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発言

免許 高齢者向け試験新設を=新井平伊・日本老年精神医学会前理事長

 昨年3月に施行された、75歳以上のドライバーの認知機能検査を強化した改正道路交通法(道交法)により、高齢者の運転免許返納や取り消し処分が増えている。これは新法の成果だろう。しかし、さまざまな症状の認知症の人をひとくくりにし、免許更新の適否を認知機能検査で判断する手法には問題点も多い。さらなる法改正が必要と考える。

     検査は75歳以上の人が主に免許更新時に受ける。記憶力、判断力を問われ▽「認知症の恐れ」(第1分類)▽「認知機能低下の恐れ」(第2分類)▽「問題なし」(第3分類)のいずれかに判定される。第1分類と判定されると医師の診察を受け、「認知症」と診断されれば「免許取り消し・停止処分」となる。旧法は第一分類のうち、一定の違反をした人だけを診察の対象としていた。

     警察庁によると、新法施行後、今年3月末までの1年間に検査を受けた約210万人のうち、5万7099人が第1分類と判定された。最終的に「認知症」と診断され、免許取り消し・停止となったのは1892人。2016年の約3倍だ。取り消しなどの手続き中の人を含めると3407人。一方で免許の自主返納も進んでいる。「高齢ドライバーによる悲惨な事故や被害者を減らす」という目的に誰も異論はない。ただし、現在の手法には疑問点も多い。

     まずは認知症を一括視している点だ。確かに注意力や判断力の低下は共通しており、事故のリスクは高いといえる。だが、認知症では原因疾患によって症状も異なり、さらにそれぞれ軽度から重度障害まで幅広い。記銘力(新しく体験したことを覚える能力)などの障害がみられても、安全に運転できる人がいる一方で、記銘力などに障害がなくても安全な運転が難しくなる人もいる。「認知症と診断された人」イコール「運転不適合な人」ではなく、認知症の有無で運転技能を判断するのは適切とはいいがたい。

     一般の人が運転免許を取るには、「学科」と「実技」の試験にパスをする必要がある。警察庁と公安委員会は、なぜ長年培ってきた運転技能の評価法を放棄するのであろうか。75歳以上の人には認知機能検査に代えて、道路標識や車の構造に関する基礎知識を問う高齢者向けの学科試験を行うべきである。加えて、実車試験を導入し公安委員会が責任を持って運転技能を評価すべきだ。認知機能ではなく、運転技能と交通知識が評価されたのなら、いかなる結果でも本人は納得がいくであろう。

     高齢者の運転免許証制度の変更だけでは不十分であることも指摘したい。「事故は起こりうる」との前提で、「被害を最小限にする」ためのインフラ整備が必要だ。「通学路へのガードレール整備」「自動ブレーキ整備車の購入補助」「高速道路での逆走防止ゲート設置」などを、政府主導で速やかに実施すべきである。移動に自動車が不可欠な過疎地は多い。改正道交法は高齢者の生活の質に直結する。日本老年精神医学会はタクシー利用券の支給や、交通支援システムの開発・普及も併せて政府に提言している。


     ■人物略歴

    あらい・へいい

     順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授。公益財団法人認知症予防財団会長。

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