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「宝の島」は今

奥尻津波から25年/下 道立から町立に移行・奥尻高校 「留学生」受け入れ活性化 /北海道

独自カリキュラム 島民も全面協力

 奥尻高校の屋内プールで11日、今年度初の潜水授業があった。2、3年生15人が上級・中級に分かれ、機材の使い方などを確認。インストラクターから「バディー(相棒)同士でしっかり機材をチェックして」と指示が飛んだ。

     北見市出身の2年生、菅野速人さん(17)は、昨年初めて奥尻の海に潜った。「信じられないくらいきれい。今年も、早く海に出たい」。潜水士の資格を取り、将来は海に関わる仕事をしたいという。

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     同校は奥尻島が大きな被害を受けた北海道南西沖地震の翌年の1994年、漁業後継者や観光従事者育成を目指して授業にダイビングを取り入れた。その後も大幅な定員割れが続く中、2016年度に道立から町立に移行。町の持ち出しは年間約4000万円増えたが、新村卓実町長は「高校廃止は人口流出に拍車を掛ける」と強調する。

     島の課題について議論やプレゼンテーションをする授業、インターネットを使った島外の学生による個別指導、英語教育のための「イングリッシュサルーン」など独自のカリキュラムを導入。全国から生徒を募集して初年の17年度に5人、18年度は16人が島外から入学し、全生徒44人の4割を占めるまでになった。中には北九州市や千葉県出身者もいる。

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     「漁師になりたい。その夢が、ここに来て近くなった」。2年生の林東吾さん(16)は目を輝かせた。

     実家は札幌市清田区。元々釣りが好きで海にあこがれ、島への「留学」を決めた。

     林さんら生徒4人は、島西部の神威脇地区にある民宿「かさい」で暮らす。93年の震災で建物が半壊して2年間休業し、その後も若者が減っていくのを見ていた「島親」の葛西幸子さん(75)は、地区に数十年ぶりの10代を迎えて「若い人がいると明るくなる」と顔をほころばせた。

     島民は学校での教育に全面協力するほか、休日に島を案内したり相談に乗ったりする「島おじ」「島おば」も。林さんは地元の漁師と話す機会ができて、一緒に釣りに行くようにもなり「まだまだ知りたいことがたくさんある」と話す。

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     島に魅力を感じて集まった留学生たちに、島出身の生徒も刺激を受けている。

     3年生の辺見歩花さん(18)は昨年度、インターネットで資金を募るクラウドファンディングを活用して、各部活の島外遠征費158万円を集めた。

     今春には島を活性化するための「奥尻イノベーション事業部」(7人)を結成。Tシャツなどの物販による遠征費調達を計画し、島の地酒やワインのパッケージ制作、工事中の壁画へのイラストデザインなど地元企業との連携を進める。

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     辺見さんの地元・青苗地区は津波で甚大な被害を受け、祖父母の家も全壊した。学校で震災や避難について繰り返し学ぶ一方で、生まれる前に起きた災害を身近に感じることはなかった。

     中学校の修学旅行で仙台市を訪れたとき、真っ先に「津波があった場所でしょう」と言われて戸惑った。「災害を忘れてはならないのは当然だが、被災のイメージだけでなく、島やそこで暮らす人たちのよさをもっと発信したい」と語る。

     3年半前に赴任した俵谷俊彦校長は「生徒が島の課題を考えて町に出て提案することで町の人たちの意識も変わってきた。島全体で活性化に向けた機運が高まりつつある」と胸を張った。(この連載は山下智恵が担当しました)


    復興費158億円 町負担重荷に

     奥尻町によると、北海道南西沖地震による被害復旧・復興費用は国や道の発注分も含めて総額800億円で、町の負担は約158億円。その負担は重く、2006年度に「実質公債費比率」(収入に占める借金返済費用の割合、基準値18%)が24・2%に達して町債発行に国の許可がいる「起債許可団体」に指定された。財政調整基金も同年に9600万円まで減少した。

     役場庁舎の建て替え積立金や漁業後継者の育成基金を取り崩すなどして財政健全化に努め、実質公債費比率は道内町村平均の9・1%を上回るものの11・5%まで改善。基金残高も10億円近くになった。

     ようやく将来に向けた独自事業に取り組むことが可能になり、奥尻高校の町立化はその代表例だという。

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