オピニオン

人工衛星から地球を観測するリモートセンシング 防災や温暖化監視、技術幅広く 情報理工学部 情報科学科 教授
長 幸平

2014年11月4日掲出

 人工衛星などから地球を観測するリモートセンシング技術は1970年代以降、さまざまな分野で研究に活用されてきた。10月には気象衛星ひまわり8号が打ち上げられ、気象観測の精度向上が期待される。防災にも役立つと言われる技術「リモートセンシング」を使って地球温暖化や東日本大震災後の環境変化などの研究に長年携わっている情報理工学部情報科学科の長(ちょう)幸平教授に、研究の成果や今後の展望を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 銅崎順子】

 

 ――専門のリモートセンシングについて、教えてください。

 航空機や人工衛星に搭載されたセンサーで地球を観測する技術をリモートセンシングと言います。身近な例としては気象衛星ひまわりによる気象観測があげられます。上空から観測することで、地上ではわからない広範囲の環境変動や災害の状況を的確に把握することができます。

 1972年に米航空宇宙局(NASA)が人工衛星のランドサット1号を打ち上げたのがきっかけでリモートセンシングという用語が知られるようになりました。地上の植生分布や海面水温などいろいろな地上の様子を広域に把握できるため、世界的に利用が広まりました。私たちの目は可視光しか見えませんが、リモートセンシングでは可視光以外にも、紫外線、赤外線、マイクロ波といったさまざまな波長の電磁波を使って地球を観測しています。私たちが普段、天気予報で見ている気象衛星ひまわりの画像は熱赤外の画像で、温度が低いほど白く、温度が高いほど黒くなる画像になっています。このため、昼でも夜でも温度の低い雲は白く、温度の高い海や陸は黒くなります。これもリモートセンシングの技術を使って観測されたものです。

 

気象衛星ひまわりが捉えた台風19号の目(2014年9月10日)

 ――天気予報など、身近なところで技術が使われているのですね。

 そうなんです。しかも、この技術は日進月歩しており、10月7日に打ち上げられた気象衛星ひまわり8号では、カラー画像が取得できるようになり、観測頻度、分解能も向上するため、気象予報、環境変動把握の精度向上が期待されます。

 東日本大震災の際には、震災直後、世界中の地球観測衛星が被災地の観測を行い、5000シーンもの衛星画像が日本に無償提供され、被災状況の把握に活用されました。

 近年、さまざまな環境変動が発生していますが、その全容把握にはリモートセンシング技術が欠かせません。北極海の海氷分布変動観測も30年以上にわたって続けられており、北極海の海氷域の顕著な減少傾向を示す観測結果は、地球温暖化を断定する根拠の一つとなっています。最近もアラル海の砂漠化の最新状況がNASAから発表され、大きな話題を呼びました。私たちは、地上にいながらにして地球規模の環境破壊がわかります。

 

 ――災害監視にも役立ちますか。噴火予知などにも活用できるのでしょうか。

 噴火予知は簡単ではありません。継続的な衛星観測により山の膨張を計測し、噴火予知に役立てようとするような研究は行われています。しかし、災害を対象としたリモートセンシングは広範囲の災害状況を即座に把握し、その後の防災対策等に役立てるのが主眼と言えます。

 災害直後に雲がなく晴れていれば光学センサーで高分解能な画像が撮影できます。また、曇天のときは、雲を透過するマイクロ波センサーが有効です。さまざまな手法で現状を迅速に広域にとらえられるのがリモートセンシングの大きな特徴です。災害前後の画像を比較することで、被害状況を的確に把握することができます。今後はタブレットなどの端末に衛星画像を即時配信して、防災等に役立てたいと思っています。

 

地球観測衛星ALOSが捉えた東日本大震災前後の北上川流域(画像提供:JAXA)

 ――環境教育にも活用していると伺いました。

 震災後の東北地方の環境が再生していく様子を、衛星画像と現地調査でモニタリングしていく環境教育プロジェクトに取り組んでいます。これは、本学の学生や現地の高校生と、半年に1回、現地調査を行い、衛星画像と現地調査から、震災で環境がどのように破壊され、またその後再生していくのかを追跡していく5年プロジェクトです。土地利用の変遷も分かります。水田は増えてきています。沿岸部に高台を造成するため山間地で土砂が切り出されていることも分かりました。プロジェクトに参加した学生たちや高校生は、津波による被害の大きさ、震災復興の問題点、環境再生のたくましさを実感しています。

 

サロマ湖での現地調査の様子

 ――長先生の主な研究テーマは、海氷観測ということですがリモートセンシングをどのように使っているのですか。

 温暖化によってオホーツク海や北極海の海氷の分布がどのように変動しているかを調べています。最近は、マイクロ波センサを使って海氷の薄い領域を抽出する手法の開発をしています。衛星観測を長く続けることで温暖化の進捗(しんちょく)状態などが把握できます。冬場には学生を連れてオホーツク海沿岸で現地調査をしています。

これが1982年と2012年の北極海の夏の海氷分布の違い

 海氷観測の分野でも、アメリカのNASAの研究は圧倒的です。若い時に、何か対抗できることはないかと考え、オホーツク海のデータを詳細に分析しました。すると、NASAの解析手法の問題点が見つかり、それを低減するフィルターを開発して国際学会で発表しました。これを著名なNASAの研究者が見ていて評価してくれました。それ以来、その研究者と交流するようになり、今ではNASAに行くと自宅に泊めてもらう間柄です。

 研究はこのようにフェアです。アイデアさえあれば、NASAの研究者とも競えるし、議論も共同研究もできます。大変ですが、おもしろいです。

 

 ――リモートセンシング技術を使ってさまざまな研究ができるのですね。

 はい。農業、林業、都市開発、防災、気象などなど、裾野が広い分野です。好奇心を持つといろいろなことに使えますが、研究者としてはしっかりした専門性を持つことが大切です。ベースは画像処理の技術になりますが、それを見て最後に判断するのは人間です。正確に事象を見る目が大切です。

 

 ――研究室に来る学生は何に関心があるのですか。

 研究室に来る学生の多くは、地球環境の変動に関心があってリモートセンシングの研究を志望して来ます。

 

 ――研究室のモットーは「研究は楽しく、厳しく。」とのことです。

 まず、自分が研究テーマに興味を持ち、「調べたい、解明したい」と考えることが大切です。関心を持つと研究は楽しくなります。学生にはその楽しさを知ってほしいと思っています。でも楽しいだけではいい研究はできません。自分に厳しく、しっかり取り組む姿勢が大切です。

 

研究室の学生たちと

 ――東海大学情報理工学部情報科学科の特色についてお聞かせください。

 情報理工学部は、情報科学科とコンピュータ応用工学科の2学科で構成され、「情報と機械と人間」をコンピューターとの結びつきで捉えたユニークな教育・研究を実践しています。情報科学科は、情報を人間、脳科学、数理情報、画像処理などと結びつけ、多角的に研究しており、コンピュータ応用工学科は、コンピューターを中心にロボット、乗り物、知能情報システムの3分野で「ものづくり」を志向しています。両学科は、言わば理学と工学の二つの側面から情報技術の研究と教育に取り組んでいます。

 

 ――卒業後の就職先の業種・職種はどのようなものでしょう。大手メーカーや研究所の他に、警視庁科学捜査研究所もありますね。

 研究のベースには画像処理があります。画像処理は、リモートセンシング以外にも、さまざまな応用分野が広がり、就職先は多様です。その一つが防犯です。最近の犯罪捜査では監視カメラの重要性が増しており、画像処理は犯罪捜査に欠かせない技術となっています。私が研究員をつとめる東海大学情報技術センター(東京都渋谷区)では、毎年、警視庁や各県警から研修生を受けいれています。こうした中で、私たちの学科やセンターで画像処理を学んだ学生が、画像処理の専門家として科学捜査研究所等に就職するケースも出てきています。

 

 ――ご自身の学生時代についてお聞かせください。

 学部では応用物理を専攻していましたが、2、3年次は映画研究部で映画の製作に明け暮れていました。映画が好きだったこともあり、画像関係に関心がありました。物理を勉強していくことに行き詰まりを感じていた時、たまたま衛星画像を扱うリモートセンシングに出合い、これだと思いました。専門の大学院に進学してからは、研究に没頭するようになりました。

 

 ――今後取り組んでいきたいテーマは、どんなことでしょうか。

 現在は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が2012年に打ち上げた水循環変動観測衛星「しずく」(GCOM-W1)に搭載されたマイクロ波放射計2(AMSR2)で北極域などの海氷分布変動を調べることを大きなテーマにしています。独自の薄氷域抽出手法を開発中です。また、東日本大震災に関連して、欧州の研究者と即時監視に関する国際共同プロジェクトに取り組んでいます。このプロジェクトを発展させるつもりです。

 

 ――学生、若者へのメッセージをお願いします。

 さまざまなことに関心を持って、いろいろ経験し、知識を深めてほしいと思います。悩むことや挫折することも若者の特権です。失敗を恐れず、自分の道を切り開いてください。私たち教員は、そういうあなたを応援します。

 

情報理工学部 情報科学科 教授 長 幸平 (ちょう こうへい)

1955年生まれ。79年東京理科大学理学部応用物理学科卒業、81年千葉大学大学院修士課程修了。工学博士。82年より(財)リモート・センシング技術センター研究員。92年東海大学開発技術研究所講師。現在,同大学情報理工学部長、教授、総合情報センター所長、情報教育センター所長、情報技術センター所長代理。アジアリモートセンシング協会(AARS)事務総長。日本写真測量学会副会長。衛星による即時監視、海氷観測、デジタル教材開発等の研究に従事。著書「新編 画像解析ハンドブック」(共編著)、「基礎からわかるリモートセンシング」(共著)、「合成開口レーダ画像ハンドブック」(共編著)等。  2009年Boon Indramabarya Medal受賞。12年Samuel Gamble Award受賞。