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社説

松本死刑囚ら7人の刑執行 再び闇を生まないために

 地下鉄サリン事件などオウム真理教による一連の事件で、松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚ら7人の刑が執行された。

 化学兵器に用いられる猛毒のサリンが東京の中心部でまかれる前代未聞の化学テロで、多くの尊い命が奪われた。社会に与えた事件の衝撃と特異性は、戦後事件史の中でも際立っている。

 平成という時代に起きた事件の教訓に私たちは改めて向き合う必要がある。

 「私は日本の王になる。真理にあだなす者は殺さなければならない」。そう説く松本死刑囚の下で、教団は、坂本弁護士一家殺害事件や、猛毒のVXを使った殺人事件、さらに松本、地下鉄の両サリン事件など陰惨な事件を次々と起こした。

国家転覆目指した異常

 皇室を狙い、国家転覆まで企てた。それぞれの事件の構図や、誰が関わったかについては、法廷の審理を通じ、かなり明らかになった。

 また、信者が教団に傾倒していく経緯や、教団生活の実態についても法廷で語られた。

 だが、このような理不尽な犯罪が、なぜ優秀だった多くの若者を巻きこんで遂行されたのか。その核心は、いまだ漠としている。

 その大きな原因は教祖だった松本死刑囚にある。松本死刑囚は、東京地裁の公判の最初の頃こそ、弟子たちに責任を転嫁する発言をしていたが、1審の途中から意味不明の言動を繰り返し、沈黙し殻に閉じこもってしまった。

 日本の社会にとってオウム事件とは一体、何だったのか。

 松本死刑囚は真相を語ることなく、刑が執行された。それでも、その問いかけは依然私たちにとって重い意味を持つ。

 作家の村上春樹氏は、地下鉄サリン事件の証言集「アンダーグラウンド」の中で、こう述べている。

 事件を起こした「あちら側」の論理とシステムを徹底的に追究し分析するだけでは足りないのではないか。オウム真理教という「ものごと」を純粋な他人事として、理解しがたい奇形なものとして対岸から双眼鏡で眺めるだけでは、私たちはどこにも行けないんじゃないか--。

 1980年代後半から90年代半ば。バブルからその崩壊にかけて現実感が希薄化し、超常的な力へ人々の心が引き寄せられる中で事件は起きた。そうした中、人類救済を掲げていた教祖の価値観を、洗脳された若者が全面的に信頼してしまった。

 多くの信者が今は、マインドコントロールの呪縛から解き放たれている。これまで口を開いていない人も少なくないだろう。カルト思想については、国際的にも注目されている。村上氏のいう「あちら側」の対岸で、検証を重ねるべき対象は、まだまだ残っているはずだ。

根源的な問いかけ続く

 社会心理学を専攻する立正大の西田公昭教授は、3年前本紙のインタビューに答え「現代は当時と比べても社会が成熟したとは言えず、現実社会を見限る若者が出てくる状況も変わっていない」と指摘した。

 さまざまな課題が今なお私たちの目の前にあるのは確かだ。根源的な問いかけへの答えは簡単には見つからない。多くの意見に耳を傾け前に進むしかない。

 今回の執行の影響は多方面に及ぶだろう。

 オウム真理教には、主流派の「アレフ」や「ひかりの輪」など三つの後継団体があり、約1650人の信者がいるとされる。

 今年1月、団体規制法に基づく観察処分が更新された。特に「アレフ」は、松本死刑囚への帰依が依然、強いとされる。

 再び闇を生まないために何ができるのか。国民に不安が生じるようなことがあってはならない。公安当局は、注意深く後継団体の動向を監視する必要がある。

 松本死刑囚を含め7人の死刑の執行が1日のうちに行われたことも驚きだった。上川陽子法相は「被害者の苦しみは想像を絶するものがある。慎重にも慎重な検討を重ねたうえで命令した」と語った。

 死刑制度については、死刑廃止国が140カ国を超え、執行している国を大きく上回っている。

 一方、死刑の存廃については、各国の事情などに応じて独自に決めるべきだというのが日本政府の立場だ。どう死刑制度と向き合っていくのか。そこもまた問われている。

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