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社説

人口を考える 50年後1億の幻想 新たな国へ発想の転換を

 人口減少に立ち向かうには、確かな長期ビジョンに裏付けられた政治家のリーダーシップが不可欠だ。日本にそれがあるだろうか。

     「50年後も人口1億人を維持する」。安倍晋三首相が2015年に打ち出した目標だ。「希望出生率1・8」を掲げ、待機児童解消などの少子化対策に取り組んでいる。

     しかし、17年に生まれた子どもは94万人。2年連続で100万人を下回った。政府の少子化対策が出生率を改善するには至っていない。

     今後、出生率が上向いても、現役世代の女性の数は減り続けるため、生まれてくる子どもは増えない。現在の人口を維持するには出生率2・08以上が必要だが、昨年の出生率は1・43にとどまっている。

     50年後の2065年ごろは1億人どころか、8000万人台にまで落ち込むと予測されている。

    「安倍1強」に黙る官僚

     人口減対策の立ち遅れに危機感を抱く官僚や研究者は少なくない。だが、経済成長優先の「安倍1強」下で、路線の異なる考えを伝えにくい空気が支配している。

     年金や医療などの社会保障の総額は現在約120兆円。保険料では6割しか賄うことができず、赤字国債による借金でしのいでいる状況だ。将来世代にツケを回す「先食い」によって、国と地方の累積赤字はすでに1000兆円を超える。

     これから数十年は高齢者が増え、現役世代は減っていく。負担増の議論は避けられない。しかし、安倍政権は消費税10%への増税を2度にわたって延期した。増税による消費の落ち込みが成長の足を引っ張るという。官邸に人事権を握られた官僚が口を閉ざすのはそのためだ。

     安倍政権の「成長なくして財政再建なし」は、経済成長すれば企業の収益や労働者の所得が増え、結果として税収も増えて借金を減らせるという「上げ潮」路線の考え方だ。17年度は税収も年金積立金の運用益も増えた。政権はアベノミクスの成果だと強調する。

     ただ、アベノミクス頼みでは、世界経済の状況に大きな影響を受けることが否めず、長期的な人口減少と社会保障機能の維持に対する根本的な解決策にはならない。

     人口減でも生産性が上がれば経済成長は可能という説も根強い。

     安倍首相は16年に米国で金融関係者らに向けた講演で「日本はこの3年で生産年齢人口が300万人減少したが、名目国内総生産(GDP)は成長した」「人口動態(人口減少)にまったく懸念を持っていない」と強気の発言を繰り返した。

     労働力が減少するのに伴って、企業は生産性の向上を迫られるため、ロボットや人工知能(AI)の活用が進むというのである。

     しかし、人口減少は消費者が減るということでもある。日本のGDPの6割は国内消費が占めている。生産性が高まって商品やサービスの量が確保されたとしても、買う人が少なくなれば経済は縮む。

    適合と成熟の政策を

     日本の企業の9割は中小零細だ。経営者が高齢で後継者がいない企業は多く、その半数が黒字と言われる。このままでは650万人分の雇用と22兆円のGDPが失われる可能性がある。「20年ごろにGDP600兆円」という安倍政権の目標は現実から遠いと言わざるを得ない。

     老朽化する道路や橋などのインフラ、シャッターだらけの商店街、増え続ける空き家。人口減少の影響で進行中の問題に対し、各省庁はさまざまな名目の補助金を場当たり的に配って対処してきた。

     しかし、従来の延長線上にある政策では、これから訪れる変化には対応できない。人口減少社会の青写真を描き、成長を前提にした拡大志向から、適合と成熟を目指した政策へと変える必要がある。

     政府内に人口減少の総合対策本部を設け、強い政治力で社会の構造や価値観の大転換を図るべきだろう。それは新たな国づくりに等しい。

     日本よりはるかに人口が少なくても、若い世代の起業が盛んで、社会に活力をもたらしている国はある。日本でも新しいビジネスや社会づくりに取り組む人をもっと支援する流れを作るべきだ。教育や労働環境も変えなければならない。

     人口の減少と年齢構成の急激な変化は避けられない。それを過度に恐れず、発想を転換してさまざまな分野で挑戦するところから、新しい時代の価値観は生まれるだろう。

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