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自ら考え、判断が求められるラグビーの魅力と今後を考える スポーツ教育センター ラグビーフットボール部テクニカルアドバイザー
土井 崇司

2015年12月25日掲出

 ワールドカップ(W杯)で日本代表が南アフリカに歴史的勝利をあげて注目が集まるラグビー。東海大学ラグビーフットボール部は、関東大学ラグビーリーグ戦(1部)において2015年シーズンに優勝するなど、過去10年で6度の優勝を果たし、大学選手権の常連校となっている。ラグビーの魅力や人材の育成などについて、長年高校ラグビーの指導にあたり、現在は東海大学スポーツ教育センター勤務で、同部のテクニカルアドバイザーを務める土井崇司氏に聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 松沢敬介】

 

 ――これまで、高校ラグビーの現場で東海大学付属仰星高等学校を全国屈指の強豪校に育てられた経歴と指導についてお伺いします。どのような指導をしてこられたのでしょうか。

 1984年に創立2年目の東海大学付属仰星高校に赴任し、監督としてラグビー部の指導をしてきました。92年度に全国高校ラグビー大会に初出場を果たし、99年度の79回大会、2006年度の86回大会で優勝。2回目の日本一になった後は、現在の監督の湯浅大智さんに指導の大部分を任せ、13年度に3回目の全国大会優勝をすることができました。またこの間に、ラグビーの魅力を発信しようと、大阪や京都の小中学生を対象にスクーリングやミニ大会・合同練習会を開催しました。また、ラグビーのスタンダードの共有と発信を目的に、全国各地の高校と合同練習をしてきました。

 技術的には、オーストラリアのラグビー戦術である「シークエンス」(ボールを運ぶ位置を事前にある程度決めて、そこにボールを運ぶ戦術)を応用し、仰星独自の新たな考え方のラグビーを構築して、それを根底に指導してきました。それは、プレー時の判断を行う中で決められた場所にボールを動かして、プレーヤーの数的優位を保つ、スペースを生み出す、というものです。これ以外にも新しい戦術・戦法を幾つか作り出しています。

 14年度からは東海大学に移り、主にスポーツを通じて大学と付属高校を結ぶ学園業務に携わりながら、大学ラグビーで戦術的な指導、練習の方法・内容、マネジメントについてコーチ陣へのアドバイスなどをしています。

 

 ――ラグビーW杯イングランド大会で、日本代表が南アフリカに勝ったことで、ラグビー競技に注目が集まっています。土井さんが考えるラグビーの魅力とは。

 小学生や中学生の子供たちと接する機会も多いのですが、その保護者の方にラグビーについて聞くと、「ぶつかりあいが怖い」「子供が大けがをしたらどうしよう」という反応が返ってきます。格闘技のようなイメージがあって、さらにほかのスポーツよりもルールがややこしい、という戸惑いです。それに対して、私が強調したいのは、ラグビーはボールゲームで、バスケットボールやサッカーと同様、単純にボールゲームの楽しさを知ってほしいということです。 

 また、ラグビーを通してどのように子供が成長していくのか、ということを考えていただくことが大切だと伝えます。ゲームの楽しさを経て、皆で分かち合う精神や人を敬う心を養っていけるスポーツであるということが魅力だと思います。

 ラグビーの監督は、「試合の時、ただスタンドから見ているだけ」という風潮がありますが、指導者は試合の流れを演劇の台本のように、前日のミーティングまでに作ります。ラグビーは、攻撃側と守備側が明確に分かれる競技の性格上、ある程度の戦術、戦略が準備できる競技なのです。そのため、普段の練習の中で、試合に勝つためのノウハウ、準備を徹底して行います。試合中は、グラウンドにいる選手、とくにキャプテンに全権をゆだねます。

 プレー(相手チームに反則があった後など)の選択を任せ、スクラムやペナルティーゴールを狙うキックなど、どう実行していくかの状況判断を戦っている選手自身に任せるのです。

 練習の中でも、コミュニケーションを取るとか、積極的に発言する、リーダーシップを取る、自主自立など、人としての成長に欠かせない要素が必要となります。「試合の最中に、監督がスタンドで見ている競技ってどうなの」と保護者の方は思われるのですが、実は、それまでの準備が緻密に行われている競技であり、想定外のことが起きても選手自身が各々で判断し行動します。様々な出来事に臨機応変に対応するその競技の性格上、「ラグビー精神」を学ぶとともに、「人としての成長」がうながされるスポーツであると考えています。

 

 ――ラグビーの人気が定着するにはどのようなことが必要でしょうか。

 私が学生だった時代には、「われら青春!」というラグビーを題材にしたテレビドラマがありました。山下真司さんの「スクール☆ウォーズ」よりも前ですね。今は、CS放送で試合中継は行われているものの、ラグビーという競技は日常生活の中で目に入りにくくなっています。かつてドラマで見ることができた、ラグビーの持つ楽しさや精神などが地上波テレビで取り上げられるようになると、ラグビーの人気もさらに盛り上がってくるのではないかと思っています。

 また、ヒーローの登場も大切ですね。私が若いころは、新日鉄釜石の松尾雄治選手。その次は、神戸製鋼の平尾誠二選手。平尾選手の後には、日本のレジェンドとして今回のW杯開会式に登場した大畑大介選手。そして、今回のW杯では五郎丸歩選手がヒーローになりました。スーパースターが現れることで、それを見た子供たちがあこがれ、ラグビーに関心を持ってもらえるのだと思います。

 

 ――ジュニア世代や、女性へのラグビーの普及は進んでいますか。

 指導するコーチの質が問われるようになります。ラグビーが盛んなオーストラリアやニュージーランドを見ると、それぞれの性別、年代、カテゴリーによってコーチ陣が的確な練習メニューを用意しています。日本では特に若年層などでは、ラグビー経験のないお父さんが教えているケースもあります。女子では、競技者は増えていますが、コーチの指導法が整っていないという課題もあります。中学1年生ぐらいまでは、男女一緒に競技ができるのですが、体の成長に伴って差が出てくるので、数の少ない女子選手が活躍できるような場を作って、練習方法を整備していかなければいけません。

 小学生のラグビー人口は増えていますが、高校では、20年前に1500〜1600校あったラグビー部が800校台に半減してしまいました。全国大会で勝ち上がるような高校と、都道府県大会の2〜3回戦で負ける高校が対戦すると、100点差がつく試合になってしまいます。負けるとわかっている試合ではモチベーションが保てません。成功経験を積めるような環境を整えないと、高校におけるラグビー人口減少に歯止めをかけられないと感じています。高校ではチーム力に応じたリーグ戦を開催して、そこで楽しめるような工夫があってもおかしくないと思っています。

 

 ――今回のW杯戦績について伺います。W杯通算1勝だった日本代表が今大会で3勝できたのはなぜでしょうか。

 3勝できた理由は、最初の南アフリカ戦に勝つことができたからでしょう。あそこで勝てなかったらどうなっていたかわかりません。これまでのW杯の対戦相手は、日本選手にとって雲の上にいるような選手ばかりでしたが、今回の南アフリカ代表の選手には、日本のトップリーグで活躍している選手が何人も出場していました。日常的な対戦相手であり、チームメートであるわけです。そうすると、日本選手に「怖さ」が消えます。それに加え、エディー・ジョーンズ・ヘッドコーチ(HC)が初戦にかけて準備をしてきた。全てがうまくいっての勝利だったと思います。

 技術的な面でいうと、南アフリカは、あの試合、ボールを持った選手が1人で突破を図っていました。通常はサポートの選手2、3人がプレー中の密集戦であるラック、モールに集まってボールを確保したり、攻守が逆転するターンオーバーを狙ったりするのですが、日本選手が2人、3人と集まるのに対して、南アフリカの選手は皆1人で突っ込んでいました。そうするとボールコントロールが正確にできない、ボールを密集から出すタイミングが遅れる、という結果となり、日本としてはゲインライン(起点となる密集の真ん中からゴールラインと平行にした仮想的な線)を整えることが可能になって守備が機能しました。南アフリカが何人もかけて縦に押し込む戦術をとっていれば、日本は苦戦したでしょう。あらゆる要素が重なって、あの勝利があったのだと思います。

 ベスト8に入ることを、日本代表は公言していました。そのためには3勝しないと目標に届かないわけです。初戦から同点で良い、という考え方をしていませんでした。選手たちはベスト8に入りたい、勝つしかないと、最後の終了間際で同点に追いつくことができるペナルティーゴールを選ばずにスクラムを選択しました。勝ちにこだわったのが、最後のプレーに表れていました。それが3勝をあげることができた理由だったように感じます。

 

 ――2019年には日本でW杯が開催されます。大会への関心を高めていく方策とは。

 今回のイングランド大会を現地で観戦しました。W杯を現地で見るのは今回が3回目になります。ロンドンのスタジアム周辺には宿泊施設があり、みやげ店があり、スーパーマーケットがあり、人が集まってくるような立地になっていました。競技場内にもホテルがあったり、レストランがあったりお酒を飲める場所があったり、いわゆる社交場になっていました。ビールを飲みながらスタンド観戦ができるほか、スタンドの裏はテレビモニターを備えたスポーツバーがあって、ここでも観客が楽しめる仕掛けがありました。スタジアムの外にも大きなモニターが配置されていて、街中でラグビーを楽しめるよう随所で工夫がされていました。日本の場合、競技場はラグビーを見るためだけの場所になっていて、見に来た人にそれ以外の楽しさを与えるように造られてはいません。以前の国立競技場でも、観客を何万人も収容できる施設でありながら、階段の裏はとくに集客施設もない造りになっていました。日本でも、あの空間を何に使うかによって、集客はずいぶん変わるのではないでしょうか。

 社交場的な感覚を持ってスタジアム周辺の整備を進め、子供連れの観客を取り込むなどできれば、今よりもっと人をラグビー観戦に引き込むことができるようになります。今大会のニュージーランドとアルゼンチンの試合でも、最寄りの地下鉄の駅から会場までの通りは、屋台などで大きな商店街のようになっていました。サッカーでも、ラグビーでも試合開催のたびにそういった仕掛けがされているようです。一方で、日本がスコットランドやアメリカと対戦した、グロスターのキングスホルム・スタジアムは、古い街の雰囲気を大切にした形の運営をしていて、見に来た人に対するもてなしが地域ごとに個性がある感じを受けました。

 

 ――日本代表にも今大会以上の成績が求められます。

 今回のW杯、次回のW杯でも「日本代表8強入り」という目標が打ち出されていますが、この目標をめざすのであれば、今までジョーンズHCがやってきた強化策を最低のラインに設定して、それ以上の方策をとらないと、戦えないのではないかと危惧しています。海外に選手を送り出し、その選手を集めて代表チームを作るというやり方もあるとは思いますが、海外のトップチームに日本の選手が多数所属するというのは難しいことですし、やはり日本の中で育てていかないと無理でしょう。

 南半球の国々のラグビーリーグ、スーパーラグビーに日本チーム「サンウルブズ」が来年から参戦します。参加する選手は、一企業の選手であるわけですから、仕事をせずに参加してよいのかという面もあり、企業としても、勝つためにお金をかけてチームを育成しているわけですから、選手が企業の外で活動し続けるとなると、難しい問題がでてきます。ただ、日本代表が勝つという目標をめざすのであれば、皆が一致団結して勝つ方法を探す以外にありません。

 

 ――日本代表の強化への近道は。

 4年間にジョーンズHCの下で日本代表が取り組んできたことをマニュアル化し、コーチングスタッフが共有して今後の強化に役立てていく必要があります。コンタクトを高める方法、走力をあげる方法、スクラムを強くする方法、実際にどのような練習を積み重ねてきたのか。さらに、今後の日本のラグビー界のために、高校代表などのU20、U17、セブンスなどの指導者にも、この内容を共有して普及指導につなげていかないといけません。オーストラリアでは、トップカテゴリーでやっている練習内容を、その下のカテゴリーのコーチ陣が皆知っています。ニュージーランドでもコーチの間で、戦術などの共有が広く行われています。日本では、強化策や戦術がチームごとにブラックボックスになっているのが本当のところです。そうではなく、指導の土台になるような基礎となるコーチングマニュアルは、日本ラグビーフットボール協会が主体になって作り上げ、ラグビー指導者層に広めていかないといけないと考えています。

 

 ――大学でラグビーをしたいと考えている高校生やその保護者へのメッセージを。

 中学や高校でラグビーをしている子供さんには、単純に強い、弱いという理由で進学先を決めるのではなくて、これまでラグビーという競技から何を学ぶことができたのか、ラグビーを通してどう友達とつきあってきたのかを振り返った上で、将来どうなりたいのかを考えてもらいたい。大学でラグビーをしようとすると、どこも「体育会」が部の名前について、競技として争うことが前提です。フォワード主体、バックスプレーが得意など、学校によっていろいろなラグビーの特色があります。強い学校に行くことがベストというわけではなく、ラグビーをする環境、皆でラグビーを楽しめることがベストなのだということを知ってほしいですね。そういったことを考えて進路を決めてほしいと思います。

 東海大学ラグビーフットボール部は、人間的な育成を第1の目標にして、モラル、マナーといった規律を守るところからスタートしています。一般にフォワードが強いというイメージが東海大ラグビーにはあるのですが、試合を見ている人が、フォワードも強い、バックスも走る、15人一体のスピーディーなラグビーだと感じられるようなアタックやディフェンスができるラグビーを目指しています。スポーツ競技で一般的に「心・技・体」という言葉が用いられますが、私は、知恵の「知」と人の和の「和」を足して「心・技・体・知・和」という言葉を使います。心・技・体にはもともと「和」の部分も「知」の部分も含まれているのですが、知と和を、より明確にするために、この言葉を使っています。チームワークがないとトライが生まれないのがラグビーです。ぜひラグビーに興味を持ってもらい東海大で私たちの仲間になってほしいと思っています。

 

 ――ラグビーを通して教え子が、社会で将来どのような役割をしていくことを期待しますか。

 ラグビーは自ら考え、判断するということが大きな要素を占めるスポーツです。大学で学び、運動をして、社会に出てリーダーとして活躍してくれることを期待しています。トップに立ったから良いのではなく、トップに立った後に出てくる責任を全うできるような人材を多数輩出できればと考えています。さまざまな責任を果たすことがリーダーの役割であり、そうした人間に成長してほしいと願っています。

 

スポーツ教育センター ラグビーフットボール部テクニカルアドバイザー 土井 崇司 (どい たかし)

1959年生まれ 84年に創立2年目の東海大仰星高校に保健体育の教諭として赴任。86年度に同校ラグビー部が大阪府ラグビー大会新人戦で準優勝したのを機に、部の強化をはかり、92年度に全国高校ラグビー大会初出場を果たす。監督として99年度の79回大会、06年度の86回大会で優勝。総監督としては13年度の93回大会で日本一に。14年からは東海大学でスポーツを通じて大学、付属高校を結ぶ学園業務に携わりながら、ラグビーフットボール部でテクニカルアドバイザーとしてコーチ陣へのアドバイスを行うとともに、付属高校ラグビー部の強化にも尽力している。教え子に、元日本代表の大畑大介選手、現日本代表の木津武士選手など多数。83年東海大学卒業。