オピニオン

地震はいつ来るのか 予知に挑む 東海大学海洋研究所 所長
長尾 年恭

2012年3月1日掲出

 多くの人命を奪った東日本大震災から1年。もし、地震予知ができていれば……多くの人の頭に浮かんだことだろう。難しいと言われている地震予知を研究している静岡市清水区の東海大学海洋研究所地震予知研究センター長、長尾年恭教授を訪ねた。【毎日jp編集部 銅崎順子】

 

 ――地震予知ということですが、どのような研究をしているのでしょうか。

 長尾教授(以下、長尾) 地震予知研究センターは1995年4月に発足しました。95年というと阪神・淡路大震災が1月に発生したので、震災を受けて同センターを設置したと思われがちですが、震災の前から設置計画がありました。静岡県は東海地震が来ると言われているのに、その当時、地震の研究者は県内にいなかった。それならば地元住民のために何かしましょう、と東海大学が研究センターをスタートさせることになったのです。

 このセンターの一番ユニークなところは、地震計がないところです。地震計は、地震が来ないと動きません。地震計で地震予知はできないのです。地震予知をするためには、地震計が動く前に地下で起きていることを観測して判断することが必要で、東海大学はこれに挑戦しています。実際には、地震計がないわけではありませんが、地震予知は地震計を使う地震学者の仕事ではないというのが最大のメッセージです。

我々の研究は、地震の前に何が起きるかに着目しています。何が起きるかというと、一つは電磁気学的な異常です。昔で言えば、「ナマズが騒いだ」などという言い方がありましたが、電磁波の異常が地震の前に起きることがはっきりしてきました。また井戸や地下水に変化が見られないかということも大事です。最近の進歩は、地震学者以外の統計物理学や破壊の物理学など物理学者が参入していることです。東海大学ではこうした物理学者と地震学者との橋渡しをしています。地震予知って言うとほとんど超能力とか予言、占いと紙一重の捉え方をされます。実際、週刊誌などで取り上げられる地震予知は、占いみたいなものです。地震雲はありませんし、思い込みなのです。静岡で見た“地震雲”でアメリカの予知をしたりしますが、ほとんどは予知と言えないものです。

 割り箸が弱いところから折れるように、物が壊れるときは弱いところから壊れます。地震も同じようなものです。地面の中は不均質なので、必ず先に壊れるところがある。予知といっても例えるならがんの早期発見と似ているかもしれません。地面の中で一番初めに壊れるミシミシピキピキを察知することです。臨界現象と言いますが、ものが壊れる直前の状態を判断することが物理学の発展によってできるようになってきました。

 我々は、臨界現象の物理学と地震の前におきる電磁現象を調べています。電磁現象は、例えばラジオに雑音が入ることです。特に中波帯ですが阪神・淡路大震災の時は地震の前に、すべての放送が聞こえなかったくらい雑音が出た。そういう現象があります。電離層の異常などを使って予知情報を配信している会社もあります。一般的には予知はすごく難しいし、皆さんが考える予知研究はできていないのが実際です。我々は、破壊の物理学、ものが壊れるときは前兆がある、このセオリーに則って研究をしています。

 天気予報が進歩したのは、人工衛星による観測やシミュレーションができるようになったからです。本当に地震学が進んだのはここ20〜30年。日本でばらばらでやっていた地震観測が統一されるようになったのは阪神・淡路大震災以降です。この震災後、地震計の設置が進み台数が増えました。阪神・淡路大震災以前、観測された地震は1日20〜30回だったのが、今は1日400回くらい観測されています。非常に小さい地震も観測できるようになったので、地下のゆらぎというか、ひずみのたまり方がわかるようになった。コンピューターの進歩でこれらの情報を使い地下天気図が作れるようになりました。天気図なので必ず雨が降るとはいえませんが、この週末は大丈夫ですよという地震安心情報は出せるようになったわけです。

 地震予知機という機械はないので、地震学だけでなく測地学や地下水の情報、コンピューターシミュレーションなど複数の手法を組み合わせることで、異常を計測することが大事です。今の日本ではできていないので、東海大学ができるようにしたい。五つのうち四つ異常があれば、「8割の確率でマグニチュード○クラスの地震が来る」「地震が近い」といえる。100%とは断言できないが、科学なのでトレーニングをして計測することで精度は上がります。地震の前兆現象がわかってきていますので、情報は色々出せるのですが、発表システムがないのです。

 

 ――地下天気図で1カ月以内に来そうだとか、わかるのですか。

 長尾 臨界現象の物理学を使えば、2〜3日前とかにできるのではないかと考えています。東日本大震災の前は日本列島全体に異常があったと言えます。一つ経験ができたので、次は何とかしたいと思っています。

 

 ――「地震が来ます」と発表することは難しいのでは?

 長尾 予知を出せるのは気象庁だけですし、法的整備があるのは東海地震のみです。地下天気図などの図だけをウェブで公表することになるのでしょうが、観光地など、社会に影響を与えるものですので慎重にならざるをえません。

 今の段階では、不特定多数への発表は難しい。予知できればバラ色ということではなく、予知情報をどのように伝えるかが重要です。しかし、どのように情報を公表すればいいのか、研究されていない。予知情報をどう扱うかも研究課題です。予知情報は使い方次第でリスクを下げることができます。物流であれば、日本の飛行機は約半分が羽田と成田の両空港にある。首都直下地震の恐れがあるときは、夜間は地方空港に駐機させておくとか、港湾は横浜でなく神戸に船を回そうとか分散させることもできます。

 

 ――不特定多数に発表することが難しいのは、一般に地学や地震の知識が少ないからでしょうか。

 長尾 地学は確かに(大学入試)センター試験の受験者も少ないですしね。地学と言わず、今や地球温暖化や海洋汚染なども含めて地球科学という名前にすればよいと思っています。正しい知識を持つことは重要です。予知も大事ですが、何が正しいか科学的知識を持つことです。科学的リテラシー、メディアリテラシーが試されます。

 

 ――長尾教授は、地震に対してどんな備えをしていますか。

 長尾 強い建物に住む、水の確保、個人用の発電機、トイレ用に猫の砂の備蓄。もし、今地震が起きたらどうするかをちょっと考える。そんなところでしょうか。泥水などを飲めるようにするサバイバルストローなどは便利だと思います。食べ物は2〜3日なくても大丈夫ですが、水は大切です。トイレもそうです。近代都市では上水道と下水道がいっしょに復旧しないと大変困るわけですから。

 

 ――ところで、なぜ研究者になったのですか。

 長尾 中学生のころ、プレートテクトニクスや大陸移動が話題になり、恩師でもある上田誠也東大名誉教授の本や映画『日本沈没』(小松左京原作)で興味を持ちました。僕らの世代は『日本沈没世代』とも言うんですよ。地球はダイナミックです。大学では固体地球物理学を学びました。未来がわかるとおもしろいしチャレンジングだと思い、20年ほど前から予知に取り組んでいます。

 津波は、東北の場合は逃げる時間が最低でも20分あります。静岡から四国の場合は、揺れている最中に津波が来る可能性が高い。予知は重要だし、建物の強度も強くする必要がある。そして最後に人命を救うのは予知かもしれません。

 

東海大学海洋研究所 所長 長尾 年恭 (ながお としやす)

1955年東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。専門は地震予知、地震防災啓発活動など。日本地震学会、日本地震予知学会等に所属。著書に『地震前兆現象を科学する』(2015年:共著)等。