オピニオン

海を観察すれば気象が見える 浮遊ゴミ解決の手がかりにも 海洋学部海洋地球科学科 教授
久保田 雅久

2013年3月1日掲出

 海洋観測から見えてくるもの。それは気候変動などの自然環境や、浮遊ゴミといった社会問題もある。近年、天気の長期予報も海の状態を知ることがカギとなっている。海洋と大気の密接な関係から導きだされるものとは? そして浮遊ゴミ解決の糸口は? 海洋物理学、海洋気象学分野を専門とする久保田雅久教授に聞いた。【デジタルメディア局 江刺弘子】

 

海に漂う浮遊ゴミ、社会全体で認識を

 ――浮遊ゴミの問題は、世界的にも問題ですね。

 ミッドウェー環礁付近は太平洋ゴミベルトと呼ばれ、問題が深刻です。アホウドリはエサと一緒にプラスチックなどのゴミも体内に取り込み、さらに親鳥がヒナにエサとして与えてしまっています。アホウドリのヒナを調べると、80%以上のひながプラスチックゴミをエサとして取り込んでしまっていたという報告があります。ゴミがたまる場所は風や海流によって決まります。そこにはゴミだけではなく、魚の卵や稚魚も集まり、鳥たちにとって食料を得るためには最高の場所となっている可能性があります。そこが人間の出したゴミによって満ちあふれ、鳥たちにとって逆に悪影響を与えてしまっているのです。

 

 ――東日本大震災によって生じたがれきも太平洋に流出しています。

 がれきが海に流出していることはわかりました。では、そのがれきが海でどのように移動しているかを実際に見た人はどれだけいるでしょうか。

 桟橋など大きなものが漂着するとニュースに取り上げられますが、それはあくまでシンボルに過ぎませんし、それがすべてを表しているかは疑問です。シミュレーションをやってみると、ほとんどのゴミは海岸に流れ着かず、海を漂っています。流れ着くか、着かないかではなくて、全体量から見ると流れ着くものはほんのわずかであるという認識をみんなが持つべきです。

 がれき問題が大した問題ではないと言っているのではありません。海は広いわけですが、ゴミが増えれば、汚れていくことは確かです。行き着いたとか行き着かないということだけを問題視しているスタンスこそが問題です。

 

 ――浮遊ゴミが社会問題としてとらえられるようになったのはいつごろからですか。

 おそらく日本で初めて浮遊ゴミの学術的な調査をやったのは東海大学海洋学部です。1980年代後半、日米交渉の議題の中で、米国から日本漁船の網が流れ着いているとの問題提起があり、その時、日本は答えを持っていませんでした。この時、水産庁が委託研究を東海大学に出しました。海のゴミの分布と、どのように浮遊していくのかの二つが柱です。

 

 ――実際にどのような実験、研究をされたのですか。

 ゴミは自分で動くものではなく、海面の流れがわかれば、ある程度、推測が立ちます。海の流れを調べるのは難しいことでした。当時は船による観測データを入手して研究しました。海に広がったゴミは、流れとともに、特定の地域に集まることがわかり、そのメカニズムを1994年に論文として発表しました。

 研究計画の中では、仮想のゴミとしてブイを海に浮かべて、そのブイの動きのデータを衛星経由で受け取り解析しました。ブイ投入後、約10年が経ったころ、ハワイ在住の方から「あなたが流したブイを拾いました」と突然メールをいただき、ハワイまで取りに行ったこともあります。私の予測では海洋浮遊ゴミはハワイの近くに集まることになっていましたから、まあ仮説が検証できたわけです。

 

 ――浮遊ゴミ対策で求められることは何でしょうか。

 社会の共通認識として捉えなければいけません。「(海にあるので)自分たちから見えないからもういい」と関知しなくなると、浮遊ゴミはどんどん増えていきます。対馬など日本海側の浮遊ゴミ問題は深刻です。陸に着くと拾わなければいけませんが、高齢化が進んだ地域ではそれすらも難しい状況です。海岸に流れ着くゴミだけでも、すごい量ですが、それの何百倍、あるいは何千倍もの量のゴミが海には浮かんでいるという認識が必要です。

 しかし紛争国では、浮遊ゴミのことなど考えていられません。文化の違いから、ゴミ問題のとらえ方も日本と異なる国もあります。単純に「ごみを捨ててはならない」というのではなく、「戦争」や「文化の違い」を乗り越えて踏み込んでいかないと、浮遊ゴミの問題は解決しないでしょう。

 浮遊ゴミを出す国(原因)と流れ着く国(結果)が違うことで問題が複雑になってきます。日本のゴミは基本的に東へ向かい、ミッドウェーや米国に流れ、中国のゴミは日本へと流れて来ます。こういった浮遊ゴミの移動や集積のメカニズムを科学的に十分理解しないと、世界の海を漂うゴミの問題は解決できませんし、それこそがサイエンスにできることではないでしょうか。

 

長期の天気予報は海を知ることから

 ――次に海洋と大気の関係を教えてください。

 陸上に住んでいる私たちは、天気には多くの人が興味を持つ一方で、海洋を感じるのはなかなか難しいですね。海洋と大気は両方とも地球を覆っている流体で、両者は複雑に関係しています。

 近年、3〜4日の範囲だと天気予報は当たる確率が高くなりました。コンピューターを使った予測技術が進歩し、現在の大気の状態がわかれば、3日先くらいまでの天気は85%以上の確率で推測できます。

 しかし1週間、1カ月後と期間が長くなると、どんどん当たらなくなってきます。それは、それから先の天気を決めているのが海だからです。つまり長時間後の大気の状態を決めているのは海なのです。大気は海に影響を与え、海も大気に影響している。大気海洋相互作用、大気海洋双方向作用などと呼ばれ、長期予報や異常気象、気候変動の問題は海洋と大気を一緒になって研究しないと解決できないことがわかってきました。

 

 ――海洋と大気が及ぼす気象の具体例を教えていただけますか。

 台風を例にとりましょう。台風は海面温度の高い場所で発生します。そこにはたくさんの熱エネルギーがありますが、海水が蒸発して水蒸気になるときに海からたくさんの熱エネルギーを奪い、その水蒸気が雨になった時にそのエネルギーを大気中に解放します。台風は移動しながら、下の温かい海水からエネルギー源としてどんどん水蒸気が供給されます。台風が上陸すると勢力が弱まるのは、エネルギー源を奪われるからです。反対に台風は温かい海の上に長く停滞していると、エネルギー源をもらってどんどん発達します。海面と大気の間の熱のやりとりが台風の勢力を決めているのです。

 赤道付近で発生するエルニーニョ現象も大気海洋相互作用によるものです。近年はこの赤道付近の研究に加えて、中緯度の海での海洋と大気の活動も注目されています。

 

 ――海洋の状態を観測するための技術を教えてください。

 海洋の状態を常時観測するシステムに「アルゴ(Argo)」があります。海洋に観測機器が入ったフロートを投入します。まず水深1000メートルにとどまり、時期がくるとフロート自身で水深2000メートルまで落下します。次に海中の水分や塩分を観測しながら再び自動で海面に浮上し、衛星にそのデータを送信します。そしてまた海中に潜っていく、この繰り返しです。これらのデータは海水温や気象の予測に役立てられます。全世界で3000個を目標にしていましたが、2007年にそれを達成しました。フロート数が多いのはダントツで米国が1位です。日本は現在3位ですが、長い間2位でした。気象庁は長期予報の精度を上げることを目的にアルゴシステムを投入しています。

 

 ――気候変動の実態に迫るために必要なことは何でしょうか。

 さまざまなアプローチがあります。今の状況でいうと一つは数値モデルの利用でしょう。現在の天気予報は数値予報と言われ、微分方程式を差分方程式に直し、大型コンピューターを使って予報しています。あくまで差分方程式で近似的に計算しているのです。しかし、それだけでは計算結果が間違った方向にいく可能性もあるので観測データを常に取り込んで、数値モデルを走らせています。観測データと数値モデルの両方を活用して、予報精度をあげているのです。

 しかし気候変動のような長い時間に関する研究で難しいのは、過去のデータがあまり存在しないことです。しかしながら、気候研究でも過去のデータが足りないなりに、さまざまな観測データを駆使して、コンピューターを使って調べるというのが主流にならざるを得ないものと考えられます。

 

 ――観測データを生かすためにもコンピューターの活用が求められるのですね。

 はい。ただ危惧する面もあります。CG(コンピュターグラフィックス)と同じで、数値計算技術が進歩すればするほど、それが数値モデルだということを忘れ、数値シミュレーションの結果を現実のものと錯覚したり、混同したりするようになることです。

 若い人の中には現実の事柄には興味がないけれど、シミュレーションの中での気候変動の予測には興味を持つといった人もいるでしょう。しかし、真実は現実の中に存在するのですから、現実を知る手段である観測の大切さを決して忘れてはいけません。観測作業はいわば「3K」で、若い人にとって魅力的に映らないかもしれません。しかし、その重要性を十分に認識して、初めてコンピューターの威力が生かされるわけですから「現実を常に意識して数値モデルを走らせる」ということを考えていかないといけません。

 気象予測に数値モデルは圧倒的な力を持っています。だからこそ数値モデルに厳しい目をもっていかないと危険だと思います。

 

 ――研究室での活動を教えてください。

 大きな柱は衛星データを使って海面の熱のフラックス(輸送量)を推定することです。海面では大気から海へ「短波放射」、その反対に海(地球)から大気へ「長波放射」「潜熱」「顕熱」といった形で熱のやりとりが行われており、人工衛星はそれを地球規模で測定しています。ちなみに、放射を測れば、物体の温度も測ることができます。すべての物体はその温度によって熱放射をしているからです。この原理を利用したのが放射温度計です。我々の研究室では、主に、「潜熱」と「顕熱」の全球での分布を衛星データから推定し、その結果を解析することによって大気と海洋の相互作用について調べようとしています。

 いろいろと調べてみると、同様の研究をドイツのハンブルグ大学と米国のNASAがすでにやっていました。それを知った時に実は「同じようなことを自分たちが無理してやらなくてもいいかな」と感じたこともありましたが、結果的に見れば3か国で切磋琢磨(せっさたくま)し、いろんな議論ができて、この分野の発展につながったと思います。今ではこの研究室からのプロダクトを世界一にしたいと思って研究を行っています。

 

 ――海の実態を解明していくことの面白さはどこにありますか。

 スケールが大きく、夢があることでしょう。しかしながら、率直にいうと、この分野の面白さが時代とともに変わってきたように感じます。海洋物理は元々理学的でしたが、現在はアプライド・サイエンス(応用科学)に近くなってきました。社会の何に役にたつのか、どう貢献するかと求められるのは、サイエンスにとって良い面も悪い面もあります。海洋物理も現実的な学問に近づいて来て、おもしろい面と、ロマンということからするとそれがちょっとつらいこともあります。

 

 ――海洋分野に興味を持ったきっかけは何でしたか。

 小学校の時に潜水艦ノーチラス号の冒険を描いた「海底2万マイル」を読んで、自分も大人になったら潜水艦を作って海に潜ってみようと思っていました。しかし戦闘機のエンジンを作る仕事をしていた父から「潜水艦を一人で作れると思うな。一人の人間には潜水艦の一部しか作ることはできない」と言われ、「それなら外側の海のことをやったらおもしろいだろう」と考えるようになりました。それがきっかけかもしれません。しかし私は船に弱く、早い段階で船に乗ってしまったら、絶対にやっていなかったですね。

 

 ――今後取り組んでいきたいテーマを教えてください。

 今の時代、定年になってからもウェブなどで世界中のデータを取得できて、自分の家でも研究が可能です。やるとしたら海面のフラックスや大気海洋相互作用がテーマとなります。

 ところで私はカミキリムシに非常に興味を持っています。自然界の中に入り、その空気を吸うだけで生き返った気持ちになります。今はその時間がとても貴重です。定年後にも海洋と昆虫、ちょっと両方やってしまおうかなと思ったりもして、実は迷っています。

 

 ――学生へのメッセージをお願いします。

 見かけにとらわれすぎて、失敗したりすることや、無駄が多いように感じます。学生には、すべてのことに対して常に本質を見るようなスタンスを心がけるように言っています。

 研究室でのプロダクトを作るときも、「世界一をめざそう」と話します。だれも知らなかった情報を一つでも見つければ、もうそれだけで研究としては十分だと思います。今の若者は目の前にたくさんの山があったら、山の前をうろうろしているだけで、なかなか登ることをしません。迷っている間に時間はどんどん過ぎていきます。登ろうとする気力も時間とともに減退するかもしれません。それよりは、少しでも高い山にすぐに登ってみることが大事です。若いときは苦しくても、勢いで高い山に登ることができます。高い所からは、周りの山の高さを知ることができ、今までには見えなかったいろいろなものが見えます。それが大事だと思います。自分の登った高さが高ければ高いほど、他の高い山も見えてきます。分野に関係なく一流のものを見たり、聞いたりして感性を磨くことも自分の分野で高いところに登るためには必要に思います。

 

海洋学部海洋地球科学科 教授 久保田 雅久 (くぼた まさひさ)

1981年東京大学大学院博士課程修了。1981年4月に東海大学海洋学部海洋工学科助手、1982年4月に講師、1987年4月に助教授、1992年4月から教授。1985-1986年にフロリダ州立大学客員研究員。1995年に東京大学気候システム研究センター客員教授。1996年に海洋理工学会論文賞、1998年に松前賞,2001年に日本気象学会堀内賞、2012年にPORSEC Science Awardを受賞。専門は海洋物理学・海洋気象学。著書に「海洋の波と流れの科学」(共著)など。