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ニッポンの食卓

第3部 それって健康?/6 解明進む黒酢の効果

屋外に並んだつぼの中に原料を仕込む職人たち=坂元醸造で、川畑さおり撮影

 桜島を望む工場の敷地に大きな陶器のつぼがズラリと並ぶ。鹿児島県霧島市福山町にある黒酢醸造メーカー、坂元醸造(鹿児島市)の「壺畑(つぼばたけ)」ではこの日、春の仕込みの最終日を迎えていた。職人たちが手分けして蒸し米、地下水、米こうじを手際よく54リットルのつぼの中に仕込んでいく。

     ●江戸時代の製法で

     つぼ造り黒酢発祥の地として知られる福山町。江戸時代後期の1800年ごろ、つぼによる米酢造りが始まり、今も当時の製法が守られている。春と秋の年2回、三つの原料を屋外のつぼに仕込み、太陽光を利用して1年以上かけて発酵、熟成させる世界でも類のない製法だ。三方を山に囲まれた町は年間平均気温が18度と発酵に適した温度で、良質な地下水が豊富にある。こうした環境に恵まれ、昔から米酢造りが盛んだった。

     醸造技師長の蔵元忠明さん(65)は「黒酢造りは『子育て』と呼んでいる。つぼの中は毎日『顔色』が変わるんです。さまざまな菌がすみ着いている古いつぼほど手がかからない」と話す。薩摩焼や信楽焼など約5万2000本を所有するが、中には200年以上前から使っているものも。酢は本来無色透明だが、熟成が進むにつれて色づく。1975年、坂元醸造が琥珀(こはく)色の米酢を「黒酢」と名付けたのがきっかけで一般名称になった。

     ●認知機能の改善も

     黒酢の人気は全国区だ。東京都葛飾区の会社役員、杉野行雄さん(69)は、毎朝起きてコップ1杯の水を飲んだ後、おちょこ1杯の黒酢を飲む。もう20年近く続けている。酢の物が嫌いという杉野さんだが「黒酢はコクがあっておいしい。体がすっきりするんです。体の調子がいいのは黒酢のおかげかも」と話す。

    黒膳研究会監修の黒膳弁当=城山ストアー提供

     一方、鹿児島県は黒酢だけでなく黒豚や黒糖など「黒」の食文化がある。これに着目した鹿児島大学などが2014年、県産食材の機能性成分を分析、栄養バランスの優れた健康に資する食事を提案するプロジェクト「黒膳研究会」を設立した。たんぱく質▽脂質▽糖質▽ビタミン▽ミネラル--の5大栄養素と1日に必要な摂取カロリー、塩分、食物繊維を考慮しながら、黒い食材を6割以上含んだ献立「黒膳」を考案。15年に商標登録された。民間企業と連携して商品化した「黒膳弁当」は、市販の弁当に比べポリフェノール含有量が2倍以上になるよう調整されている。

     鹿児島大農学部の侯徳興(こうのりおき)教授(食品機能学)は、20年前から「黒い食材」が持つ機能性について研究を行っている。坂元醸造との共同研究では、がん細胞を移植したマウスに10倍に濃縮した黒酢を混ぜたエサを16日間与えたところ、がん細胞が小さくなった。動物実験のため人にも当てはまるとはいえないが、黒酢には免疫力を高める効果があることが分かった。侯教授は「長く継続的に服用すれば、免疫機能を調整して病気の予防につながる」と説明する。

     さらに、坂元醸造と鹿児島大共同獣医学部とのマウスを使った別の共同研究では、認知症の予防効果や認知機能の改善効果が判明した。

     侯教授によると、黒糖はポリフェノールやストレス緩和作用がある神経伝達物質のGABA(ギャバ、ガンマアミノ酪酸)などの機能性成分を含む。ナスや赤キャベツといった紫色や赤色の「黒野菜」はポリフェノールの一種、アントシアニンが豊富だ。

     アントシアニンは細胞の老化を防ぐ抗酸化力が強い。また、脂質分解酵素や糖質分解酵素の働きを抑制するので体内で脂分や糖分が分解、吸収されずに排出される。継続的に摂取すれば、肥満や高血糖の予防になる。ただし、成長期の子どもや酵素の働きが低下している高齢者にとっては逆に栄養不足に陥る可能性があるので気をつけなければならない。

     薬膳の世界では、黒い食材は「腎」を養うものとされている。国際中医薬膳管理師で料理研究家の植木もも子さんによると、腎は腎臓や生殖機能、人の発育・成長と深い関わりがある。働きがしっかりしていると老化防止になり、昔から腎を養う食べ物は長寿食と言われる。しかし、植木さんは「体質は人それぞれ違い、季節やその時の自分の体の状態、環境にも左右される。万人に効くものはない」と指摘。「結局は自分の体と向き合い、バランスよく食べることが大切」と強調する。

     ●食から病気予防に

     坂元醸造は1983年から全国の大学などと研究をしているが、黒酢については、まだ不明なこともある。例えば体内の毛細血管の血流を良くする効果があるとされるが、どんな成分が作用しているかはわかっていない。さまざまな成分を含む複合物としての食品の機能性について臨床試験を行うのは容易でないからだ。「だからこそ今後も研究が進んでいくべき分野だと思っている」と坂元醸造の担当者は言う。

     黒膳研究会のメンバーで、患者の食事を研究してきた鹿児島大大学院医歯学総合研究科の乾明夫特任教授(心療内科学)は「我々が目指しているのは、明確な科学的根拠を持った薬膳。『医食同源』と言うように、薬だけに頼るのではなく食から病気の予防につながれば」と力を込める。【川畑さおり】=つづく

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