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北朝鮮と日本人

/下 拉致問題、1ミリでも進めるために 徳島県・陶久敏郎さん(63)

北朝鮮の人権問題に対する公平な取り組みを訴える陶久敏郎さん=井上撮影
息子大助さんの失踪について語る賀上文代さん。自宅には「無事に帰る」願いを込めたカエルの置物がずらりと並んでいる=井上撮影
日朝平壌宣言署名後、平壌市内で会見する小泉純一郎首相(左)と安倍晋三官房副長官=2002年9月(代表撮影)

 「2002年9月、平壌で行われた日朝首脳会談で、北朝鮮側は日本人の拉致を認めて謝罪し『5人生存、8人死亡』などと伝えました。翌月、5人が帰国し、被害当事者に寄り添う活動が続けられてきましたが、今日に至るまで拉致問題は全く前進していません」。「救う会徳島」代表の陶久(すえひさ)敏郎さん(63)=徳島県阿南市=は2日、地元FM局の番組収録のため、徳島市内のスタジオでマイクに向かった。

     公務員として人権啓発に携わった陶久さんは、拉致を重大な人権侵害と捉え、「拉致被害者家族連絡会」(家族会)の支援に取り組んできた。豊富な行政経験を生かし、徳島県の人権基本計画(04年策定)に全国で初めて「拉致」の文言を盛り込んだ。成果は国の計画にも反映されている。

     03年1月の「救う会徳島」設立イベントで忘れがたい出会いがあった。会場に駆け込んだ同郷の賀上(かがみ)文代さん(66)が「行方不明の息子の捜査を頼んでも相手にしてもらえない」と涙ながらに訴えた。賀上大助さん(当時23歳)は01年暮れ、大阪市内の家電会社の社員寮から夜間外出したまま消息を絶った。財布や携帯電話以外の所持品は残され、預金もそのまま。一般的な事件性は認められなかった。

     「人事部に勤務する息子は、元々は海外営業を希望していました。失踪前、電話で転職のことを言い掛けたこともありました」。賀上さんは振り返る。北朝鮮の関与は明確でないが、何でも報告、相談してくれた大助さんが国内にいて連絡しないとは考えにくい。

     拉致の可能性も否定できない大助さんのケースは、陶久さんの仲介で支援団体「特定失踪者問題調査会」(荒木和博代表)のリストに記載され、警察当局にも認知された。徳島県関連の特定失踪者には、1985年に兵庫県北部の海岸にカバンを残した女性(当時21歳)らも含まれている。

     警察庁が北朝鮮による拉致の可能性を含めて捜査・調査の対象とする全国の「行方不明者」は、昨年10月時点で883人(うち女性240人)。陶久さんが、政府各省庁に開示請求を続けてきた中で公開された。一方、政府認定の拉致被害者は横田めぐみさん(53)ら17人。認定被害者と行方不明者(特定失踪者)を区別せず、公平な救済を求める陶久さんらの活動は、14年5月の「日朝ストックホルム合意」で転機を迎えた。

     合意では、02年首脳会談時の日朝平壌宣言に基づいて「拉致・核・ミサイルの諸懸案を包括的に解決し、国交正常化をめざす」ことを再確認する一方、拉致被害者と行方不明者の再調査に加え、戦後の両国間に横たわる、敗戦前後に北朝鮮域内で死亡した日本人の遺骨及び墓地▽残留日本人▽日本人配偶者--について包括的、同時並行的な調査を進めることとした。

     2万人を超える日本人の遺骨と墓参、旧満州(現中国東北部)の残留孤児を想起させる1000人超の残留日本人の問題は、国交のない状態で70年以上も放置されてきた。遺族や関係者は超高齢化している。

     日本人配偶者は、朝鮮戦争の停戦(53年)後、日朝赤十字の協定で59年から実施された在日朝鮮人と家族計9万人超の帰還事業に伴い、北朝鮮に渡った約1800人の日本人女性を指す。多くが意思に反して帰国できず、高齢化も進む。

     行政文書の開示を求め、手探りで概要を調べ上げた陶久さんは言う。「これらの問題は拉致のはるか以前から存在しています。政府は当然、認識しながら国民に全く周知していません」

     ストックホルム合意への対応をめぐって疑問は膨らんだ。「15年秋、家族会は合意の包括的解決を否定し、『拉致被害者全員の一括帰国を約束しない“報告”や“死亡の証拠”などを受け取ってはならない』と主張しました。『拉致最優先』と『圧力』の安倍晋三首相と歩調を合わせたことが進展への間口を狭めてきたのではないでしょうか」

     「戦後、北朝鮮で不幸な人生を余儀なくされた日本人は認定された拉致被害者のみではない」との認識は「政府が国民の命の価値に順位をつけるのはおかしい」という思いにつながる。「一括帰国」方針の下で歳月が流れ、それ以外の問題は風化の寸前にある。

     「首脳会談を受けて米朝の外交交渉が動き出す中、歴史的経緯を踏まえ、国際状況を冷静に見つめて日本人の安全と人権の問題を再考すべきです。遠回りに見えても、拉致問題自体を1ミリでも動かす近道になるはず」。新たな支援組織「北朝鮮人権人道ネットワーク」を率いる陶久さんは語る。

     昨年5月、「特定失踪者家族会」(大沢昭一会長)が結成された。米朝首脳会談後の先月末、同家族会は同問題調査会と共に会見し、政府に「1人からでも、一刻も早い被害者の救出」を求める方針を掲げた。大沢会長は「特定失踪者の家族は『切り捨て』を一番心配している。実現可能な被害者から救出し、最終的に全員を帰国させて」と訴えた。北朝鮮と日本人をめぐる諸問題は大きな曲がり角にある。【井上卓弥】

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