オピニオン

議会制民主主義と選挙 政治経済学部政治学科 准教授
秋本 富雄

2013年7月1日掲出

 参院選が4日公示、21日投開票される。インターネットを使った選挙運動を認める改正公職選挙法が施行された初の選挙となり、注目度も高い。イギリスの議会制民主主義と選挙について詳しい東海大政治経済学部政治学科の秋本富雄准教授に民主政治、選挙について聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 銅崎順子】

 

 ――イギリスは、日本と同じ議院内閣制の国ですが、選挙制度は似ているのでしょうか。

 まず、異なる点をあげてみましょう。日本は衆参ともに選挙が行われますが、イギリスの選挙は下院のみで、小選挙区制です。日本の衆議院(下院)は小選挙区と比例の組み合わせですよね。次に、イギリスの選挙期間は約1カ月で、日本に比べて長いのですが、選挙費用はかかりません。なぜなら、一人の候補者が使える選挙費用は法律によって上限が設けられており、立候補する際に必要な供託金も安く、買収・供応行為については連座制が適用されるからです。ちなみに、1ポンド=150円とすると、2010年選挙では、選挙年の選挙費用は約600万円、供託金は7万5000円でした。選挙費用をかけられない分、選挙カーを何台も借りたり、電話で支持を訴えることは難しく、各候補者の選挙運動は、ボランティアの選挙運動員とともに、戸別訪問中心で展開されます。日本よりはるかに小規模な有権者7万人の選挙区だからこそ可能でありまた有効な選挙運動なわけですね。いずれにしても、選挙区レベルの選挙風景はとても静かなものです。

 一方で、各政党の本部主導による全国的なメディアキャンペーンは、党首が前面に立って、分刻みのスケジュールで全国を飛び回る大規模なものです。各政党本部の選挙費用にも法的上限は設けられていますが、選挙日の1年前から、全体で約45億円ほどのお金が費やされます。小選挙区制のもと、有権者にとっての下院選挙は、何よりも政権選択選挙、つまりは、英国の将来を誰(どの党首)に託すのかを決める選挙です。だからこそ、メディア空間を主戦場とする党首間の競い合いは激しくなるばかりで、その点は日本も同様ではないでしょうか。ちなみに、2010年には、イギリス史上初めて、主要政党の党首3人によるテレビ討論が計3回行われ、高い視聴率を記録しました。

 

 ――他に制度面で、異なる点はありますか?

 各政党の候補者選びは、公募を軸に制度化されています。また、先ほど申しあげましたように、小選挙区の規模が小さい分、日本に比べると議員の数は多いといえます。しかし、人口 6000万人のイギリス下院の定数は現在650人ですが、人口規模がほぼ同じフランスの下院は577人、人口7500万人のドイツ下院は約600人ですし、イギリスの上院は任命議員がほとんどであるため下院の権限がはるかに強い・・・日本のように、下院議員の大幅削減を主張する意見は、イギリスにはありません。

 実際、日本の国会議員数はアメリカ連邦議会の議員数に比べて多すぎると、よく言われますが、アメリカは連邦国家であり、統治システムそのものが違うので、比べること自体、やや無理があります。アメリカでは連邦議会と同様、州議会にも上院と下院があります(ネブラスカ州を除く)。それを含めると、立法権限を有する(連邦および州)議会の総議員数はどうなるのでしょう。民主政治の原理からすると、議院内閣制で中央集権の日本において、国民自らが国民代表を選ぶ権利を制限し、多様な意見が国会に反映される機会を減らしていいのかとは、思います。

 

 ――イギリスの選挙制度は参考になりますか。

 これまでの話のように、小選挙区制そのものは複雑な制度ではありませんし、「勝者を作る」という明確な制度目的があるので、モデルにはしやすい。しかし、制度の効果がどう現れるかは、政党と社会の結びつきにかかっています。イギリスは小選挙区だけなのに、ここ数回の日本の衆議院選挙ほどに極端な選挙結果が生まれない理由は、そこにあります。イギリスの政党に限らず、ヨーロッパの政党は、長い歴史の中で階級、宗教、民族などの社会亀裂に対応し発展してきました。日本の場合、55年体制成立時はそのような結びつきがあったわけですが、今はどうでしょうか。この間まで政権の座にあった民主党は、当初から、民間労働組合組織の支援を受けつつ、党の基盤づくりに励んできたようですが、うまくいってないように見えます。その意味で、現時点で、かろうじて日本社会とのつながりを保持している政党は自民党だけだと思いますが、今後どうなるのかは、よくわかりません。

 

 ――ネット選挙というとアメリカという印象がありますが、イギリスではどのように利用されているのですか。

 2005年の総選挙時には、まだスマートフォンもなく、モバイル機器でニュース映像を視聴するという状況ではなかったですね。ブロードバンドなどのネット環境は整っていたので、政党側は、マニフェストをダウンロード配信したり、ホームページ上で献金を募ったり、一方、マス・メディアの側も、ネット上でブログを活用した記事を作成するといったことはありました。マニフェストについていえば、それ以前は本屋で印刷されたマニフェストを容易に購入できたのですが、05年からは置いてある本屋を探さなければならなくなりました。10年の総選挙では、モバイル機器からツイッターやフェイスブックといった個人メディアにアクセスすることが可能になっていたので、政治家、ジャーナリスト、市民ともに、ニュースを含めた様々な政治情報の発信・アクセス・レスポンスの量とスピードが、飛躍的にレベル・アップしていました。そうした中、支持者の動員、現場からの情報発信のあり方など、新たな情報環境の利用可能性が、試されていました。

 

 ――投票率は上がるのでしょうか。

 先ほどの話のように、アメリカやイギリスでは、IT環境の発展に寄り添う形で、ネット選挙の深化がみられたわけですが、日本では、スマホによるネット利用環境がほぼ整備されるまで、ネット選挙は封印されてきました。政治家、ジャーナリスト、有権者のいずれにおいてもスキル格差が存在する中、「ヨーイ・ドン」で始まるネット選挙の影響は未知数です。

 投票率について言えば、高くなる要素はまだ見いだしにくい・・・接戦区では、ブログやツイッターなどで投票を呼びかけあって投票率が上がるということも起こりえますが・・・。実際、インターネットの時代になっても、先進民主諸国の投票率の低下傾向に変化は見られません。投票率が低い理由は他にあるはずです。

 

 ――若い人の低投票率が問題となっています。政治にどのように関心を持てばいいのでしょうか。

 年代別の投票率をみると、20歳台のみ、選挙に行かない人たちが多数派となっています。今の学生を見ていると、関心のあることはとても深く知っていますが、それ以外は知らない、知らなくても済む・・というか、「答え」はネットにあるから、別に知らなくても恥ずかしくないよね・・・という感じなんですね。

 その一方でというか、だからこそと言うべきか、若年層が関心を持つべき問題が、優先的政治議題になってはいない・・・それが日本の民主政治の現実です。また、そのことをネットで学んじゃう若者だって、たくさんいると思います。したがって、「知ってる」若者にとっても、「知らない」で済ましてる若者にとっても、日本の民主政治の現実を考え一票を投じる作業は、ちょっとしんどい・・・。そのしんどさを避けて投票するなら、その先にはポピュリズムの罠が待っているかもしれない。難しい問題ですね。

 遠回りのようですが、しんどくても、「わからない」ことを自分の頭で考え、他人と意見を交換してみる、その覚悟と力を、楽しく身につけてもらうしかない。その意味で、模擬投票、ディベート、熟議討論型世論調査など、中学高校での体験的政治教育が必要ではないかと思っています。

 

 ――政治学科の特色を教えてください。

 世の中の仕組みがどうなっているのかを理解し、世の中を少しでも良い方向に変えていくにはどうしたらよいかを自分なりに考える力を養うには最適の学科です。そのために政治学科では、本学の特徴である少人数教育にいち早く着手し、学生個々の成長を促すためのノウハウを築いてきました。またこれは私見ですが、東海大学の副専攻制度の意義を実感しやすい学科ではないかとも思います。例えばメディア・キャンペーンについて学びたい場合は、文学部の広報メディア学科、あるいは政治経済学部の経営学科で学ぶことによって、現代の民主政治の現実を、深く多面的に理解することができます。

 

 ――秋本先生がイギリス政治に興味を持ったきっかけは何ですか。現在の研究テーマについても教えてください。

 ロックが好きで、初めて買ったLPレコードはビートルズ、初めてのロックコンサートはクイーン・・・イギリスへの興味はそのあたりからですね。大学院時代の師匠がアメリカ政治を専門とされていたこと、イギリスが議院内閣制の母国であること、そしてサッチャー首相の登場、研究のきっかけは、そんなところでしょうか。

 現在の研究テーマは、権限委譲のプロセスの中にあるスコットランドの政党政治です。14年秋に独立を問う住民投票がありますので、大変に注目しています。並行して、2010年に本格的な連立政権が誕生したイギリス政党制の変容状況についても、研究を進めています。とりわけ、政党組織の衰退とネット選挙を含む政治マーケティングの発展状況に、関心をもっています。

 

 ――最後に若者たちへメッセージをください。

 5年前には、「自分の頭で、自分の足で、動ける人間になろうよ」って言っていたと思います。今はそう、夢を見ることも、等身大の自分を見つめることも、目の前で困っているヒトに声をかけることも、自分に何ができるだろうって悩むことも、「今日できることは今ヤル」・・・その「勇気」が大切だよって・・・ささやかなメッセージですが。

 

政治経済学部政治学科 准教授 秋本 富雄 (あきもと とみお)

早稲田大学院政治学研究科博士課程満期退学。1993年4月より金沢工業大学人間科学総合研究所研究員。2001年4月より早稲田大学総合研究機構プロジェクト研究所総合政策科学研究所客員研究員。2006年4月東海大学政治経済学部政治学科に専任講師として着任。専門は政治過程論、比較政治論、現代英国政治論。主な論文は「西欧民主諸国-ジェンダー先進地域の<先進性>と<格差>」(吉野、今村、谷藤 編著『誰が政治家になるのか』所収、2001年)、スコットランド政党競争空間の変容」『日本選挙学会紀要第2号』(2004年)、「英国総選挙におけるジェンダー状況」『東海大学政治経済学部紀要第40号』(2008年)。