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家も基礎の地盤が大事 マンションデータ改ざん問題をきっかけに 東海大学大学院工学研究科 科長、工学部建築学科 教授
藤井 衛

2015年12月1日掲出

 旭化成建材のマンションくい打ち施工データ改ざんを巡る問題は、別の建物でも同様の不正が見つかるなど、建設業界全体に広がりを見せている。集合住宅の安全性への信頼を揺るがすと共に建設業界の体質にも大きな疑問を投げかけた。改ざんされたデータは、建物の基礎を支える地盤に関わる。この分野を扱う建築基礎工学が専門の東海大学工学部建築学科の藤井衛教授に問題の背景や専門家から見た安全な建物の地盤についての話を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 仲村隆】

 

 ――専門の建築基礎工学について説明してください。

 建物の土台となる基礎の研究をしています。基礎と言ってもいろいろあって、建物を地盤に支えるためのくいや、建物を支えられるように地盤を強化する地盤改良、地盤調査など幅広い分野を研究しています。

 

 ――今回のマンションくい打ち施工データ改ざんの問題点はどこにあるのでしょうか。

 施工管理体制があいまいなところに問題があるように思います。くい打ち業者のデータ改ざんは、いうまでもなく悪質な話です。ただ、施主のゼネコンの立場からするとくい打ち業者に任せている、くい打ち業者はゼネコンの指示通りにやればいいと互いに押しつけ合う印象があります。そうした中で施工を一元的に管理するという感覚が薄かったのではないでしょうか。くいの長さが短かったり、くいが達する必要がある地盤の支持層に達していないなどのケースが発生した場合、ゼネコンとくい打ち業者とのコミュニケーションがきちんと図られていれば、こんなことは起きなかったはずです。

 くい打ちは新しい技術が出てきていて、ゼネコンが管理しきれていない部分もあります。だから、くい打ちなどの工事工程ごとに第三者がチェックする制度を導入することが必要ではないでしょうか。そうするとコストがかかる、工事期間も長くなるということはあります。しかし、それが安全のための必要なことだと思うのです。

 また、業界全体として今回の問題が起きた背景には、元請のゼネコンが各工程を下請け業者に発注し、さらに下請けは安い単価で別の下請けに発注するという下請けの多重構造があります。下請けになるほど工事単価が切り下げられ、コストが下げられる中で、建築物の安全を守るために必要な部分がなおざりにされる素地ができてしまったのかもしれません。

 

 ――建築関係訴訟に関して中立的な立場から裁判所に対する支援を行う「司法支援建築会議」の専門委員をされていますね。

 会議が発足した2000年ごろには、欠陥住宅が社会問題になっていました。今回のマンションというよりも戸建て住宅が主に注目を浴びた問題で、欠陥マイホームを買った人たちが施工業者を訴える訴訟が各地で起こされました。日本建築学会でも司法協力して専門家の知見を反映するための仕組みとして設立しました。私は2003年の発足から専門委員に就任し、これまでに恐らく200件以上の事件で地盤の専門家の立場から意見を述べてきました。

 

 ――引き渡しから住宅の品質を保証する「住宅品質確保法」の成立の元になった事案にも関わったそうですが。

 1998年に倒産した秋田県の第三セクターが建築・販売した千葉県の住宅が欠陥だったとして、住宅の購入者らが損害賠償を求めた民事裁判を起こしたケースがありました。裁判では、原告が購入した土地と住宅で建物が傾いたり柱が浮くなどの被害が出たのは欠陥がある違法建築のためと主張しました。私は、このときに地盤などを中心に現地を調査しました。後に和解が成立するのですが、この訴訟が大きな関心を呼び、欠陥住宅問題がクローズアップされました。この事案が国会でも取り上げられ「住宅品質確保法」が成立し、00年に施行されるきっかけになりました。

 ただ、阪神大震災後など建築基準法が改定され耐震基準などの点で建築基準は何度か見直されてきましたが、建物の基礎に関わる地盤についての規定はいまだ手つかずで、未整備です。

 

 ――地盤の専門家の視点で見た家選びは?

 家を建てる時に重要なのは「どんな家を建てるか」よりも「どこに家を建てるか」なんです。マンションでも一戸建てでも、建築基準を厳しくしていくら建物を頑丈にしても足元の地盤が弱く、洪水や地震によって崩れてしまったら建物は傾いたり壊れたりします。

 阪神大震災や東日本大震災でも地盤の液状化被害が問題になりました。一見硬そうな地盤が地震の揺れで液体状になる現象です。その結果、地上の建物や道路などが沈下したり傾いたりします。各自治体で出している地震防災地図では地盤について表記しているものがあるので、そうしたものを見て地盤の液状化の危険性を調べることができます。また、液状化は、埋め立て地、河川跡、河口跡など地下水の水位が高く、緩い砂地の地盤で起こる可能性があります。

 また、水に関係する漢字「谷、田、橋」や「沢」などさんずいの付く漢字の地名も要注意です。不適切な基礎では、地震による液状化だけではなく、不同沈下が起こる可能性もあります。

 一番分かりやすいのは、標高がわかる地図を見ることです。周囲よりも低い場所は水が流れていたかもしれません。海沿いだったら地震に伴って津波に襲われる可能性もあります。残念ながら首都圏などの大都市の宅地は、適地ばかりに家を建てられるわけではないので、あらかじめの対策が必要になります。

 

 ――液状化以上に家の擁壁の危険性を訴えていますが。

 首都圏では高台の造成地などで斜面に家を建てるケースはあちこちに見られます。その土台として築かれる擁壁は高さが2m以下の場合、法的な規制を受けていません。ただ石を並べただけの「空石積み擁壁」やブロックを重ねた「増し積み擁壁」、擁壁の上にさらに擁壁を築いた「二段擁壁」などは建物を支える地盤として強度に問題があるものが見受けられます。地震で崩壊したり、土砂災害で崩れたりする恐れのある、人命に関わる問題だと思っています。

 

 ――新しい建築材料として土の活用も研究されているとか。

 土にセメントとビニール繊維を混ぜて作った材料が建築材料として優れた性質を示しています。土はどこでもあるし、ビニールは安価です。昔の土壁とは違って水に強いし、柔軟性も強度もあるので梁(はり)にも壁にもできます。それにくぎも打てます。災害住宅に利用したり、発展途上国での住宅などで使うことができないかと考えています。

 

 ――ところで、ご自身はどんな学生でしたか。

 私が入学した頃はちょうど学園紛争が激しかった時期です。それまで学生運動がなかった東海大学でも始まっていました。入学して1年間はあまり講義がなかった覚えがあります。そんな中でも学ぶときは学び、遊ぶときは遊ぶメリハリのある学生生活を送ろうと心がけていました。

 大学に入った時の目標は故郷の石川県で父親の設計事務所を継ぐためでした。建築の設計をしっかりと学んだつもりでしたが、設計の分野ではいつも評価が良くなかったですね。その代わりに構造力学や材料学などの研究が得意で、そのまま博士課程に進んで研究者の道を選ぶことになりました。

 

 ――今の学生の印象は?

 基本的には教えやすく、素直です。逆を言えばおとなしいという面もあり、昔と同じようには扱えない難しいところがあるかと思います。長所と短所それぞれみながら指導して伸ばしていく必要を感じています。学生にはよく言うのですが、入学した時には自分の向き不向きなんてわかりません。だから、大学でいろいろ経験しながら自分の適性を見いだしていくことが大事だと伝えています。

 

 ――学生へメッセージをお願いします。

 実験室は泥まみれで、ヘルメットが転がっているような研究室です。女子は敬遠するかもしれません。しかし、特殊な分野ではありますが、地盤は建物を支える重要な学問です。地味かもしれませんが、男女関係なく、やる気があり経験を積めば、社会で十分活躍できる分野だと思います。

 

東海大学大学院工学研究科 科長、工学部建築学科 教授 藤井 衛 (ふじい まもる)

1951年生まれ。専門は建築基礎構造(地盤)。杭基礎や地盤改良の品質評価および地盤調査法の研究・開発に従事する。特に、我が国の戸建て住宅の基礎設計法のガイドラインである日本建築学会の「小規模建築物基礎設計指針」の幹事を務めた。宅地地盤の基礎設計に関する発表論文や著書も多く、戸建て住宅基礎設計の第一人者でもある。また、地盤や建物の基礎の建築紛争の専門家であり、宅地や擁壁の安全性に関する講演活動も多い。東海大学工学部建築学科卒業。同修士課程・博士課程修了。工学博士。日本建築センター基礎評定委員会委員長、東京地方裁判所民事調停委員・専門委員。コンクリートパイル建設技術協会理事。