オピニオン

グローバル時代の企業の海外進出 デザインが切り拓く未来 政治経済学部 経営学科 教授
岩谷 昌樹

2015年2月2日掲出

 経済のグローバル化が進むなか、企業の海外進出が加速している。ただ、海外で事業展開するということは異文化との衝突ともいえる。異文化に戸惑う企業は少なくないが、どう向き合い、どう対応すればいいのかなどを研究した国際経営論が注目されている。一方で米アップルのiPhoneなど優れたデザイン性を持つ商品がヒットする時代でもある。企業にとって最後の経営資源だとされるデザイン。今、注目される国際経営論とデザインマネジメント論を専門とする政治経済学部経営学科の岩谷昌樹教授に日本企業の針路などを聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 立山清也】

 

 ――専門の国際経営論について教えてください。

 私は学生時代から個別の企業に興味があり、その企業が海外に出て行った際に直面する課題を丹念にみてみたいと研究を始めました。グローバル企業が異文化とどう向き合い、どう対応しているのかを個別の企業を通してみていくのが私なりの国際経営論です。

 

 ――具体的には授業でどう教えているのですか。

 例えば、ディズニーランドやマクドナルドが異文化にどう対応したか。世界には米国2カ所、日本、パリ、香港にディズニーランドがあり、日本では大成功していますが、パリではオープン当初は不人気でした。アメリカ企業が勝手にやってきて何をやっているんだというアンチアメリカニズムから反感を買ったわけです。フランスが米国の農業政策を嫌っていた影響も大きかった。米国は自分たちの農産物は売るもののフランスの物は買わないため、「坊主憎けりゃ袈裟(けさ)まで憎い」となったわけですね。さらに欧州には本物の城がたくさんあるのに、どうしてお金を払って眠れる森の美女の城を見に行かないといけないんだと。だから、オープンしてしばらくは赤字。そんな時にディズニーがとった打開策はソフトパワーです。「ノートルダムの鐘」といったフランスを意識した映画を作ったり、米国では禁じているアルコールを解禁したりして人気を得ていったわけです。後に再びフランスを舞台にした「レミーのおいしいレストラン」も作りましたよね。

 次はマクドナルドですね。インドに進出した際に直面したのが食文化の違いでした。牛は神聖で牛肉がタブーのヒンズー教徒が多いため、羊肉を代用したマトンバーガーを提供してインドの食文化に対応したわけです。

 

 ――授業でほかに取り上げたテーマはありますか。

 例えば、英国のインターブランド社という格付け会社がグローバル企業のブランドを数値化して上位100社のランキングを出していて、学生も興味があるだろうと取り上げています。2014年の1位はアップル、2位がグーグル、3位がコカ・コーラで、9位にマクドナルド、13位にディズニー。日本企業では8位のトヨタ自動車がトップですが、実はアジア1位ではないんです。サムスンが7位とトヨタよりも上で、トヨタはここ数年サムスンに負けています。ほかに日本企業だとホンダは堅調ですが、ソニーはどんどん落ちている。あとはキヤノン、日産、パナソニック、任天堂ぐらいしか入っていません。日本企業は水準的にはもっとグローバルブランドに入ってきていいはずなのに、こんなに少ないのはブランド作りが下手なのではないかとか、いろんな課題がみえてきます。

 ランキング入りした海外の企業も丹念に取り上げていて、例えば、ファストファッションのH&Mは21位、ZARAは36位で、99位のGAPよりなぜ上位にランキングしているのか。これは、GAPは大量生産で作り置きしているためトレンドから外れたものを売ることもあり、若者が「GAPはずれている」と離れていく一方、H&MやZARAはその時のはやりを追っていて売り切れたら作らないからです。また、任天堂が落ちてきたのはスマートフォンのゲームが伸びているからで、これからはスマホとどう連動していくかが課題だとか、ソニーがサムスンに水をあけられるのはなぜかといったことも説明します。

 

 ――国際経営論ではランキングの裏にある企業の課題も浮き彫りにするのですね。

 個別企業を分析していくのも国際経営論の手法、スタイルなんです。例えば、コカ・コーラは作った親、名付けの親、育ての親が違う。米国の薬剤師が頭痛薬を作ろうとして調合を間違えてたまたまできたシロップがコカ・コーラ。薬局の経理担当者がコカ・コーラと名付けてロゴも考えたんです。薬剤師は自分の仕事もあるし、売れば売るほど赤字だったので権利をレシピごと売ることにし、青年実業家が買い取って彼が初代社長として育ての親になりました。これをドラマに仕立てて説明しています。

 安く買ったレシピがコカ・コーラ社を1990年代にブランド1位を獲得する企業へと成長させたわけですが、その一方でコカ・コーラ社は何度も転売されて社長が代わるおもしろい企業でもあるんです。コカ・コーラにはペプシというライバルも登場したんですが、コカ・コーラのカラーが赤色なのに対し、ペプシが青色。世界では広く赤がチャンピオンの色で、青はチャレンジャーの色になっているからです。ボクシングの赤コーナー、青コーナーがおなじみですよね。それでペプシは常にチャレンジしていて毎年おもしろい味のペプシを出してコカ・コーラと戦っているわけです。それは競争戦略のコンセプトでもあり、ライバルとは違うことをいかにやるかということが理解できます。

 

 ――もう一つの専門であるデザインマネジメント論について、教えてください。

 最終的に消費(購入)を決定させるのは商品の色形、つまりはデザインです。経営に必要な最後の経営資源がデザインであり、それをどう戦略的に活用するかがデザインマネジメント論です。

 

 ――なぜ、デザインマネジメントに興味を持ったのですか。

 大学院時代にソニーで「ミスターウォークマン」と呼ばれた黒木靖夫さん、ホンダの四輪デザインに携わった岩倉信弥さんの2人が客員教授となり、2人に共通していたのは芸術学部系出身でそれぞれ取締役となったということでした。他にデザイナーでトップマネジメントに入ったのはシャープの坂下清さん。当時の大手企業ではその3人でしたが、デザイナーがトップマネジメント入りするメリットは、いいデザインにはすぐゴーサインが出せるということ。確かにソニーもホンダもシャープもいいデザインの商品を出していましたし、授業を聞いているうちにデザインの重要性を認識させられました。米アップルや英ダイソンの商品がデザインも機能もよくて売れているのをみると、デザインセンスにたけていることが経営の条件だと痛感させられます。

 デザインはグループワークでないとできないので、デザイナーにはチームワークが求められます。アップルが成功したのはデザインを理解していたスティーブ・ジョブズとジョナサン・アイブが、マネジャーとデザイナーとして組んだからです。だからこそ、iPadやiPhoneが出てきたわけです。最近ではサムスンがデザインを重視していて、点在していたデザイン部署をソウル本社に集めましたし、チョン・グクヒョンというデザイナーをマネジメント層に入れました。それがサムスンの勢いにもつながっているのだと思います。

 

 ――これから日本企業はどうすればいいのでしょうか。

 アジアの人はメード・イン・ジャパンに魅力を感じています。アジア各国では「日本のかけら」と言っていますが、日本をまねた商品がいっぱいあります。いまだに日本はアジアのアニキみたいな存在ですし、韓国や中国に負けないためにも最後のとりでとしてメード・イン・ジャパン、つまり、きめ細かさとか、よくできているとか、簡素であるとか、デザイン性などをを売りにできるのでないかと思います。

 

 ――グローバル化についてのお考えを。

 ニューノーマルという言葉がありますが、今はアブノーマルな状態が通常だという考え方ですね。乱気流が当たり前で乱気流に慣れないといけないという時代です。安定飛行が望めないなか、グローバル化については三つの考え方があります。一つはどんどんグローバルしようというハイパーグローバリストというもので、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)にもどんどん参加しようという考え方です。二つ目はグローバル化よりもローカルでやっていけばいいという懐疑論者。最後は時代に応じて変わっていくしかないという転換主義。私は転換主義を支持していますが、最終的には「蚊帳」のようなものを張る必要があるでしょう。例えば、TPPには部分的に参加しつつも浅くとどめておくのがうまく機能するのでないか。窓を開けて新鮮な空気を入れてグローバル化のメリットはもらいつつも、蚊帳を張ることで変な虫、つまりはグローバル化のデメリットは遠ざけたいということです。それが理想だと思いますが、現実にどうすればいいかというのは難しい問題です。

 

 ――グローバル化のなか、日本企業は海外にどう進出していけばいいでしょうか。

 コスト競争などもあり、中国や韓国勢と勝負するのは難しくなっています。だから、ビジネスを関連ビジネスにシフトチェンジするという考え方があるでしょうね。シフトチェンジした成功例として富士フイルム。デジカメ時代に米国のコダックはフイルムからの移行に失敗しましたが、富士フイルムは写真現像時の劣化防止技術を横移動させ、アンチエイジングの化粧品に転用しました。ニューノーマルの時代、もう一つの主戦場をどこに求めるかのマネジメントに成功したわけです。これが事業シフトの一例ですが、マーケットのシフトチェンジというのもあります。一番乗りした企業が高いシェアを得られる可能性が高く、その一例はアフリカでカップラーメンの販売に乗り出す日清食品です。新しい市場を開拓する際には、単価を下げず、高付加価値でデザインを相棒にしてやっていくのが理想です。

 

 ――グローバル展開する企業の現地法人の経営について考えを聞かせてください。

 本社と現地法人のやり方のどちらに重きを置くか、つまり集権化と分権化をどうバランスをとるかということなら、最初に進出する時は7対3ぐらいで本社に重きが置かれるのが理想でしょうね。ただ、バランスをとろうとすると結局はうまくいかない。例えば、ホンダは1970年代に日本の自動車メーカーとして初めて米国のオハイオに進出しましたが、この時は日本本社はゼロ、現地が100の現地経営主導型で成功したと言われています。日本の色をまったく出さなかったのが成功の秘訣(ひけつ)というわけです。ディズニーランドパリのように米国で日本色を出すと反感を買ったでしょうね。

 ホンダは布石としてアメリカンホンダというオートバイの販売会社を設置しており、その会社が建てるホンダの工場という体でドルで出資しました。つまりは米国の会社だとドル色を強めたわけです。米国人を雇用し、事務所棟には3本の旗を立てましたが、日の丸やホンダのHマークでなく、星条旗とオハイオの州旗、もう一つがホンダの工場であるホンダオブアメリカマニュファクチャリングを意味する「HAM」という旗でした。従業員をアソシエートと呼んだり、社長も一緒にご飯を食べたりして分権化100%で米国で支持を得ました。これが0対100のアプローチの仕方。その後に7対3に持っていけばいいわけです。

 もう一つは真逆の例で、100対0で日本を持ち込んだのがスズキ。80年代にインドに進出、合弁会社を設立してマルチ800を売り出して大ヒットしました。これは日本式を100%持ち込んで、インド人にやり方を教えたから成功しました。この2社のケースは出ていったのが先進国だったかどうかが大きく影響しています。ハードをどうするかよりもソフトの部分の意思決定権や人事任命権、予算権限が誰にあるかをきちんと決めておきさえすればいいというのが今の理想でしょうね。

 

 ――日本企業が進出先の国に根付くという発想は必要ないですか。

 土着化と言われていて、ロングホーン企業、ショートホーン企業というコンセプトがあります。ロングホーンというのは角が長く生えていて、現地に根付いているんだけども、角は傷だらけになっています。現地の人と分かり合ってやるには傷が付くものですが、その分だけ現地に根付いているので簡単には撤退しません。日本の自動車や家電で海外に工場を持ってやっている企業の多くは何かあっても撤退はしないでしょうね。

 一方、ショートホーン企業、例えば、急成長したIT企業には苦労せずにグローバル化したケースもあり、何か問題が発生するとすぐに撤退するでしょうね。これは異文化に対する苦労の度合いが影響していると思います。ITなどシリコンバレー系の華やかな企業は国境を容易に越えていきますが、根付く苦労をしていないので撤退もします。ロングホーンは大変な目に遭ってきたでしょうが、一度根付いたら強いというのはありますね。日本企業には社員を家族のように大事にする文化がありますし、時間はかかるでしょうが根を張るという形が一番いいのかもしれませんね。

 

 ――エンターテインメント系の研究もされているようですが。

 エンターテインメント産業の中でもピクサー、ディズニー、スタジオジブリに興味があったので、彼らがどんな発想で映画を作っているのかを調べ始めたのが始まりです。最近は研究もあまり進んでいませんが、クリエーティブマネジメントの視点からピクサーとジブリがチームとしてアイデアをどう作品に落とし込むかのかをみていきました。これは働き方の問題でもあるのですが、うたた寝OKの企業は生産性が上がっているといいます。ピクサーも娯楽施設のようなフロアがあって創造性を高めています。彼らはスパゲティのソースをからめるようにチーム内で出たアイデアを混ぜるんですが、その場合、前日までに作ったのを試写して「だめだ、だめだ、だめだ」とチーム内で言い合って作品の内容を高めているんです。これはアイデアではなくチームの優秀性こそが重要なんだということを示しており、他分野の商品開発にもいかせる手法でないかと考えます。

 

 ――エンターテインメント産業で日本が目指すべき方向性とは。

 海外での日本の漫画やアニメ、ハローキティの浸透度、人気は半端ではないですね。そのまま海外に持っていっても通用すると思います。ディズニーと比べても勝るとも劣らない。どんどんコンテンツを輸出すべきです。海外では日本人は非常に創造性、クオリティーの高いものを生産しているのに自覚していないと言われていて、そこが日本人の一番の問題でもあるんです。コンテンツを輸出するクールジャパンのポテンシャルは高いと思いますよ。

 

 ――大学では何が学べますか。

 社会力を身につけられるというのに尽きます。社会力とは社会適応能力で、今ある社会に自分をうまくフィットしていける能力と、社会創造力といって例えば会社で効率よく物事を進められるとか、作業を短縮できるとか、自分で改善、改革できる能力です。大学には海外や全国から多くの学生が来ていて、いろんな人の考え方に触れて学ぶことができ、自分を成長させられます。

 

 ――最後に、学生や若い人たちへメッセージを。

 内面という意味では、FEEL&THINKとよく言っています。「?」と「!」を並べて表される例もありますが、おかしいとまず感じて、それから自分で考えて解決しましょう。問題を見つけて問題を解決することが大切です。対外的なことは、コミュニケーション力に尽きます。仕事は一人でするわけではなく、チームでするものです。初対面で隣あわせた人に何を話しかけるかというアイスブレイクが重要です。人から学ぶためには、どこかで何か話さなくてはいけない。打ち解けられる能力が大事だと思います。

 

政治経済学部 経営学科 教授 岩谷 昌樹 (いわたに まさき)

1973年岡山県倉敷市生まれ。1996年立命館大学経営学部卒業。2001年立命館大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士号取得(経営学)。2003年東海大学政治経済学部専任講師に就任。同大学准教授を経て2013年より現職。主な著書に『ケースで学ぶ国際経営』中央経済社、2005年。『トピックスから捉える国際ビジネス』白桃書房、2007年。『グローバル企業のデザインマネジメント』学文社、2009年。これまでに14冊を出版(共著、翻訳書を含む)。最新刊は『デザイン・バイ・マネジメント』青山社、2014年。『グッチの戦略』東洋経済新報社、2014年(いずれも共著)。2012年には経済産業省・小型白物家電に関する新事業戦略研究会の委員を務める。教育活動では2006年度及び2009年度東海大学Teaching Award優秀賞受賞。20代には、詩人としても活動し、『何のたくらみもない』近代文藝社、1994年。『顔(かんばせ)』日本文学館、2003年を出版。現代詩での受賞は、第14回国民文化祭・ぎふ99現代詩大会にて日本現代詩人会会長賞。2002年JTキャスターコンテスト準グランプリ。