区の無職、松本英光容疑者(42)とみられる人物は数年前から、匿名掲示板で「低能」「ゴミクズ」などと他のユーザーを中傷する内容の書き込みを始めた。その後、他のユーザーから皮肉を込め「低能先生」と呼ばれるようになった。

 中傷内容が悪質で執拗(しつよう)なことから、他のユーザーは、この人物が書き込むと掲示板の運営会社に通報してその度にアカウントを凍結させ、書き込めなくするなどの自衛策をとってきた。殺害された東京都江東区の情報セキュリティー会社員、岡本顕一郎さん(41)もその一人。5月2日には、「Hagex(ハゲックス)」のハンドルネーム(ネット上の名前)で書くブログ上で「先生」の書き込みを何度も通報していることを明かしていた。

 そうした中、後に事件との関連を注目されるようになる書き込みが6月10日、匿名掲示板に相次いだ。東海道新幹線で乗客3人が殺傷された前日の事件で犯人視された「先生」について、「一日中ネット漬けの先生が男性一人殺せるとは思えない」などとからかう内容だった。

 事件が起きたのはその2週間後の24日。「俺を『低能先生です』と笑いながら通報してきたお前らへの返答だ。これから近所の交番に自首してくる」。事件直後、掲示板に「犯行報告」とも読める投稿があった。「俺を知る全ネットユーザーの責任だからな」「予定では(運営会社の)本社に行くつもりだった」とも書かれていた。

 「先生」と松本容疑者が同一人物かは今のところ明らかではない。ただ「先生」と長くやりとりしてきたユーザーらは、掲示板に居場所を失った「先生」が、他のユーザーや運営会社への恨みを募らせていき、10日の書き込みなどにも刺激されて事件に及んだという見方をする。

 関係者によると、松本容疑者は九州大を8年かけた末に中退し、最近は大学時代から住むアパートで親からの仕送りを受け、ほとんど一日中家でパソコンに向かっていた。ハンドルネームしか知らない岡本さんがセミナーのため福岡に来ることは、事件の約1カ月前、ネットで知ったという。

 岡本さんと親しいブロガーの一人は「捜査の結果を待たないといけないが、なぜHagex氏が襲われたのかといえば、たまたま福岡でイベントをする告知をブログでしていたからとしか思えない」と話した。

前提が崩れた

 今回の事件は、ネット上で発信する多くのユーザーにとって決して人ごとではない。

 企業などにネットの炎上対策などを指南するコンサルタント会社代表の、おおつねまさふみさん(46)は一般論と断った上で「ネットであおったり、あおられたりという行為はメディアの特性上止められない。それでも、現実世界で文句を言われたり殴られたりするくらいのことはあっても、刺されることまではないだろうと誰もが思っていた。そうした前提が崩れた」と衝撃を受ける。

 関係者によると、ブロガーとして有名な岡本さんはブログなどで発信する際、個人情報が分からないように細心の注意を払っていた。本名ではなくハンドルネームで主催したイベントを告知することで、危害が及ぶとまでは想像していなかったに違いない。

 ネット犯罪に詳しい神戸大大学院の森井昌克教授(情報通信工学)は「自由闊達(かったつ)な議論ができるのがネット言論の特徴。それが萎縮してしまうことを一番懸念している」と指摘した。

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