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火山列島で考える噴火 地球規模で貢献できる人材育成を 理学部化学科 教授 (兼任:総合理学研究科 総合理工学専攻)
大場 武

2015年7月1日掲出

 鹿児島県屋久島町・口永良部(くちのえらぶ)島の新岳が5月29日、噴火し住民が全島避難をした。また、神奈川県箱根町の大涌谷(おおわくだに)周辺では6月30日、小規模な噴火が発生し、噴火警戒レベルが入山規制の「3」に引き上げられるなど、日本各地で火山の活発な動きが伝えられている。火山噴火とはどういうものか、地震との関連性はどうなのか。東海大学理学部化学科の大場武教授に話を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 米田堅持】

 

 ――昨年は9月の御嶽山噴火に続き、阿蘇山も噴火しました。今年も5月に入ってからは箱根山の噴火警戒レベルが引き上げられたり、口永良部島でも噴火があり、日本全体で火山の活動が活発化しているように感じますが、実際はどうなのでしょうか。

 火山には周期的に平穏な時期と活発な時期があります。長期トレンドで見ると、桜島は私が学生だった時代、山頂まで登って火口を見に行けるのではないかなどと話すほど穏やかでしたが、今は活発な時期に入っているので無理です。口永良部島も周期的に噴火していて、周期が重なった可能性があります。プレートの応力がすべてを支配しているならば、近隣のすべての火山島の活動が活発になるはずですが、特に異変はなく個別に動いている可能性が高いです。ただ、地殻の変動が補助的な要因として関係しているかもしれませんが、証明するのは困難です。

 現在、たまたまいくつかの火山の活発な時期が重なってしまっているため、連動しているように感じてしまいがちですが、日本中の火山が活発化しているとまでは言えません。昨年の御嶽山の噴火後は、世論がより安全を意識する状況となったこともあると思います。箱根は2001年にも今夏と同じような状況になっていますが、立ち入り規制は実施されませんでした。

 

 ――「噴火」とは、どのような現象で、どのような種類があるのでしょうか。

 噴火はマグマが溶岩として流れ出る噴火だけでなく、爆発を繰り返す噴火もあります。

 本格的な噴火が、マグマが溶岩として流れ出る「マグマ噴火」と呼ばれる噴火で、最近はあまり起きていません。溶岩が流れ出るにはガスが抜けていないといけません。この前には「水蒸気爆発噴火」のような爆発的噴火が起きて、マグマの通り道ができます。地震が起きて火山灰が出て、最後に溶岩がだらだらと流れ出るというのが典型的なパターンです。富士山や伊豆大島、三宅島などで想定されている噴火はこのタイプですが、それほど多くはありません。ハワイのキラウエア火山は高温の特殊なマグマが流れ出ていて観光名所にもなっています。

 「水蒸気爆発噴火」は「水蒸気噴火」とも呼ばれています。マグマは上がってきません。温泉などの熱水だまりが地下1キロより浅い部分で、圧力が上がって地殻が耐えきれずに発生する噴火です。マグマの熱と水が反応して起きます。御嶽山や箱根、草津白根はこのタイプです。マグマが動かないので前兆となる地震が起きることはほとんどなく、予測することは困難です。御嶽山が1979年に噴火したときは「死火山」が噴火したと言われて大きな話題になりました。火山で蒸気の上がっているところ、噴気のある場所であれば、どこでも起きる可能性があります。このような噴火の予測は火山学の重大な課題の一つです。

 「マグマ水蒸気噴火」は、マグマが上がってきて熱水や地下水に接触し、冷たい水が瞬間的に水蒸気になることで圧力が急上昇して地下が高圧になって爆発するもので、一番爆発力が強く、噴出物も遠くまで飛ぶ危険な噴火です。海底火山で多いタイプの噴火で、ある深さより浅いと起きます。過去には、明神礁で海上保安庁の測量船が巻き込まれて殉職者も出ています。口永良部島の噴火はマグマ片が見られたので、このタイプに近い噴火と見られます。

 

 ――東日本大震災のような巨大地震と噴火には関連性があるのでしょうか。

 東日本大震災以降、岩手山をはじめ、東北にはたくさんの火山がありますが噴火はしていません。あれだけ揺れた地震で、火山性の地震が増えるなど微妙な影響は与えたかもしれませんが、地震が直接影響して噴火に至ったケースはありません。

 地震と噴火の年表を作ってみても科学的には証明できるレベルではありません。過去には、東南海地震の後に富士山が噴火したことはありますが、メカニズムが解明できていないのが実情です。プレートが押した時に噴火するのか、押した力が弱まるから噴火するのか、そういう面も含めて統一見解はありません。

 近年、新しい観測技術が次々に開発され、10年前では無理だったデータがたくさん得られるようになりました。大涌谷が30センチメートル隆起していることは、01年当時にもあったと思いますがわかりませんでした。新技術でデータが得られたからといって噴火の予知ができるわけではありませんし、新たなデータが得られたことで、新しい謎を生んで悩んでしまうこともあります。まだまだわからないことが多いのです。

 

 ――火山に関する報道でよく耳にする「火山噴火予知連絡会」とはどんな組織で、どのような活動が行われているのでしょうか。

 火山の現場で研究をしている大学や国立の研究機関の関係者たちが集まって、生のデータを報告しあい、気象庁が全体の意見をとりまとめています。学会と違い、予知連で出た見解は気象庁の行政活動に直接反映されます。

 学者は遠慮なく生のデータを自由に出せるように責任を問われないようにはしていますが、慎重に議論を進めて合意形成に努めています。発表は気象庁が責任を持って行っています。だから何月何日に噴火しますといったことは絶対に出てきません。

 

 ――先生の専門の一つであるレーザー光による火山観測について、教えてください。

  火山ガスを現場で採取していますが、噴火してしまうと近づいて観測することはできません。そこで、離れた場所からレーザー光を当てて散乱した光を分光器を使ってガスの成分などの組成を調べようとしています。

 現在は、夜でないと散乱が見えないことや、軍事用レベルのレーザー光の強さが必要なこともあって開発途上の段階です。原理的には確立していて、需要は多くあります。軍事研究から民間へ技術が移転され、活用できるようになれば使えるようになるかもしれません。

 

 ――噴火を予知することは可能なのでしょうか。

 予知というのは神の領域であって、人間がやれるのは予測ぐらいでしょうか。気象衛星を使い、ここに雲があると逐一わかっている天気予報でさえ、完璧にはできないように、自然現象をあらかじめ知ることは困難です。

 火山や地震は地面の下という見えない部分で予測するので、さらに難しくなります。もちろん、事前に何らかのシグナルはあるのではないかと考えられるのですが、事前のシグナルをノイズと区別することは難しいのが現実です。火山は場所がはっきりしているので、そこにセンサーを配置すれば良いのですが、地震となると場所がわからないのでさらに難しくなります。

 観測技術が進化しても予知ができるわけではありません。過去にこれが起きたからこうなるだろうという経験値でしかありません。北海道の有珠山のように浅い場所で強い地震が起きたら噴火するというワンパターンの活動をする火山であれば、噴火前に避難をして人的被害を抑えることができます。しかし、ワンパターンではない予想外の活動をする火山のほうが多いです。火山の場合は、実験室で実験を繰り返すことはできませんから、観測を精密にやってデータを積み重ねて、モデルを立てて次を予測して修正するというのを何十年と繰り返すしかありません。

 一方で、いつ噴火が始まるかだけではなく、いつ噴火が収まるか、いつまで続くのかを予測することも、始まることの予測以上に大事です。研究者が言えるのは過去にこれぐらい続いたから、このぐらいでしょうという程度しか言えません。箱根であれば、前回の経験からすると3カ月は続くでしょうとしか言えません。

 

 ――私たち一般市民が、火山災害に対してできる備えにはどのようなことがあるでしょうか。

 火山災害が予想される自治体などでは、ハザードマップが作られていて、インターネット上で見ることが可能です。住まいの近くに火山がある方は、ふだんからチェックしてどういう被害があるかを予想しておくと良いでしょう。

 また、これから住もうとしている場所が、火山災害の影響を受ける場所であるかも、ハザードマップを見れば予測できます。危険とされる地域に別荘などを建てるのはやめたほうが良いと思います。

 火山災害では、噴石などが当たって死ぬようなケースはそれほど多くありません。富士山が噴火したとしても、それだけで死に至るケースはそれほど多くないでしょう。

 地震同様に、どこへ避難し何を持ち出すのか、家族との連絡方法を確認するといった基本的な面を再確認しておくと安心です。また、ヘルメットもあれば有効だと思います。

 

 ――現在の研究分野に興味を持ったきっかけを教えてください

 東京工業大学の理学部に進み、卒業研究のときに、恩師となる故松尾禎士先生と出会いました。松尾先生は、化学の世界の中で火山を研究していて異色の存在でした。私も異色の存在かもしれません。自分のやりたかった天文学に近い地球化学と松尾先生に出会って、これは面白いと思い、朝から夜遅くまでずっと研究室にいるようになりました。

 

 ――今後取り組んでいきたい研究テーマは、どんなことでしょうか。

 箱根や草津白根などの研究は今後も続けていこうと思っています。火山へ行くのは今も大好きです。箱根の調査のために、バイザー付きのヘルメットと防護用の盾とプロテクターが必要なので買いそろえました。現場へ行けば、においで噴出しているガスの種類もわかります。

 日本には、これだけ火山がありながら、火山学という名称を掲げた大学さえありません。国立天文台のような火山研究所を作るべきではないでしょうか。イタリアにはあります。

 日本の火山化学は欧米のように地質学の一部ではなく、理学部の化学科で研究が行われてきました。そのため、分析に重きを置きがちでした。私自身は、地球化学をもとにした火山研究を通して、今後は国際的に貢献できる研究を行って、人材を育成していきたいと思っています。

 

 ――学生や若者に対してメッセージをお願いします。

 もの作りや自然を体験することでサイエンスに興味を持ってほしいですね。「これ、面白いよ」と人から言われて感じるのではなく、自分自身で面白いことを見つけることができる、そんな若者であってほしいと思います。

 

理学部化学科 教授 (兼任:総合理学研究科 総合理工学専攻) 大場 武 (おおば たけし)

1961年生まれ。専門は化学的な手法による火山活動の評価や火山噴火予知に関する研究。1988年東京工業大学理工学研究科化学専攻博士後期課程修了、理学博士。東京工業大学草津白根火山観測所助手、同火山流体研究センター准教授を経て、2010年より東海大学理学部化学科教授。2010年から地球規模課題対応国際科学技術協力事業「カメルーン火口湖ガス災害防止の総合対策と人材育成」の研究代表者を務める。カメルーンから3名の博士課程留学生を受け入れ、指導教員として2015年3月までに学位を取得させた。神奈川県自然環境保全審議会委員なども務めている。