オピニオン

健康に老いることを目指して抗加齢ドックに携わる 医学部 准教授 / 同大付属東京病院副院長・健診センター長・消化器肝臓センター長
西崎 泰弘

2012年2月1日掲出

 健康に年を重ねることは、多くの人の関心事だ。現在の老化度を知り、今後の健康に役立てる予防医学として抗加齢医学が注目を浴びている。「抗加齢ドック」を実施している東海大学医学部付属東京病院(東京都渋谷区)副院長の西崎泰弘准教授に抗加齢、予防医学について聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局・銅崎順子】

 

 ――抗加齢医学とは、どのようなものですか。抗加齢、アンチエージングと聞くとしわ取りやコラーゲンなどを想像してしまいます。

 西崎副院長(以下、西崎) 年齢を重ねるとしわができる、髪が薄くなるなど様々な「負の変化」が身体に出てきます。その増えてゆく不利な変化を、何らかの医学的な介入や健康増進的な指導で回避したり軽減するのが抗加齢医学です。しわ取りや抜け毛対策などはひとつの分野ではありますが、見た目が若くても血管や内臓がボロボロだと意味がありません。食事や運動に関することを中心に生活指導をすることで、血管や内臓の老化を遅らせることができます。抗加齢医学は健康寿命の延伸、健康で長生きするためにどうすれば良いかを追求する医学分野なのです。

 抗加齢医学は「究極の予防医学」とも云われています。予防医学には1次、2次、3次という段階があって、現在広く行われている健康診断、メタボ健診やがん検診などは、「早期発見、早期治療」を目指す2次予防です。これに対し1次予防は、病気自体を遠ざけようというもので、健康増進が当てはまります。年を取ることは、病気が発生しやすくなる最大要因ですが、アンチエージングはできるだけ良くない要因を除いていこうというものなので、1次予防に含まれます。一方アンチエージングは、病気へのリスクを軽くするものであっても、不老不死を目指す学問ではありません。人が老いてはいくのは当然と受け止めつつ、生活の改善によって病を予防し、健康で長生きすることを目指す学問なのです。

 アンチエージングの中で、肌や髪など「見た目の老化対策」はわかりやすい人気のある分野です。それはそれで大切で、活力を持って長生きするためには「自分の好きな自分」であることが必要ですが、見た目ばかりが先行してはいけません。我々内科医が考えるアンチエージングは、命に直結する疾患を起こさせないことが重要と考え、健康寿命の延伸のための抗加齢ドックを開設しました。

 

 ――抗加齢医学は、体の内側のアンチエージングなのですね。実施している抗加齢ドックとは、どのようなものですか。人間ドックとの違いは?

 西崎 通常の人間ドックは、がんや生活習慣病などが今あるかどうかチェックしますが、抗加齢ドックは、それらが発生する傾向をとらえますから、人間ドックよりも感度の高い精密な検査や一般には行わない検査をいろいろ実施します。例えば、「人は血管とともに老いる」と云われますが、動脈硬化はさまざまな病気の原因になります。日本人の3人に1人が心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞など血管の病気で亡くなりますが、それは動脈硬化が原因です。動脈硬化が進んでも自覚症状はありません。抗加齢ドックでは血管の硬さ、詰まり具合など詳しく検査し、現在の状況や今後の傾向を読み取ります。また、酸化や抗酸化をチェックします。これらのバランスが崩れても何も感じませんが、抗酸化力が落ちた状態が長く続くと例えば臓器が痛んだり、早く動脈硬化が進んだり、発がんリスクが高くなります。通常のメタボ健診などに入らないものをさまざまと調べています。このほかホルモンバランスや、免疫バランスも調べます。兆候が出る前の「負の変化」を見つけ、問題を最小限に留めるための生活指導をします。

 抗加齢なので、加齢がもたらすこれら負の変化に抗うための指導を最も重視しています。医師面談は30分ですが、各個人のファイルを作り、運動や食事、サプリメントの専門家がアドバイスを行います。年齢を経ることで、個人差はどんどん開いてゆきます。すなわち、65歳の人には65年間の人生が体のいろいろなところに刻まれている訳です。その人その人の問題点を伺いながら指導するのが、このドックの使命であり最大の特徴なのです。

 

 ――成果はいかがですか。

 西崎 抗加齢ドックを受ける人は健康意識が高い人ばかりで、リピート率も高めです。この方々の結果を解析して学会や論文で発表しています。動脈硬化の数値は、一般的に年々悪くなるものですが、抗加齢ドック受診者では変わらないか良くなっています。さらに、善玉コレステロールが増たり、加齢によって低下する活力ホルモンのDHEA(デヒドロエピアンドロステロン)が増える方が多く居られ、着実に成果が出ています。

 健康を保持するためには生活習慣が大切なのですが、生活習慣とは運動、食事、休養、喫煙、飲酒を指します。なかでも重視されるのが食事と運動ですが、抗加齢ドック受診者はすでに食事に気遣っている人が多いので、運動の大切さに力点を置いています。抗加齢ドックを受ける人も実は隠れ肥満の方が多いのです。隠れ肥満とは、筋肉量が少なく内臓脂肪が多い状態ですが、見た目は太って居らず肥満度の指標であるBMIも基準範囲内です。抗加齢ドックを受けている方の男性の5割、女性の7割弱がこの隠れ肥満なのです。

 隠れ肥満は私たちの研究テーマの一つです。肥満、隠れ肥満、正常、の三つのグループに分けてデータを比べると、隠れ肥満では肥満と差がないくらい生活習慣病のリスクが高いのです。隠れ肥満は年を取るとなりやすい「筋肉過小状態」なので、加齢がもたらす不利な状態と言えます。つまり我々は動物ゆえ動き回っていないと健康が保持できないようにできており、努めて動かないといけないのです。なかでも筋肉を増やす、あるいは減らさないための筋肉トレーニングは大変有益です。運動については、腰や膝の状態、血圧などをみながら指導しています。

一度大きな病気をすると治ったとしても元のレベルにはなかなか戻せません。特に中年以降では、運動制限や薬を飲み続ける必要性も発生しますので、予防がとても大事なのです。予防の基本とは、自分の体をチェックして現状を知ることです。抗加齢ドックはある程度の費用はかかりますが、病気になったらこの額ではすみません。自分の体を「企画・運営」できるのは自分しかいないのです。

 

 ――ところで、医師を目指した理由は? 抗加齢医学に携わるきっかけも教えてください。

 西崎 父は医者でしたが研究者でした。自分の研究の話をよくしていたので、やりがいがありそうだなと思って医学部に進みました。医師になってすぐ大学院に進み、3年間アメリカに留学して研究がとても好きになりました。最初の頃は7対3で研究が多かったですね。帰国して、東海大学の臨床現場に立って臨床医療を極めたいという気持ちが強くなりました。

 専門は消化器肝臓内科ですが、死に至るがんの約55%が消化器に発生しますので、これまで死に多く立ち会ってきました。その中で「もうちょっと前の段階で助けられなかったか?」と思うようになりました。国策として予防医学を重視する機運があり、予防に興味を持つようになったわけです。研究は今でも好きですが、疫学的な解析が主な作業となり、また研究と臨床の割合が逆転して、今は臨床+病院業務8、研究+教育業務2くらいの日常です。

 

 ――医師不足が言われていますが、医師を目指す若者にアドバイスをお願いします。

 西崎 医学の世界は日進月歩なので、ハードな勉強をしないといけないし体力的にもきついですが、一生を貫く仕事として非常にやりがいがあります。医師を志した時の熱き思いや、医学部に入ったときの新鮮な気持ちをずっと忘れないで頑張ってほしいですね。

 

医学部 准教授 / 同大付属東京病院副院長・健診センター長・消化器肝臓センター長 西崎 泰弘 (にしざき やすひろ)

1986年東海大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部大学院、UCLAリサーチフェローを経て、97年東海大学医学部講師、2004年より現職。専門は消化器肝臓病学、予防医学(抗加齢医学、総合健診、産業保健)。著書・監修本に『検査のしくみ 検査値の読み方』(日本実業出版社)『専門医がやさしく教える老化判定&アンチエイジング』(PHP研究所)など。