オピニオン

建築学で宇宙に迫る「はやぶさ」チームに参加 工学部建築学科 准教授
十亀 昭人

2011年11月1日掲出

 昨年6月、人類で初めて小惑星へ着陸しサンプルを持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」。交信途絶を乗り越え、60億キロの旅を終え、多大なる成果と共に地球に帰還したことは、日本の科学技術力の底力を示し、日本人に感動と勇気を与えてくれた。プロジェクトのサポートには東海大学工学部建築学科の十亀(そがめ)研究室も参加していた。思いがけない巡り合わせから偉業の一端を担うことになった十亀昭人准教授に、「はやぶさ」で行った研究開発サポートを中心に聞いた。【毎日新聞社デジタルメディア局 柴沼均】

 

 

 ――東海大学では十亀研究室が中心となり、「はやぶさ」プロジェクトのサポートチームに参画されましたが、その経緯を教えてください。

 十亀准教授(以下、十亀) 東海大学に勤める前の勤務先での宇宙にかかわる仕事で上司だった齋藤潤さん(現・東海大学工学部研究員)が、「はやぶさ」プロジェクトで、マルチバンド分光カメラチーム(以下、AMICA)のリーダーを務めていました。当時チームでは「はやぶさ」が撮影するカメラの試験を行わなければならなかったのですが、スペースの限られた「はやぶさ」下部の隙間(すきま)に納まる試験機器の製作が必要となっていました。その製作をどうしようかというときに私が呼びだされ、「君にしかできない仕事がある」と言われました。今まで私の手がけた研究と多少違いましたが、宇宙開発の役に立ちたいという思いで、試験機器を作る段階から関わることになりました。

 

はやぶさと小型積分球 はやぶさに取り付けた後のAMICAは、中央に見える黒い傘のような部分のサンプラーホーンに干渉するため、どの程度の直径のものが適切であるかが直前まで読めず4種類の直径の小型積分球を作って準備。この写真は当日のセッティング(はやぶさのセッティングは当日の状況により変わります)の中で最も大きな内径25cmのもの を選び撮像している風景です。

 

 ――AMICAのチームとはどんな作業をするのですか。

 十亀 AMICAは、「はやぶさ」に取りつけられた三つのカメラのうちの一つで、科学観測を行うことのできる理学カメラです。通常、カメラで写真を撮ると、真っ白なものを撮ったとしても隅は暗くなり陰影がついてしまいます。その暗くなりかたがカメラによって癖がありそれぞれ違うので、撮影した画像の陰影がカメラの影響なのか、それとも本当に暗いのかなどを判断するために、あらかじめどのくらい減光するかを調べておく必要があります。カメラの癖を調整することで、正確なデータが得られるからです。AMICAの単体試験は行われていましたが、科学的な観測用としてはまだ充分なデータではなかったため、実際に「はやぶさ」に取り付けた状態で再度調べる必要がありました。そこで「はやぶさ」の下部の隙間に納まる30センチ(内径25cm)ほどの小型積分球という機器を作り、周辺の減光度合いを調べました。小惑星に到着したときに撮影されたいくつかの詳細なイトカワの画像は、このAMICAで撮られたもので、私たちが行った試験データが生かされています。

 

フラットフィールドデータ この小型積分球で得られたフラットフィールドのデータです。AMICAの視野である2.85以内において、照度分布が1%以内に収まっている、良好なデータが得られています。
単体試験と本試験の比較 単体試験(カメラをはやぶさに取り付ける前の試験)と、本試験(ここで製作した小型積分球を用いた試験)の比較です。これを見ると、左の単体試験時のラインプロファイルよりも更に良好なデータ(上下の山谷が少なくまっすぐに近い程よい)が、右側の本試験で得られているのが分かります。これまでの試験結果を超える最も良いデータを本試験で導いています。

 

 ――小型積分球の製作にあたられたわけですね。

 十亀 設計、製作から、実験まで行いました。これまで作ったことがなく試行錯誤のうえ、打ち上げまでわずか数カ月しかないという厳しい条件の中、自らの足で材料集めから始めることになりました。製作に用いるための材料を買いに行っても、量産された既製品なのに精度が個々に違うことが分かり、より良いものを探し回るという苦労もありましたが、なんとか完成にこぎつけました。

 最初は神奈川県相模原市の宇宙科学研究所でこの小型積分球の有効性を確認し、それから実際に「はやぶさ」に設置して撮像試験を行いました。その後「はやぶさ」本体の移動に伴って、打ち上げが行われる鹿児島県の内之浦に試験機器も移動して、打ち上げ直前まで試験を繰り返しました。チームメンバーからは「はやぶさ最後の視力検査」などといわれました。

 

 ――AMICAは理学カメラということですが、チームで工学系の専門家はほかにいたのですか。

 十亀 私は工学系のなかでも建築学を専門とするものであり、長年、宇宙建築学に関する研究を行って参りましたが、そのような人はもちろんいませんでした。リーダーの齋藤さんが、いろいろな分野で仕事ができる方を呼んでくる方針だったため、バラエティーに富んだメンバーがそろっていました。

 

 ――打ち上げもご覧になられたのですか。

 十亀 はい。打ち上げ自体を見るのが初めてでした。「はやぶさ」がだんだん上がっていって空へ消えていく、それをみたときには感動しました。途中、通信が途絶したときにはかなり心配したので、再び通信が回復したときの喜びはひとしおでした。それまでは研究室での研究だけでしたが、実際のミッションに携わる喜びも初めて知りました。

 

 ――学生時代から宇宙の研究をされていたのですか。

 十亀 はい。専攻は建築学科で宇宙は対象としてはかけ離れていたため、周りから何をやっているのかと言われたこともありましたが、気にせずに研究を続けました。100年、200年とずっと将来のことを考えると、人類が地球の薄皮の表面だけにとどまるというのは不自然です。そうであれば、今から基礎研究に着手し、微力ながら寄与できればと思い、宇宙建築学の研究者を目指しました。これまでに将来の宇宙開発に応用できるように考案したいくつかの宇宙展開構造物に関する折り畳みパターンの研究があります。

 

ソガメ折り

 ――十亀准教授の考案された折り畳みパターン、「ソガメ折り」とはどのようなものですか。

 十亀 小さく折りたたんだ構造物を大きく開いて展開する技術で、3次元的に展開する折り方です。宇宙へ物を運ぶ時、輸送機などの中は限られた空間です。小さく折りたたんで宇宙で広げたほうが効率的です。国際宇宙ステーションなどの構造物はスペースデブリ(宇宙のごみ)にあたって壊れる危険性があります。デブリは、1センチより小さいと現在の国際宇宙ステーションの外壁で防御可能です。また、10センチより大きいものは事前に地上から探知できるため、よけることができます。ただその中間、1〜10センチのものがぶつかれば穴が開く危険性があります。例えば、こうした時に、その国際宇宙ステーション自体を覆うデブリ防護カバーとして「ソガメ折り」を展開して外周にシールドを作っておけば、万が一ぶつかっても被害を小さくすることができます。

ダストシールド:ISSにソガメ折りダストシールドを設置する概念案

 私の研究は宇宙展開構造物がメインテーマですが、研究室の学生は同じ宇宙建築をキーワードにしてさまざまな研究を行っています。宇宙空間における閉ざされた室内でのストレスがどう変化するか、無重力環境で避難するときはどうすればいいかなど、宇宙に人類が進出するときの基礎的な研究を行っています。地上の建築学で考えられる課題は宇宙でも同じではありますが、未開拓です。一つ一つ進めなければならず、考えなければならない課題は山ほどあります。基礎研究を重ねて、それらをもとに月面基地の建設へ向けた研究開発を行っていきたいと考えています。

 

 ――各国でもそういう研究は行われていますか。

 十亀 さまざまな研究がなされていますが、展開構造物に関しては折り紙文化がある日本が先行しています。

 

 ――宇宙や建築学に関心のある学生や若い研究者にアドバイスを。

 十亀 研究は何にしても好きじゃないと続けられません。研究というものは人がやっていないことをやることが大前提ですが、特に境界領域の研究が重要だと考えます。私は建築学をやっていて、そして宇宙にも興味をもっています。宇宙と建築の境界領域を研究することで、今までない独創性のあることができるのです。うちの学科は本当に研究が好きで自発的にやっている学生が多く、その点はありがたい。独創性のある研究は初め周囲から認められないこともあると思いますが、そこで折れずに研究を深めてほしいです。

 

工学部建築学科 准教授 十亀 昭人 (そがめ あきと)

1970年愛媛県生まれ。東海大学工学部建築学科卒業後、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。2010年に東海大学「はやぶさ」プロジェクトサポートチームの一員として文部科学大臣表彰、宇宙開発担当大臣表彰を受ける。日本航空宇宙学会、日本建築学会などに所属。専門は宇宙建築学。