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がんドクトルの人間学

「心の栄養 七曜訓」の勧め=山口建(県立静岡がんセンター総長)

 健康な身体を鍛えるには、さまざまな栄養素が必要です。それと同じように、豊かな心を維持するにも、心に栄養を与えねばなりません。しかし、心の栄養素の実態は明確ではありません。そこで、科学的根拠には乏しいが、日ごろ、私が実践していることを紹介します。

     健康に恵まれ、家族や友人と楽しい時間を過ごし、旅に出て自然や歴史に触れ、あるいは自らの趣味を探求する。そのような暮らしは、心に多くの栄養を与えます。

     ただ、超高齢社会になると、1人暮らし、あるいは老老介護といった状況が避けられないこともあります。また、さまざまな病気で療養生活を送らざるを得ず、孤独な精神状態に耐えねばならない人も増えてきます。

     そこで、独りでも心に栄養を与える方法として、「心の栄養 七曜訓」を考えました。その基本は、「日月火水木金土」の七曜の自然、文化を大切にすることです。

     まず、日曜日。太陽は、明るさの象徴です。少々のうつ的な心は、太陽の明るさの中で希望に変わります。太陽はまた、身体を暖め、血流を良くし、骨を強くするなど、身体と心の両面で良い効果を発揮します。晴天ならば5分間、曇天ならば10分間、皮膚の一部を太陽に当てるだけで効果が出ます。冬の寒さの中で、ひなたぼっこほど閉じこもりがちな心をいやしてくれるものはありません。

     月曜日、すなわち月は、太陽と違って直視できる天体です。澄み渡った空の満月は感動を与えてくれるし、雲の合間に見える三日月も風情ある存在です。月以外でも、喜怒哀楽につながるものは皆、心の栄養になります。書物、テレビドラマ、スポーツ、映画、ペットとの交流など、たとえ怒りや悲しみを伴っていても、心を揺り動かすことは心の栄養につながります。

     火曜日、すなわち火は、人類が長く親しんできた文明の利器です。何万年、何十万年も前に、火によって夜の闇が克服されました。調理に用い、暖をとるのにも活用しました。私たちには、火に親しみを覚える遺伝子が組み込まれているようで、火や炎は太陽や月とも違う、心の安らぎを与えてくれます。ただ、昨今の暮らしで、火や炎を見る機会が著しく減りました。私自身は、仏壇のろうそくが火を見る唯一の機会となっています。そこで先祖の霊と対話することは、別な意味での心の栄養となるように思います。

     水曜日、すなわち水は、目の前に広がる海原、海岸の波の音、静かな湖、あるいは川の流れとして心に潤いを与えてくれます。それとともに、水やお茶を飲むことによって脱水を防ぎ、老廃物を洗い流すことができます。

     木曜日は、木や草花をイメージし、めでることを考えてください。木々の緑や草花の色は視覚に、匂いは嗅覚に、風に動く枝葉の音は聴覚に、木や草花に触れれば触覚に、実のなるものは味覚にといった具合に、五感に働き、いやしに役立ちます。

     金曜日はお金です。人は、自分のため、家族のために少しでも多く収入を得ようと努力し、工夫します。それは、脳の活性化につながっています。

     土曜日は、土であり大地です。人は、いつかは大地に返ります。大地をしっかりと踏み締めて立ち、歩くことで、自らの存在感と大地との連帯感が生まれるように思います。できれば、裸足で土を踏み締めたいのですが、けがをしないように気をつけることも必要です。

     これらの自然は、宇宙に存在する一切のものごとを指す森羅万象の代表です。曜日にとらわれず、触れ合うことをお勧めしています。病気になり、死を意識した患者さんの多くが、森羅万象のかけがえのなさに気づくようです。もしそうなら、元気なうちから「森羅万象を友とする」ことができるのではないか、と考えました。「心の栄養 七曜訓」は、そういう患者さんから学んだものの一つです。

          ◇

     来週は「東ちづるのLet’sまぜこぜ!」です。


     ■人物略歴

    やまぐち・けん

     1950年三重県生まれ、慶応大卒。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)研究所副所長などを務め、99~2005年に宮内庁御用掛を兼務し、02年から現職。同年から厚生労働省がん拠点病院検討会委員、18年6月からがん対策推進協議会会長。

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