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静けさを聴き取る

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東京都杉並区で、山下浩一撮影
東京都杉並区で、山下浩一撮影

 ニーチェは耳について不思議なことを書いている。

 <私はまだ耳を持っているのか? それともまだ私は耳にすぎないもので、それ以上の何ものでもないのか?>(信太正三訳)

 分かりにくい書きようだが、続けてニーチェが、深い巣窟から聞こえてくる歌と、自分に襲いかかる咆哮(ほうこう)、脅迫とか甲高い叫びとを比べているのを見ると、ニーチェは<まだ耳を持っているのか?>と問いながら、かそけき音を聴き取りたいと望み、反対に<耳にすぎない>と嘆きながら、押し寄せる大きな音に耳を占められまい、としていることが分かる。

 深い巣窟の中から立ちのぼってくる歌を聴くように、世界のかすかな音に聞き耳をたてることで、ニーチェは物事の本質に近づこうとしているのだろう。咆哮とか甲高い叫びとは、声高に叫ばれる政治的な主張やプロパガンダ、芸術においては自己顕示や大宣伝などを指すのだろう。そういう大上段から振りかざす大きな音を拒否したいというのである。

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