オピニオン

都市の生き物は「お隣さん」 身の回りの自然から理解を 生物学部生物学科 准教授
竹中 万紀子

2013年8月1日掲出

 ゴミを荒らす、攻撃するといった都市に生息するカラスの行動が各地で社会問題化している。カラス問題に象徴されるように、動物と人間の暮らしの調和が崩れていると言われて久しい。自然豊かな東海大札幌キャンパスで、鳥類生態学を研究する竹中万紀子准教授に自然界の生き物と人間との共存について聞いた。【聞き手・デジタルメディア局 江刺弘子】

 

 ――都市にはカラスなどさまざまに鳥がいます。共存するには、どうすればいいでしょうか。

 私が調査しているのはカラスやコムクドリなど、私たちの周りにどこにでもいる鳥です。そういう鳥は都市が好きで来ているのではなく、公園や庭にある自然に依存して生きているのです。鳥たちに対しても「お隣さん」感覚でつきあうのが一番です。特にカラス類はつがいで縄張りを作り、暮らしています。長生きで、同じエリアでおそらく20年ぐらいは生きます。人間がどんなに追い出そうとしても、縄張りから出ていかないのですから、「それなら一緒にすもうよ」という感覚ですね。

 カラスにスズメ、ヒヨドリ、ムクドリ--市街地には、いわば何重にもさまざまな隣人の生活が重なっているイメージを描いてもらえばいいと思います。そして隣人が生を全うし、子孫を残すにはどうしたらいいかを考えると、いろんなことが見えてきます。

 その一つに、殺虫剤や除草剤を使うことは、鳥の暮らしを脅かすことに気付きます。以前、キャンパス内でサクラの木に毛虫がついたため、広範囲に薬剤を散布したことがありました。その翌日、コムクドリの巣箱をのぞくと、ヒナが全部、苦しんだ姿のまま死んでいました。

 毛虫がいやだったら、別の処分の仕方を考えるといった配慮が必要です。人間がちょっと我慢することも求められるのです。

 

 ――人を襲い、ゴミを荒らすカラスが全国的に問題になっています。

 カラスの主食はゴミだとする説もありますが、決してそうではありません。いわばデザートのようなもの。あれば食べるけどなくてもいい。カラスがゴミを荒らすのではなく、ゴミの管理をきっちりとしない人間が悪いのです。

 カラスは虫やネズミ、カメムシなどの害獣、害虫になるものを食べてくれます。果実を大量に食べて、あちこちにフンをすることで、種子がさまざまな場所に広がり、森の草木にとってもありがたい存在です。

 またカラスは自発的に攻撃することはありません。いじめる人がいるからです。カラスが攻撃するという場所を調べてみると、人間が早朝の運動や散歩中に、石を投げつけるなどして、さんざん怒らせて、危害を加えていることがわかりました。そうするとカラスも、危害を加えている人間に近い年代や同じ性別の人間を襲います。それが人災でなくて何なんだろうと思います。

 さらに、襲われた人間が「カラスはけしからん」と自治体の窓口に駆除を要請し、行政の手によって巣を撤去すると、カラスは「人間は自分の子供も殺す悪いやつ」と、さらに凶暴になります。そういう図式を逆に戻して、「カラスを見ても、知らん顔してくださいね」とPRしていくと、だんだん攻撃も収まってきます。何もしない人に対してはカラスも無視してくれます。そういう場所を増やしていくといいのです。札幌市南区の南沢という地区では、住民のほとんどがこのことを理解してくれて、ハシブトガラスもおとなしくなりました。

 キャンパスの入り口でハシブトガラスのひなが枝に止まっていたでしょ。親は私がここに来てから、おそらく25年ぐらいはずっとここにいるんですよ。私が双眼鏡でのぞくから、いやがりますが、それ以外の人は関わらないので、ごく自然に暮らしています。理想的な姿です。

 

 ――研究室の本棚に、「ヤタガラス」が描かれた日本サッカー協会のお守りが貼ってありますね。

 日本はもちろんアラスカ、カナダ、ロシアなど環太平洋地域の北に位置する国・地域を中心に、カラスにまつわる民話が多く残っています。カラスが知恵を使って、人間に光を奪い返してくれるといった内容のものが多く、人間側が一目置く存在として描かれています。

 日本でも戦前までカラスは最も身近な鳥の一つだったはずです。花鳥風月として水墨画に描かれています。嫌っていたら、カラスが描かれた掛け軸など、床の間にかけませんよ。

 

 ――札幌キャンパスもそうですが、北海道は自然豊かな場所が多く、道外に比べると自然と人間との共存がうまくいっているように思えます。

 残念ながら、実はそうでもありません。もちろん共存しないといけないと考えている人はいますが、社会全体のコンセンサスになり得ていないようです。アイヌ民族の人たちは、うまく折り合いをつけて暮らしてきましたが、開拓から現在に至るまでの歴史が浅いので、関わりを持つ前に自然を制圧してしまったというのが実情だと思います。

 

 ――具体的にはどういったことでしょうか。

 たとえば川です。道外では、人は2000〜3000年前といった大昔から、川が暴れても氾濫するのはどこまでかをわかって、安全な場所に居を構えるなど、川とうまくつきあってきています。

 航空写真を見るとよくわかるのですが、関東地方の山と里の境目はゆるやかで、山から川が流れ出て、小川が市街地に流れ込んでいます。しかし北海道は開拓や都市計画の過程で、山から流れ出た小川は、埋められて突然、暗渠(あんきょ)となり、市街地で再び大きな川に流れ出るようになっています。石狩川も、もとは現在の長さの1.5〜2倍の長さがありました。都市部の川の流れは直線的に変えられ、河川敷はコンクリートブロック、そばには運動公園と、自然の姿はありません。

 北海道で人と川が密接に暮らし始めたのは、たかだか70年ぐらいです。人間が長い年月をかけて自然とせめぎあい、折り合いを見つけてきた場所ではないためか、市街地は人が住む場所で、他の自然要素はなくていいという考え方が根強くあり、ヒグマやカラスとのつきあい方でも、切り捨てているふうがあります。歴史を振り返って、どのようなことを無視してきたのかを考えたうえで、それを取り戻すにはどうしたらいいのかを考えるきっかけが必要です。

 

 ――こうした状況に打開策はありますか。

 これは90%理想ではありますが、水があふれ、土砂崩れを起こす危険のある場所は、調整区域として、徐々にもとの自然の姿に戻していくのが一番いいと思います。

 この考えは、安全という意味に加えて、もう一つ理由があります。人口推計によると、20〜30年後には人口が減り始めます。コミュニティーのコアなところからくしの歯が抜けるように人が減っていくよりは、危険な地域から人を外していくという都市計画を立て、学校や病院などある程度人口密度の必要な場所を温存していくのです。

 

 ――まもなく夏休みです。自然観察をするには、いい季節ですね。

 設備が整って、きれいに芝生が刈られているデイキャンプのような場所よりは、自宅に庭がある家庭は、そこの生き物をよく見てください。ベランダでもプランターにはいろんな虫が来るんですよ。いやだと感じることもあると思いますが、たとえばカメムシでも、「どういうふうに植物を食べるか」などを観察するとおもしろいですよ。身の回りの生き物の生態を細かく見ていくのがおすすめです。自然とふれあうには、何も深山幽谷に行かなくても、五感を使って手の届く所の自然をきちんと観察することです。

 

 ――さきほどキャンパス内の森「光風園」を案内していただきました。北海道の固有種「エゾシロチョウ」も見かけましたし、貴重な動植物の宝庫ですね。

 札幌キャンパスは藻岩山の南麓(なんろく)、48万平方メートルの敷地に建っていて、「光風園」にはエゾリス、エゾモモンガ、エゾサンショウウオなどの生物も生息しています。「光風園」もですが、キャンパスは森が近く、鳥が多く生息していて、2002〜12年までの11年間、4〜6月に見られるキャンパス内の鳥を調査したところ、ホオジロやノビタキなど59種いました。

 キャンパス内にはサッカー、野球、陸上のグラウンドが並んでいて、それぞれの間やへりには草が育ち、草原にすむ複数種の鳥が繁殖しています。しかし草原の鳥は、地べたに小さな巣を作るので、草刈り機が入ったら、一気に全部なくなっちゃいます。草を刈る人は、そこに巣やヒナがいることに気付かないのです。繁殖地の確保をどうするかが問題で、キャンパス内にいる鳥の研究を通じて、草刈りや樹木管理、薬剤散布などの施設管理と、草原の鳥との共存を、ある意味で実験室のような感覚で、いろいろ試しながらやっていっています。

 

 ――今後、どのような研究を進めていくご予定ですか。

 進行中の事案ですが、カラス類の繁殖率が都市部と郡部で違っていて、その理由をつきとめようとしています。札幌ではハシボソガラスの繁殖がうまくいっていません。私が研究対象にしている巣が23個あるのですが、今のところ巣立ちはゼロです。厳密にいうと、3羽は巣立ったのですが、弱々しく、道ばたにいるところを捕獲業者にとらえられてしまいました。今朝も午前4時に家を出て、岩見沢の手前にある農耕地帯を観察しましたが、そこでは普通に繁殖しているのです。

 またコムクドリも減少しています。2006〜07年ごろまではキャンパスに約15のつがいが繁殖していましたが、今は研究室のベランダの巣箱にいる一つだけです。札幌市全体で減っているようです。先日、紋別市から来た高校生と話すと、そこでも減ってきているそうで、北海道全体で減少しているようです。営巣地側の環境は変わっていないので、スマトラ島やボルネオ島といった越冬地でおかしなことが起こっているのではと考えています。

 

 ――最後に生物学をめざす学生にメッセージをお願いします。

 研究というのは、地味な作業の積み重ねです。楽な仕事でもありません。30分間のテレビのドキュメンタリー番組では、いろんなことが起きていますが、そこには約2年分の画像を詰め込んでいて、日常であれほどドラマチックなことなど、ほとんど起こりません。生物学をめざしている学生には、そこを勘違いしてほしくありません。

 生物学科に入学する学生は、もともと「虫好き」や「鳥好き」が多く、頻繁に「光風園」で研究・採取している学生もいます。学校紹介で「光風園」の森の写真を見て、迷わずこのキャンパスに決めた学生もいるようです。

 ともかく、学生もまずは自分の目で見て、五感を使って自然を観察していってほしいです。映像を見るのも大切ですが、身の回りの自然から、足元から、理解を深めていってほしいです。

 ここにきたからには、フィールドが近いことを利用して、いろいろな研究を深めていってもらいたいですね。虫同士や虫と植物の関係など、実はまだわからないことだらけなんです。「光風園」に渡って来ている鳥でも、何を食べ、どうすみ分けているとか、まったくわかっていません。研究対象がいっぱいころがっています。

 

生物学部生物学科 准教授 竹中 万紀子 (たけなか まきこ)

米国Sarah Lawrence College 卒業。筑波大学大学院生物科学研究科単位取得退学。1988年より北海道東海大学非常勤講師。2013年より生物学部生物学科准教授。専門は鳥類生態学。特に、身近な野鳥であるカラス類、コムクドリ、草原性鳥類の生態、社会生態などを調査してきた。札幌キャンパスの生物相の調査も学生と一緒に楽しみながら精力的に行っている。「身近な生き物や自然景観と折り合いをつけて共存することが当たり前」ということが社会全体のコンセンサスになることを目指したい。