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村松 友視・評『くろちゃんとツマと私』『ロシアの躁と鬱』

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読むたびに表現の新しい型を堪能させてくれる書き手たち

◆『くろちゃんとツマと私』南伸坊・著(東京書籍/税別1300円)

◆『ロシアの躁と鬱 ビジネス体験から覗いたロシア』中尾ちゑこ・著(成文社/税別1600円)

 南伸坊が事物に出会い、咀嚼(そしゃく)してゆく刻々の自分を活写するスタイルが、ますます冴(さ)えわたってきたな……と、まずは感服した。とくに、“ツマ”とのツッコミとボケを導入しつつ、なぜこの事実が面白いのかを語るワザに、納得しながら笑いをさそい出され、シンボー流の術中にはまった快感のトゲが、次々と私の頭や心や体に突き刺さってゆく、痒(かゆ)みと痛みの連鎖がたまらない。

 タイトル『くろちゃんとツマと私』にある“くろちゃん”はオスの黒猫だが、くろちゃんと私とツマとの駆け引き合戦をふくむ遊びのシーンにあらわれる、“知”の探り合いに似たゲームもこの本の肝(きも)。夫婦の無邪気なイタズラのプランの応酬と、それに対する“くろちゃん”のしたたかな反応ぶりの中で、人間と猫が互角の物腰で、必死のせめぎ合いをくりひろげるところがミソ。とにかく、キモとミソが満載されているのだ。

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