オピニオン

キーワードは図太さやユーモアのセンス 芝居っ気 毎日新聞社 「教育と新聞」推進本部長
小島 明日奈
東海大学 学長
山田 清志

2013年12月27日掲出

 

 情報通信技術の進展や交通手段の発達で、ヒト・モノ・カネ・情報が国境を超えて高速で流通する「グローバル化」時代。東海大学の創立者・松前重義が、東西冷戦の時代から築いてきた各国との交流はすでに半世紀に及ぶ。加速するグローバル化社会の中で、主体的に考え、予想外の事態を乗り越えられる人材の育成について、山田清志副学長と小島明日奈毎日新聞「教育と新聞」推進本部長が語り合った。【まとめ・毎日新聞社デジタルメディア局 垂水友里香】

 

 小島本部長(以下、小島) グローバル化に対し、どの大学も今、さまざまな試みをしていますが、東海大学の場合は世の中が注目し始める前の創立者の時代から取り組まれていますね。東西冷戦の時代から築いてきた各国との交流について教えてください。

山田副学長

 山田副学長(以下、山田):創立者・松前重義は1934年、逓信省の技術者として訪欧した際にデンマークにも足を延ばしました。それは師と仰ぐ内村鑑三から「デンマークは19世紀プロイセンとの戦争に敗れたが、農民を国民高等学校で教育して武力によらずに国力を回復した」ということを聞いていたからです。その後松前は、太平洋戦争に敗れた日本を再興するには、世界平和に貢献し科学技術立国を担える人材の育成が重要と考えました。東海大学の教育機関としての大きなミッションは「世界平和に貢献できる人間」「科学技術立国を担える人間」の育成です。世界平和といっても大げさなことではなく、学生同士の交流の中から小さな争いを防止していくということで、東西冷戦の中、旧社会主義国との交流を進めましたが、その一つがモスクワ国立大学との交流です。2013年に交流40周年を迎え、9月にはモスクワで記念式典を行いました。旧ソビエトとの関係は依然として難しい問題もありますが、この間、相互合わせて約1000人の学生が留学し、両国間の懸け橋になってくれています。こうした松前の思想が、東海大学の国際交流の底辺にあります。

 山田:タイとの交流は、戦後補償で工学系の人材を育成するコロンボ・プラン(アジア・太平洋諸国の経済・技術協力機関)が始まりで、2011年に50周年になりました。今でも優秀な人材育成のため、タイとの教育研究交流を行っています。特にその中でモンクット王ラカバン工科大学への支援は、日本のODAの代表的な人材育成の成功例と言われています。今でこそ多くの大学がバンコクにオフィスを開設するなど東南アジアとの連携に心血を注いでいますが、半世紀前には手を挙げる大学などなく、松前の強い指導力がここでも活かされました。今日その種が見事に開花したと思っています。

 実はこの経験を現在中東との連携に活かそうとしています。中東は将来に備え石油に依存せず人材育成によって国を維持していこうという目標を定め、日本にその人材育成の期待を寄せているからです。特にサウジアラビア王国からの留学生が多く、500人余りの中で東海大学では約2割にあたる100人ほどの留学生が工学系を中心に学んでいます。このことは、タイにおける教育・研究支援と同じ文脈であると考えています。

 さて、ハワイは「これからは太平洋の時代」ということで、その拠点として1990年にホノルルのワイキキから近いところにパシフィックセンターを作りました。2年後、アメリカの大学基準認定を有するハワイ東海インターナショナルカレッジ(HTIC)という短大を併設しました。東海大学は勿論のこと、ハワイ州立大学や米国本土の大学の3年生に編入もできるゲートウェイ(入り口)カレッジとしての役割を果たしています。2015年にはHTICを、ハワイ州立大学の新キャンパス内に移転します。図書館や実験室など同大学のキャンパス施設を利用できるほか、教育プログラムや留学プログラムの相互乗り入れも行い、HTICを卒業後にそのままハワイ州立大学へ編入できる特別編入学制度も設ける予定です。これは米国における初の試みですが、完成時にはHTICに東海大学全学生の少なくとも1割を体験留学させたいと思っています。

小島本部長

 小島:2009年度から始まった大学の中期目標は2013年度が最終年度です。その目標の一つが「教育に強い東海大学」というブランドの確立でした。今までどのような成果を出し、残りの課題はどのようなものでしょうか。

 山田:今回の中期目標では建学の理念のもと「教育・研究・国際貢献・社会貢献」の四つの柱を設けました。まず教育における成果としては、大規模な学生のプロジェクト活動などに対して、教員やプロジェクトコーディネーターなどを配置し支援する「チャレンジセンター」の活動があります。チャレンジセンターは、座学では学べないアクティブラーニング(能動的学習)やサービスラーニング(大学教育と社会貢献の融合)を実施していますが、これが今年の文部科学省「地(知)の拠点整備事業」採択に繋がっています。研究に関しては、圧倒的な資金力と設備を持つ国立大に、すべての分野ではなかなか対抗出来ませんので、研究の峰を形成し私学としての独自性を確立しつつあります。その一つに医工連携がありますが、文部科学省の科学技術人材育成費補助事業に選ばれるなど、成果を上げつつあります。

 国際貢献・社会貢献は、大学から一方向の貢献という点では一定の成果を達成できたものとは思いますが、共生、協同という双方向の観点からは、きちんとした成果が得られたかは疑問だということが反省点です。2014年度からの第Ⅱ期中期目標では、教育と研究はそのまま残しますが、国際的・社会的に単に貢献するだけではなく、次への展開を目指して「国際連携」・「社会連携」と表現を変えました。これらの活動を通じて、社会で活躍できるグローバル人材を育成しよういうのがその趣旨です。

 小島:そもそも、グローバル人材とはどのような人物をお考えでしょうか。

 山田:一般的にグローバル人材は、国際的知識を身につけ世界を飛び回って活躍するというイメージかと思いますが、地域に根を張りながらも世界を見つめて働く人や、日本で学んだ留学生も日本が育成したグローバル人材と言えるのではないでしょうか。それに加えて、私が東海大学生に求めるのはもう少し違った視点です。あまり洗練されてなくとも図太い精神やユーモアのセンス、芝居っ気を持っていることなどです。国際会議などでは、日本人は拙いスピーチを詫びることから始めますが、欧米のみならず東南アジアなどでも、まずジョークを交えた話をして自分をアピールしてから始めます。私達もグローバルなコミュニティーの中で、眼鏡をかけて七三分けでまじめという典型的日本人像を払拭出来なければ、能力があるというところまでは認められても、グローバル社会の一員として迎えられないのではないかと思います。コミュニケーション手段としての英語もたとえブロークンでも「私の英語がなぜわからないか」いう図太さを持つべきだと思います。

 小島:図太さとユーモア、芝居っ気は、今までの大学教育では評価されなかったことですが、きっちり教えて評価していこうという取り組みなのですね。

 山田:5年間、先ほど紹介したHTICで学長を務めました。そこで、アメリカのリベラルアーツ科目(大学の教養課程)に、「ドラマ」があることに驚きました。それが大学の単位に値するのかということもありますが、伝統的な座学の学問では得られない他者との意志疎通を図る能力を培う科目は、これからのグローバル化に対応して益々重要になるでしょう。これから学生たちが生きていくグローバル社会は、必ずしもバラ色の理想的なものではなく、いい面も悪い面もいっぱいあります。その中で懸命に生き抜く力は、知識偏重の教育の中では十分育成できないと思います。

 小島:大げさに言えば、アフリカの水道も電話もつながらないようなところに行って、そこで暮らす人々とどう関わり、あるいはどうビジネスするか、力が試されるわけですよね。

 山田:今の日本の傾向として海外に出て行く学生が少なくなっているというのを憂えていることがありますが、東海大学ではここ数年海外留学の学生数は右肩上がりです。3年前に1カ月程度の短期留学プログラムの派遣留学の基準を変えました。それまで例え数週間の短期留学でも一学期間きちんと事前研修を受講した「語学ができる成績優秀者」が対象でしたが、条件を緩和し、奨学金も留学後の成果主義にしました。その効果をご紹介したいと思います。近年モスクワ国立大学への留学希望者は短期も長期も減少していました。特に1年間の長期留学は参加者ゼロという年が続いていましたが、スパスィーバ(ありがとう)とダスヴィダーニヤ(さようなら)だけわかればいいからと、短期のサマープログラムに送り出した学生の中から「やっぱり1年間留学したい」とモスクワ国立大学に長期留学し、今モスクワ国際関係大学の修士課程でロシアの外交政策を学ぶ学生が出てきました。またご存じない方が多いとは思いますが、東海大学文学部には北欧学科があり、デンマーク語▽スウェーデン語▽ノルウェー語▽フィンランド語▽アイスランド語――の5カ国語を教えています。なかでも東海大学は国内で唯一、学部レベルでアイスランド語を教えています。そのこともあってアイスランド大学にも留学枠がありますが、希望者はいませんでした。しかしながら短期でも留学経験者が増えたことからか、現在アイスランドのレイキャビックで勉強している女子学生がいます。東海大学としては、留学の質を追求することは勿論なのですが、留学の量を拡大すべきと考えています。そうした方針に応えて自分を飛躍させようと留学する学生たちが増えてきたことは、私としては大変うれしいことです。

 実はそうした飛躍は、留学だけでなく大学が所有している海洋調査研修船「望星丸」による海外研修航海でも垣間見ることが出来ます。本来、海洋学部航海工学科の実習生のための遠洋航海を一般の学生にも開放しようとしたのが始まりです。今年で45回目になりますが、一度に約100人近い学生が乗船し、共に協力して1カ月半を船上で過ごします。共同生活をさせることで、学生自身がものすごく変わります。社会人基礎力がつくといったらいいでしょうか。7人の学生が一つの狭いキャビンに住み、2日に1回のシャワーや洗濯も他人のものと一緒に洗うことを余儀なくされるなど不自由な生活を強いられます。その不自由さがすごく成長させるという意味では海外留学にも通ずるものがあります。

 小島:これまで日本社会は偏差値などデータにとらわれ過ぎていて、その結果、日本がどうなったかというと、世界的にもパッシング(素通り)されている。大学が世界に通用する人材を育てるためにはどういうことが必要ですか。

 山田:偏差値偏重は改めなければなりませんが、成績のいい学生は言われたことをきちんとやれる能力があります。それが自分の好きなことでなくても、ある程度きちんとやるという能力を見るということでは、私は成績を重視することに意義はあると思います。しかしながらそれだけでは足りません。先ほどのアイスランド大学に留学している学生が、留学経験を今後のキャリアに活かせるか分かりません。ですれけどもそうした機会を学生に与え、そこから彼らに自分で考え、集い、挑み、成し遂げる力を身につけてもらいたいと思っています。そのことは、どの大学にもいる選ばれた一部の優秀な学生に留まっていては、真の意味でのグローバル人材を輩出したということにはなりません。学生だけでなく教職員も含め図太さやユーモアをもっていろいろな意味での分厚さを追求していきたいと思っています。

 ※松前重義 1901〜91年。東海大学の創立者。電気通信工学者。思想家・内村鑑三に大きな影響を受け、疲弊した国を教育によって再興させた近代デンマークの歩みを学ぶ。逓信省に入省。世界で初めて無装荷ケーブル方式による電話システムを発明。衆議院議員。原子力基本法の成立に尽力した。1942年に東海大学総長に就任。

毎日新聞社 「教育と新聞」推進本部長 小島 明日奈 (こじま あすな)

1960年生まれ。1984年、毎日新聞社入社。大阪本社社会部、生活家庭部(現・生活報道部)長、事業本部美術・文化担当部長などを経て、2013年9月か ら「教育と新聞」推進本部長。

東海大学 学長 山田 清志 (やまだ きよし)

学校法人東海大学常務理事。東北大学大学院情報科学研究科人間社会情報科学専攻単位取得満期退学。東海大学副学長などを歴任し、2014年10月より現職。