オピニオン

介護・福祉と医療の融合を図り過疎地にも充実したサービスを 健康科学部社会福祉学科 准教授
東 奈美

2014年3月3日掲出

 「超高齢社会」が目前に迫る日本。福祉サービスの充実が求められる一方で、地域間格差も生じている。よりよい福祉社会を構築するには何が必要だろうか。高齢者福祉の課題と展望を健康科学部社会福祉学科の東奈美准教授に聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局・江刺弘子】

 

 ――2000年に介護保険が導入されましたが、現状を教えてください。

 いよいよ本格的な高齢社会に向けて、何とか持続可能なものに作りかえるための正念場を迎えていると思います。

 介護保険法は創設時から変わってきていますが、2011年には医療と介護の融合を図ることを前提に改正され、「24時間地域巡回型訪問サービス」も創設されました。高齢者の介護の問題は、医療と切っても切り離せないと、はっきりと制度に盛り込まれたのです。

 医療と介護の融合の代表的な取り組みは、24時間の居宅支援です。自宅にいながら、医療も介護も将来的にはできるだけ病院に近いような形で受けられる体制を作る検討が始まりました。もともと介護保険の考え方には、福祉と医療をドッキングするというコンセプトがありましたが、現場ではそれぞれの分野の伝統があり、融合するところまでは到達していないように思います。それがいよいよ両方の分野が一緒に回るような仕組みを根本的に考えていこうという段階に来たのです。

 

 ――介護と医療の融合は簡単に進みますか。

 何十年も前から医療と福祉は連携をとらないといけないと言われていました。東海大の健康科学部も看護学科と社会福祉学科で構成され、医学部のある伊勢原キャンパスにあります。しかし介護・福祉と医療は何が共通項で、連携できることは何なのかが、なかなか明確ではありません。

 医療とは、福祉とは、と問われたら私が思うには、医療は自然科学の分野にあたり、病気を治すための水準をあげていくという、先端科学の顔があります。

 一方、福祉は自然科学ではありません。5年前、30年前の日本を振り返ってみても、社会の状態は変化しています。社会が変化した時には、必ず生活者にひずみがきます。そのひずみを埋めるような制度や支援体制を作ることが、福祉の大きな分野だと考えています。

 

 ――人材育成に関してはどうでしょうか。

 介護の現場は人材確保が難しいのが現実です。職場環境や給与の面など総合的な雇用体制に国が踏み込んでバックアップすることが求められます。

 職場環境に関しては、1カ所で問題が表に出ると、すべての現場でそのような状況だと捉えられてしまいます。実際には関係者がよりよい職場環境作りに努力していて、東海大の卒業生もたくさん活躍の場を与えてもらっています。多くの卒業生が介護・福祉現場に従事しており、卒業生同士の連携も生まれつつあると聞きます。

 

 ――主な研究の一つに「地域」を上げていらっしゃいます。地方の介護の現状はどうでしょうか。

 人が少ないところは医療体制が整っていなかったり、病院そのものがなかったりする場所もあります。このように医療体制の不備に苦しんでいるところは、介護の体制として求められる施設、特に特別養護老人ホーム(特養)もない地域は少なくありません。

 特養入所者は介護保険が適用されるサービスを受けますので、それを建てる、建てないは住民が支払う保険料の額に大きく影響します。自治体が特養を建てる際に迷うところです。東海大学伊勢原キャンパスのある伊勢原市は人口が約10万人で、特養が4カ所、介護老人保健施設(老健)が2カ所あります。長野県のように複数の自治体で広域連合を作り、そこで施設を運用しているケースもありますが、単独運営で施設をもたないという自治体もあります。特養や老健がないというのは、とても大きな問題なのです。

 

 ――キャンパスのある伊勢原市は福祉の面で恵まれていますね。

 伊勢原市には全国で32施設しかない高度救命救急センターを備え、ドクターヘリもある東海大学付属病院や、地域の中核病院としての役割を果たす伊勢原協同病院もあり、医療体制はものすごく整っています。地域住民からすると、医療費が高くなるというデメリットもありますが、介護サービスもたくさんあり、高齢期を過ごすには恵まれた環境と言えると思います。

 自分の暮らしている地域が福祉に恵まれているかどうかは、他の地域と比較して気付くこともよくあります。

 私は講義でしばしば、「介護サービス情報の公表制度」を利用します。パソコンで全国の介護サービスや施設が検索できる仕組みになっていて、どの地域にどれくらいのサービスがあるかが、すぐわかります。それを使うと伊勢原市はサービスや施設がたくさん出てきます。学生たちには、まずそれを使って実際に調べてもらいます。

 また、学生には自分の出身地を調べさせます。そうするとほとんどサービスがない地域も出てきます。首都圏にいるとあまり実感がないのですが、地方にいるといやが応でも急激な人口減少に気付きます。高齢者は増え、働く世代と子供の数は急激に減っていく。その中でサービスがほとんどないとすれば、この地域はこれからいったいどうなるのだろうと課題につきあたるのです。

 学生がそれぞれの地域の実情を発表し、首都圏の学生は地方の問題を、地方の学生は首都圏が抱える問題を知るきっかけになっています。学生には各地の福祉を研究するにあたって、「地域」という発想があるのとないのとでは、どのように違うのかも発見してもらいたいですね。

 

 ――「地域福祉」という考えは、いつごろから出たのですか。

 「地域福祉」というと、地域そのものの取り組みなのか、地域住民の活動なのか、またボランティア活動なのかと、一般的にその捉え方は分かりにくいと思います。

 象徴的な例をあげましょう。1980年代は老人福祉サービスといっても施設の建設・運営しかなく、現在のような在宅サービスはありませんでした。しかし自宅で寝たきりの高齢者は増えていきます。こうした状況の中から、地域の中で高齢者福祉や老人介護に関する活動に関わる団体がどんどん生まれてきました。創意工夫があふれていた時代です。NPO法人の前身になるような住民の相互扶助の組織もこの時期に生まれてきました。80年代は地域福祉がものすごく活発になった時代なのです。

 こうした動きもあり、89年に当時の厚生省(現・厚生労働省)は高齢化社会に向けて「高齢者保健福祉推進10カ年戦略(ゴールドプラン)」を打ち出し、「ホームヘルパー」10万人、「デイ・サービス」1万カ所などを柱に、これからの介護は「在宅」の方針を示したのです。

 現在は、住民の意識を高め、相互扶助機能を強化して、さらに福祉活動をバックアップして、自分たちの老後に備えるような気持ちを引き出すことが重要視されはじめています。

 

 ――福祉の道に進むきっかけを教えてください。

 大学進学の際、「進路に迷った」のです。当時は福祉とは全く異なる分野に進もうとしていました。

 しかしこれから4年間勉強するにあたって、その分野が無機質なものに思えたのです。もっと自分にはやる仕事があるのではと思い、いろいろと考える日が続きました。その中で視野に入ってきたのが、「社会的な活動をしたい」ということです。生活に困っている人がいるなら、その人を助ける仕事が必要だと、それで福祉の道に進むことにしました。

 

 ――福祉の道に進み、見いだしたものは何ですか。

 大学院の時、「この人こそ福祉だ」という先生に教わったのですが、この先生がある時「私はずっと福祉をやりながらも迷い続けた」と話しました。私はこの言葉を聞いて、この先生にしてこういうことを言うのかと思い、一安心しました。

 私もずっと長い間やってきていますが、迷いだらけです。社会は変化し続けて、やっても、やっても、やっても解決しない。その中でも続けていかなければいけない。迷いなくしてやれない分野なのです。

 今の時代、多くの人が福祉に関心を持っています。私がこの道に進んだ時は「社会福祉って?」と聞かれて、説明にいつも大変な思いをしていました。現在は、人々がその必要性を理解していて、これが大きな後押しになっていると思います。

 

 ――今後の研究テーマを教えてください。

 地方の福祉は存続の危機に面しています。医師がいない、施設がない、介護サービスがないといった地域がどんな状況におかれているかを明らかにして、地方の医療と介護サービスの提供システムの構築を研究しています。

 特に離島は、人口がものすごい速さで減り、高齢化率は高まっています。こうした地域では医療法人や社会福祉法人の参入が難しく、公的部門にも限界があります。こうした地域の高齢者もサービスを受けることができるようにするにはどうすればいいのか、考えていきたいと思っています。

 それからもう一つが認知症の問題です。どのような介護サービスを受けるかは、自己判断によるものです。しかし認知症患者は自己判断ができないため、介護保険制度の正しい利用や判断ができません。介護サービスが使えるのに使えない、あるいは家族が放置しているケースもあります。そうなると民間のサービスを増やし、保険の仕組みを整えても、問題の解決にはなりません。行政や医療機関なども認知症患者がサービスを受けられるように後押しをしないといけないとはわかっていますが、なかなかバックアップの方策がありません。

 成年後見制度がありますが、後見の役割を担う担い手が足りません。市民後見人という仕組みが動き始めていますが、まだまだ課題が山積しています。

 サービスを受けることを自身で決定できない人をサポートする仕組みを作る、これも大きな課題です。

 

 ――健康科学部の特色を教えてください。

 この学部に入ってきた学生は、祖父母の話をする人が多くいます。入院先で介護していた、両親が世話をしていたというように、身近に高齢者と接する経験をしている学生がたくさんいます。こうしたこともこの学部を選ぶ動機になったのでしょう。

 東海大という総合大で学ぶということは、計り知れないほどの利点があります。単科大学にももちろん長所はありますが、総合大学のメリットは、幅広い刺激を受けながら、専門的なことを学ぶという2段構えで勉強ができることです。講義の数が多いことはもちろん、他の学部の学生との交流や留学制度などのカリキュラム、さまざまな刺激があり、そうした環境の中で福祉を学ぶことができるのは貴重です。

 介護・福祉の人材に求められるのは、高い教養と専門的な判断の両方ができることです。国家資格の取得をベースにした専門性を高め、そして教養豊かな人間力も高めてもらいたいと思います。

 

 ――福祉の道に進む人や学生にメッセージをお願いします。

 福祉の大切な役割の一つに、社会の変化を捉えて、新たな仕組みを考えいくことがあります。いかに社会が目まぐるしく変わっていくかに気付き、現実に動いている福祉の仕組みが果たして今の問題状況に合っているのかどうかを判断して、変化が必要な時には、それを起こしていく人になってください。

 また高齢者と関わる分野では必ず、「お別れ」と接します。超高齢社会になると、人が亡くなるのが珍しくなくなります。悪い意味で慣れてしまうような時代になったらいけないのです。そこに到達するまでの、その人の凝縮された人生をくみ取り、そこから得るものがある人は、本当によい仕事ができていると思います。

 一人一人の人生に関わる仕事ですから、答えはなかなか見つかりませんが、理解する喜び、理解される喜びはほんとうに大きいと思います。

 

健康科学部社会福祉学科 准教授 東 奈美 (あずま なみ)

奈良県生まれ。日本女子大学大学院文学研究科修了。専門は地域福祉の諸課題および福祉政策。最近の研究課題は「人口減少地域における介護保険運営とヘルスケアシステムの構築」、「医療およびヘルスケアにかかわる意思決定の諸問題」など。