オピニオン

再生エネルギーで植物工場 電子、ロボット分野とも連携し産業構築 産業工学部電子知能システム工学科 専任教授
中嶋 卓雄

2012年6月1日掲出

 太陽光や風力などの様々なエネルギーを電力に転換する再生エネルギーが注目されている。東海大学熊本キャンパス(熊本市東区)でも、植物工場に再生エネルギーを活用するなど本腰を入れて研究に取り組み、電子やロボット技術とも連携を図った新たな産業構築を模索している。2013年4月には同分野などを研究する新学部「基盤工学部」の設置が予定されている。新学部開設準備室の室長も務め、コンピューターネットワーク、ネットセキュリティーを専門とする中嶋卓雄教授に、再生エネルギーの展望を聞いた。【聞き手・毎日新聞デジタルメディア局 江刺弘子】

 

 ――再生エネルギーを使った研究とは、どんなものでしょうか。

 現在東海大学では、再生エネルギーを使って植物を生産する工場を動かしていて、メーカーとも共同研究を始めています。再生エネルギーから得られた電力で野菜を栽培し、ロボットを使って湿度や風向きなど植物工場内で記録したデータを自動的に収集したり、得られた観測データをスマートフォンで可視化したりと、さまざまなデバイスに広げていく試みを行っています。

 

 ――単に太陽光から野菜を生産するだけではないのですね。

 重要なのは再生エネルギーとさまざまな分野を関連づけて産業を構築することです。これまでは電気なら電気だけ、ロボットならロボットと、それらの技術や考え方が農業につながることはありませんでした。そこで私が取り組む植物工場では、エレクトロニクス技術との連携を図り、農業を1次産業から6次産業(※)に変換させるといった役割を考えています。

 ※6次産業とは=農産物を生産(1次産業)するだけでなく、食品加工(2次産業)や流通、販売(3次産業)にも総合的にかかわることにより、それらの付加価値を得て農業を活性化させようというもので、多角的な農業経営のこと。

 

 ――農業と電子技術との融合が今後求められてゆくのですね。

 現在の日本の農業には、豊富で高度な知識がありますが、それが集約されていない部分もあります。人間の感覚でやってきたものを数量化して、これまで農家が蓄積してきた知識をうまく数値で観測に適用できるようにシステムに生かしていきたいと考えています。そして再生エネルギーを使った植物工場で活用し、食品に加工する。さらに将来的には輸出産業にしていきたいと思っています。

 ただ植物の場合、たいてい収穫は年に1回です。つまり10年に10回しか実験ができないことになります。そのためには電子やロボットの技術も必要です。データを集積するための電子技術や、省力化するためのロボット技術などがそれです。熊本キャンパスがある九州はロボット企業や半導体工場も多く、「カーアイランド」や「シリコンアイランド」と呼ばれることもあります。アジアに近いという利点もあり、電子系、ロボット系の世界展開の機会もたくさんあるのです。

 

 ――今後は「熊本キャンパスの植物工場産野菜」など、大学ブランド商品も出てくるのでは?

 品種改良といった化学的アプローチは考えていませんが、ソーラー発電やロボットと連携した植物自動生産キットなどの開発は検討しており、ブランド化につなげたいと考えています。 再生エネルギーを使って、世界中どんなところでも生産が可能な環境を作れば、日本でまだ栽培されていない植物を輸入して栽培することもできます。また、工場の中で栽培するということで完全に無菌な状態で生産することができ、食の安全に対する貢献もできる。太陽光と違う、LEDの光を使うことによって、甘さなどの変化を調べることができる。今挙げただけでも様々な方向からのアプローチが考えられ、こういった中から新しいブランドができるかもしれませんね。

 

 ――福島第1原発の事故を受けて、再生エネルギーは改めて注目されています。

 グリーンエネルギー、ロボット技術、安全な食品を提供する植物工場、安全で快適な暮らしを提供する情報ネットワーク、これらが融合して、産業活動となります。これらは安全・安心な社会を作り、持続可能な生活環境を支えるための重要な技術であり、これからの社会基盤構築のために欠かせない分野です。私たちは東日本大震災以前からこうした考え方について論議しており、それが間違っていなかったと感じています。

 

 ――再生エネルギーの産出だけでなく、省エネそのものの研究は進んでいますか。

 はい。あるデータをネットワークに転送するとなると、遠くに飛ばすには多くのエネルギーが必要になります。しかし中間にポイントを置いて、バケツリレー式にすると、エネルギーは少なくてすみます。このようにエネルギーを使わない別の仕組みを考えることが重要です。

 発電効率でいうと、太陽が位置する方向に太陽電池の向きを自動的に合わせるセンサーネットワークがあれば効率的です。またビニールハウスにとりつけた太陽電池の光がハウス内に通る透過型にすれば、農業の近代化と省電力を進めることができます。

 

 ――準備を進めている「基盤工学部」ではどのような学習をするのですか。

 「基盤工学部」の電気電子情報工学科で、「グリーンエネルギー」「植物生産工学」「次世代ロボット」「情報工学」の四つの分野を複合的に学びます。従来で言えば複数の学科の内容を同時に学習することになります。

 グリーンエネルギー分野では、グリーンエネルギーによる発電の仕組みと利用技術を学び、次世代電力網「スマートグリッド」についても、先進事例を中心に学びます。植物生産工学分野は、ネットワークを利用した遠隔操作やロボットによる収穫など先端の技術に加え、阿蘇キャンパスの農学部と連携した「キャンパス横断型副専攻科目」により、農学に関する専門分野を学習することも可能です。次世代ロボット分野は、最新のロボット関連技術を学習し、実習を多くして、学生自身がものづくりの喜びを感じてもらえる授業にする予定です。

 最後にこれまでの3分野のベースになるのが、情報工学分野です。ネットワーク、セキュリティー、プログラミングなどの情報技術の基本を学び、アプリケーション構築技術をマスターします。3年次以降には、画像処理や拡張現実システムなど先端の情報工学も学習します。また、植物工場のセンサー制御、太陽光発電状況の遠隔地からの「見える化」など3分野への技術応用の役割を担います。

 

 ――再生エネルギーを研究する学生に一言お願いします。

 地球は閉ざされた空間です。それと同じように、閉じた形(施設)の中で、いろんな形態で生活ができ、生命体が生まれてくる。そういったものが完成、発達していけば、世界の人口が増えても対応できるかもしれません。再生エネルギーは、地球環境の変化や、食料不足の問題など、人類が直面しているさまざまな問題を解決できる一つの重要な柱なのです。 あまり細かい特殊技術をすべて理解することに固執せず、ある程度、使える技術を相互に組み合わせて、つなげていくことが重要ではないでしょうか。これから学ぶ皆さんへは様々な異なる分野を勉強して、それらを関連付けられることを応用して学んでいってもらいたいと思っています。

 

産業工学部電子知能システム工学科 専任教授 中嶋 卓雄 (なかしま たくお)

熊本県出身。1986年熊本大学大学院工学研究科修了。富士通勤務を経て、熊本大学工学部助手。2001 年から九州東海大学応用情報学部講師を経て、大学の統合後、東海大学産業工学部教授。博士(工学)。専門は、コンピュータネットワーク、コンピュータセキュリティなど。2006年度情報処理学会 「山下記念研究賞」受賞。2007年、2009年「IPSJ Workshop on Multimedia Communication and Distributed Processing  Outstanding Paper Award」など受賞歴多数。情報処理学会、ACM、IEEE 会員。