オピニオン

人に有用な新しい作物を作り出す 命をサポートする学びの場に 農学部 応用植物科学科 准教授
松田 靖
農学部応用植物科学科 教授
村田 達郎

2014年10月1日掲出

 植物の品種改良を扱う「植物育種学」。人類が太古から野生植物から食料として優れたものを選び出し、品種を改良することによってより有用な作物を作り出してきた。品種改良は収量の増加、病虫害に対する耐性などに加え、人の健康に役立つ作物の改良まで広がりを見せる。新しい地域特産品として注目されるヤーコンやサツマイモ、シバなどの新品種改良に情熱を注ぐ農学部応用植物科学科の村田達郎教授(学部長)と松田靖准教授に話を聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 仲村隆】

 

 ――お二人のご専門の「植物育種学」について、わかりやすくご説明いただけますか。

村田達郎教授(左)と松田靖准教授

村田:平たく言えば品種改良です。昔から農家の人たちが経験的に行ってきました。山里などに生育するブラシのような毛の長い穂を出す雑草「エノコログサ」をご存じの方は多いかと思いますが、実は穀物のアワは、このエノコログサが原種です。人間が穂の大きい優れた種を選別して栽培してきた結果、穀物として優れたアワが作られました。このように人間にとって使いやすく有用な植物を作り出すための品種改良の方法が植物育種学なのです。

 キャベツは、ヨーロッパで栽培化されたアブラナの仲間のケールという野菜がルーツです。ケールは、青汁の原料として知られますが、品種改良されてカリフラワーやブロッコリー、芽キャベツなどの野菜とともにキャベツに姿を変えてきました。日本では、大根がいい例ですね。青首大根もあれば、大きくて丸い桜島大根など数多くの大根が品種改良で作られています。

 19世紀にメンデルが遺伝の法則を発見してから科学的な交配で改良を行うようになり、究極的には遺伝子組み換えで自然界になかった全く新しい品種を作るまでになっています。人間が使いやすいよう人為的に変異を起こさせて新しい植物を作る道筋を学ぶ学問です。

 

 ――どのようなものが品種改良で作られていますか。

村田:人間が求めるものに応じていろいろなものが作られています。花粉症が問題になれば、症状の緩和に役立つと言われるメチルカテキンを多く含むお茶が作られたり、あまり花粉を出さない杉も作り出されたりしています。また、渋皮がむきやすいクリなど、人間の要望に応じたいろいろな植物が作り出されています。

 

 ――バイオテクノロジーや遺伝子組み換えの技術が話題になっていますが。

村田達郎教授

村田:1980年前後から細胞融合を応用した技術が出てきて、ドイツでは自然界の交配では不可能なジャガイモとトマトを融合した「ポマト」が開発されました。日本でもオレンジとカラタチを融合した「オレタチ」が開発されています。その後、遺伝子組み換え技術の開発が行われましたが、生態系に悪影響を及ぼすなどの懸念から、日本では実際には栽培されていません。

 日本では、その代わり、ゲノム解析が進み、病気に強い遺伝子が染色体のどこにあるかを示すような有用な性質の存在を示すマーカーの開発が進んでいます。このようなマーカーを用いて、交配した多くの集団から、利用価値の高い個体を効率よく選抜する研究も盛んになっています。

 

農学部のヤーコン畑に立つ村田達郎教授(右)と松田靖准教授

 ――東海大学農学部で取り組む品種改良は。

村田:品種改良のテーマとしては、サツマイモ、シバ、ヤーコンなどを扱っています。この中でも、ヤーコンは15年ぐらい前から、中山間地に適した作物を探索してみたいということで、阿蘇地方に合った品種改良に取り組んでいます。ヤーコンは、キク科の植物で見た目はサツマイモそっくりですが、食べてみると梨のような味です。ペルーのアンデス山地が原産で、栽培は日中と夜間との温度差の大きい標高500メートルほどの中山間地が適し、山地が続く阿蘇地域が適地です。九州には中山間地が多いことから、普及すれば新しい地域特産品になるのではないかと考えました。

 

松田靖准教授

 ――ヤーコンの特徴は。

松田:ヤーコンの主成分は、腸内細菌の活性化に役立つフラクトオリゴ糖で、さらに抗酸化作用のあるポリフェノールもたっぷり含んでいます。そのためダイエットや便秘の改善、糖尿病の治療に役立つという報告もあり、新しい機能性食材としての研究も始めています。その反面、ヤーコンは貯蔵がききにくいので、フラクトオリゴ糖を濃縮したシロップなどの加工食品の開発なども手がけています。

 

 ――東海大学農学部の特色についてお話しください。

村田:本学創立者の松前重義博士が「研究室に地元の農家の方々が土足で出入りできる農学部を目指す」という理想を掲げたように地域連携と実学重視が特徴のキャンパスです。その理想を実現するために、開学当初より先進的な県下の農家70〜80軒の協力を得て、「東海大学モニター農家」制度をスタートし、現在も学生の受け入れ、共同研究などを通じて地域貢献を進めています。

 また、地域の方々に開かれた大学として、チーズ作りやブルーベリーのジャム作りの講座を開く「エクステンションセンター講座」も地元の方々に好評をいただいています。

 

村田達郎教授(右)と松田靖准教授

 ――卒業後の進路と学生の特徴は。

松田:卒業後の進路は食品関係のメーカーに進む学生が多いようです。職種としては食品開発や品質管理に携わるケースが多いですね。学生は地元の熊本県出身者が4分の1です。半分は九州外の出身者で、全国各地から学生が集まり、地域色が豊かというのが特色です。実学尊重をうたい、各学科で特徴ある実験実習を行っていますが、学生気質は素直でこつこつとやるというところでしょうか。

 

 ――学生さんにメッセージをお願いします。

村田:今の学生さんには、実体験が乏しいので、ぜひ阿蘇の大自然の中で実験・実習を通して、さまざまな体験をしてほしいと思います。そしてその中で、私たちが生きているということは「他の生き物の命をいただいているのだ」ということを感じ取って、「命の尊さ」を学び取ってほしいと思っています。

 

農学部 応用植物科学科 准教授 松田 靖 (まつだ やすし)

1967年福岡県生まれ。宮崎大学大学院農学研究科修士課程修了。博士(農学)(鹿児島大学大学院連合農学研究科)学位取得。

農学部応用植物科学科 教授 村田 達郎 (むらた たつろう)

1952年熊本県生まれ。76年鹿児島大学農学部農学科卒業。78年同大学大学院農学研究科修士課程修了。89年農学博士(京都大学)学位取得。89年〜90年英ケンブリッジ植物科学研究所研究員。96年から九州東海大学農学部教授、2010年から東海大学農学部長、総合農学研究所所長、14年から大学院農学研究科長。専門は植物育種学。サツマイモ、ヤーコン、日本シバ、イチゴなどを材料に品種改良の研究を行い,現在までにイチゴ1品種(品種名:ひまつり),日本シバ7品種(品種名:クサセンリなど)を新品種として農林水産省に登録。著書に最新バイオテクノロジー全書(農業図書)、植物育種学実験法(朝倉書店)など。