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毎日フォーラム・ファイル

国際サンゴ礁年 海の生態系、自然資源の保全を

高水温に適しているとみられるサンゴ群集=パラオのニッコー湾で、中村崇さん提供

再生に向け与論島で実証実験 パラオでは共同研究

 今年はサンゴ礁生態系保全の国際協力の枠組みである「国際サンゴ礁イニシアティブ」が呼びかける「国際サンゴ礁年」。地球温暖化による海面の高水温や生活排水などで危機に直面するサンゴ礁の再生は、海の生態系を守るためにも急務となっている。

     サンゴ礁にダメージを与える原因の一つとみられているのが海の「富栄養化」。東京農業大学と琉球大学、環境団体などでつくる合同チームは、サンゴ礁海域にある島々で農業に使われる化学肥料との関連を調べようと鹿児島県の与論島で実証実験を行っている。

     海の「富栄養化」は海中の窒素やリンなどの栄養物が過剰になることだ。そこで東京農大の中西康博教授(59)らは、島でさかんなサトウキビ栽培に着目。畑にまかれる化学肥料に含まれる硝酸態窒素などの窒素成分が雨水に溶け込み、地下水を通じて海に流れ出ていると推察した。

     島の農家にアンケートをしたところ、大半の農家がサトウキビの栽培初期にたくさんの肥料をまき、その時期に地下水の窒素濃度が高い傾向にあることが分かった。「生育のスピードが遅いときに大量の肥料をまいても、サトウキビはその栄養を吸収しきれない」と中西さんは指摘する。肥料の中の窒素成分が地下水を経由してサンゴ礁海域に過度に流出した場合、植物プランクトンや藻類を異常発生させ、海の透明度や、サンゴの中で生きる褐中藻の光合成に影響する可能性がある。

     「無駄に肥料をまかなければコストが下がり、収穫量が上がる。農家にとってもいいことだし、地下水や海の環境負荷も軽減できる」と、勉強会を開いて農家に肥料のまき方をアドバイスしている。

     実証実験は、サンゴ礁の生態系保全を目的にした環境省のモデル事業(2016年度から5カ年計画)だ。チームのメンバーでNPO法人「海の再生ネットワークよろん」事務局長の渡辺暢雄さん(63)は「サンゴ礁を取り巻く環境に人間がどんな負荷を与えているか。それぞれの立場で考えてもらえれば」と話す。

    サンゴの養殖や植え付けで「サンゴの植林」に取り組む金城浩二さん=沖縄県読谷村で2018年4月9日

     「地球規模の視点でサンゴ礁の未来を考えよう」と、琉球大学理学部の中村崇准教授(42)らは、太平洋のパラオで研究を行った。島々を取り巻くサンゴ礁の現状や生態系の構造などについて調査した結果、一部海域に高水温に強いサンゴ群集が存在することが判明した。科学技術研究機構(JST)と国際協力機構(JICA)によるプロジェクトで、パラオ国際サンゴ礁センターやパラオ短期大学などの研究者と中村さんらがタッグを組んだ。昨年度までの5年間、共同研究や若手の人材を育成する取り組みがなされた。

     パラオの主な産業は観光と水産業で、サンゴ礁は重要な観光資源だ。けれども、気候変動による影響で、海水温の上昇や過去に例のない台風被害が発生するなど周辺のサンゴ礁はダメージを受け続けている。中村さんらは、この間の研究データなどをもとにパラオ政府に対し、さらに厳しい管理体制を確立し、堆積物の流入や観光による過剰利用など、サンゴ礁が受けるストレス要因を減らすよう提言した。

     今後は高水温という過酷な状況で奇跡的に生き残ったサンゴ群集を保全するルールづくりが必要になる。「それらのサンゴを守ることはパラオだけではなくアジア太平洋地域のサンゴ礁生態系にとって貴重な遺伝的資源の保存になりうる」と中村さんは言う。

     パラオでは、サンゴ礁の効果的な保全と資源維持を目的に「海洋保護区ネットワーク」をつくり、12年に観光客が出国時に空港で支払うグリーンフィー(環境税)を導入。今年からは航空運賃に上乗せする方式となった。各州で進めるサンゴ礁の保全活動を支援、評価し、保護官らの養成も積極的に進めている。

     一方、沖縄県読谷村で、国内最大級のサンゴの養殖場「さんご畑」を運営する金城浩二さん(48)は、太陽の日差しが降り注ぐ水面のそばでも白化しにくい耐性サンゴを育てることに成功した。

     子どもたちに養殖サンゴの産卵の様子を間近で見てもらおうと、水槽のサンゴを深い所から浅い場所に移したのがきっかけ。「太陽の光で、ほとんどのサンゴが白化し、弱っていくなかで生き残ったサンゴがあった」。その強いサンゴをさらに浅い所に移動させ、環境に順応させる作業を繰り返した。水槽の中で白化しなかったサンゴは海中でも夏の高水温に耐えられることができ、一昨年12月の日本サンゴ礁学会で報告した。

     もとは沖縄市内でバーを経営していた。転機は1998年。太平洋の赤道の中央から南米のペルー沿岸にかけて、海面の温度が高くなる「エルニーニョ」の影響で、世界的に海水温が上昇した。各地でサンゴの白化現象が起き、沖縄も例外ではなかった。海に潜ると、鮮やかな色をしていたサンゴが漂白されたみたいに白くなっていた。「美(ちゅ)ら海」の異変に気付き、「自分で育てたサンゴを海に植えよう」と決意した。

     沖縄市に隣接する北谷町の海岸の浅瀬で、地元の漁業協同組合の協力を得て03年に最初の植え付けを行った。翌年には海に植えたサンゴが夜中に産卵している場面を確認。「この中に新しい命がつまっていると思うと胸が熱くなった」と振り返る。

     「さんご畑」では現在、約120種のサンゴを育てる。サンゴの苗を賛同者に購入してもらい、その資金を養殖事業に充てている。「サンゴだから1株の値段は3500円」。サンゴの植え付けが完了すると「海からの感謝状」を贈っている。「海のサンゴが減っても陸の上でサンゴが生きていれば、それをもとに生態系は復活する」と金城さん。

     琉球大学熱帯生物圏研究センターの技術専門職員、中野義勝さん(59)は「自然資源の価値はその土地のブランド力につながる。さまざまな対策を講じて、サンゴが生きられる環境をつくっていくことが重要だ」と説く。

     ●サンゴ育むプロジェクト 

     大手化粧品会社「コーセー」が推進する「SAVEtheBLUE」(セーブ・ザ・ブルー)は、沖縄の海に再びサンゴを育むプロジェクトだ。主力商品「雪肌精」シリーズの売り上げの一部を、金城浩二さんらの活動に寄付し今年で10年目。これまでに植え付けたサンゴは1万4440本に達した。同社では、店舗の美容スタッフらを対象に「サンゴ留学」と名付けた研修も行っており、参加者は金城さんの「さんご畑」を訪れ、サンゴの株分けなどを体験する。

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