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デーリー通信

(20)専用競技場に奨学金 急成長のeスポーツ

「ハースストーン」の「HCT夏季選手権」で、eスポーツの対戦(右奥)を観戦する人々。大型画面にゲームの模様が映され、舞台左では解説者が実況している=米ロサンゼルス近郊バーバンクで2018年7月1日、長野宏美撮影

 「ゲームばかりしないで勉強しなさい」という言葉は死語になるだろうか?

 世界で今、eスポーツが急成長している。「eスポーツ」とは「エレクトリック・スポーツ」のことだ。コンピューターゲームをスポーツとして捉え、その腕を争う対戦型競技だ。今年のジャカルタ・アジア大会(8月18日開幕)で公開競技に初めて選ばれ、2022年の中国・杭州大会では正式種目になる。24年のパリ五輪で採用を検討する動きもあり、新たなスポーツとして注目されている。米国では専用競技場が次々に建設され、全米eスポーツ連盟によると、奨学金を出す大学は60校を超える。

カリフォルニア大も奨学金で優秀なゲーマー勧誘

 コンピューターサイエンスで有名なカリフォルニア大学アーバイン校は16年、公立校として初めてeスポーツ奨励プログラムを始め、優秀な学生に奨学金を出している。昨年度は男子学生14人が年間1000~6000ドル(11万~66万円)の奨学金を得ており、新年度は受給者を22人に増やす予定だという(大学サイトで詳細を見ることができる)。

カリフォルニア大学アーバイン校のeスポーツ専用アリーナでゲームをして遊ぶ一般の学生=米カリフォルニア州アーバインで2018年7月20日、ルーベン・モナストラ撮影

 16年9月に開設されたeスポーツ専用アリーナ(325平方メートル)には、ゲーム用の高性能パソコン約70台が並ぶ。訪れた日は夏休みだったため、奨学金を受けて大学対抗戦に出場するチームの学生はいなかったが、一般学生にも開放されている。1日6~7時間プレーする人も珍しくないため、長時間座っても腰痛にならないよう硬めのイスが用意されている。

 チームの体制は一般のスポーツと変わらない。コーチやアシスタントコーチ、ゲームの分析をするアナリスト、学生の活動全般を支えるコーディネーターを専属で抱える他、学内の心理学者やトレーナーの支援も受けている。

 なぜゲームに心理学者やトレーナーが必要なのか。それは、長時間のプレーには集中力や精神力、素早く機械を操作する反応速度や体力が求められるからだという。練習メニューには筋トレやランニングも含まれている。

カリフォルニア大学アーバイン校でeスポーツのコーディネーターを務めるヒラリー・ファンさん=米カリフォルニア州アーバインで2018年7月20日、ルーベン・モナストラ撮影

 奨学金を得るにはゲームの能力だけでなく、学業でも優秀な成績を保つ必要がある。コーディネーターのヒラリー・ファンさん(22)は「精神的に追い込まれていないか、勉強がおろそかになっていないか。そういったことについて、日々接しながら学生を支援するのが私たちの役目です」と語る。ファンさんは犯罪学と心理学を専攻し、同校を今春卒業したばかり。ゲームが趣味で、インターンを経てコーディネーターになった。ゲーマーは男子が多いため、女子学生向けのイベント企画にも携わっている。

 「eスポーツの選手はコンピューターや数学が得意な人が多い」とファンさんは言う。将来はエンジニアやコンピューターサイエンスの分野で活躍が期待できる人材だという。奨励プログラムではゲーム関連の研究もある。奨学金を出すことで優秀な人材を集めるとともに、大学の特徴をアピールする狙いもある。

奨学金は企業の寄付で賄う

 奨学金の原資は、ゲーム機メーカーやゲーム開発会社の寄付だ。約70台のパソコンも無償で提供されている。企業側には、優秀なゲーマーを育成して業界を活性化させたいという狙いがあるようだ。

 急成長するeスポーツに、野球やアメリカンフットボールなど大学対抗戦を運営する全米大学体育協会(NCAA)も関心を示しているという。だが、NCAAでは「学生はアマチュアでなければならない」など細かく規定がある。「eスポーツでは既に賞金を稼いでいる学生もいるのでNCAAへの加入は難しい。私たちはあまりメリットを感じていない」(ファンさん)

カリフォルニア大学アーバイン校で「ゲームクラブ」の勧誘をするDaisuke Otagiriさん(左)とアンジー・バスさん=米カリフォルニア州アーバインで2018年7月20日、ルーベン・モナストラ撮影

 この日は、新入生を対象にした「ゲームクラブ」への勧誘も行われていた。日本の大学で言うと、「同好会」に近い。現在、約1000人のメンバーがおり、同校最大のクラブ活動だという。海外ではオンラインで不特定の第三者と対戦して腕を上げる楽しみ方が定着している。同校の15年の調査では72%の学部生が「自分はゲーマーだ」と答えたほどゲームの人気は高い。コンピューターサイエンスを学ぶ日系人のダイスケ・オタギリさん(19)が勧誘をしていた。オタギリさんは「スポーツだと筋力を求められるが、ゲームは誰でもできる。知らない人ともゲームを通じて仲良くなれるので社交性も身につくし、何より楽しい」と魅力を語った。

専用競技場でeスポーツの大会

 カリフォルニア大を訪れる2週間ほど前の7月初旬には、ロサンゼルス近郊バーバンクで「eスポーツ」の大会が開かれていた。ライブコンサートのような薄暗い会場。光に照らされた舞台で、テーブルを挟んで向き合った2選手がゲームの画面を見つめている。その画面は会場に大写しにされ、観客が声援を送っていた。

 「eスポーツ」には格闘ゲームや乗り物レースなど、さまざまな種類があるが、今回観戦したのは今年のアジア大会でも採用されたカードゲーム「ハースストーン」の「HCT夏季選手権」だ。ハースストーンは米国の大手ゲーム開発会社「ブリザード・エンターテインメント」が14年に発売し、パソコンやスマートフォンでプレーする。同社は17年5月に全世界でプレーする人が7000万人を超えたと発表した。単純に比較はできないが、国際オリンピック委員会(IOC)によると、ゴルフ人口は全世界で6000万人以上だというので、その人気ぶりがわかる。

 大会は年間を通して世界各地で行われており、賞金や大会出場に必要なポイントを獲得できる。夏季選手権には南北アメリカ、欧州、アジア太平洋、中国の各地域を勝ち抜いた16人が出場した。賞金総額は25万ドル(約2750万円)で優勝賞金は5万ドル(約550万円)。第一関門であるグループステージで敗れた8人も7500ドル(約82万円)を手にした。今大会の上位4人は、16人で争う賞金総額100万ドル(約1億1000万円)の世界選手権の出場権を得た。

 会場は450人を収容する「ブリザード・アリーナ」で、昨年10月にブリザード社がeスポーツ専用競技場として開設した。以前はNBCテレビの人気トーク番組の公開収録に使われていたという。施設の面積は東京ドームのグラウンドの半分ほどになる約6900平方メートル。全米最大規模のeスポーツ専用施設で、グッズを売る店や練習場、インタビュールームなどが備わっている。

「ハースストーン」の「HCT夏季選手権」で、スティックバルーンを使って応援する人々=米ロサンゼルス近郊バーバンクで2018年7月1日、長野宏美撮影

 試合会場に入ると、音を鳴らして場を盛り上げる細長い風船「スティックバルーン」や応援メッセージを書いた紙を持った観客がゲームの行方を見つめていた。選手が戦う舞台の上には解説者がいて実況している。試合はインターネットを通じてライブ中継され、日本でも観戦会が開かれた。

 ハースストーンは好きなヒーローのキャラクターを選んで互いに相手を攻撃し、先に倒した方が勝つ。攻撃は主に「ミニオン」と呼ばれる怪獣を使うが、いつどのミニオンを使って攻撃するかなど、戦略が勝敗の鍵を握る。カードゲームなので、格闘ゲームなどに比べると展開がゆっくりで、観客も静かに見守っていることが多い。それでも、緊迫した攻防の末に勝者が決まると、静寂を破るように「ウォー」という歓声や拍手が起こっていた。スマホの端末でゲームをしながら観戦する人もいたし、客席には「対戦コーナー」が設けられ、ゲーム開発者に挑戦もできる。

「ハースストーン」の「HCT夏季選手権」に出場した大村修平さん=米ロサンゼルス近郊バーバンクで2018年7月1日、長野宏美撮影

日本から2選手が出場

 日本からは2選手が出場した。「Tansoku」のゲーム名で活動する神奈川県平塚市の大村修平選手(25)と横浜出身で地元のアマチュアチームでプレーする男性のGlory選手(23)だ。ともにグループステージは1勝2敗で、8強入りは逃したが、「こんなに大きな舞台は初めてなので緊張したが、良い経験になった」(大村選手)と手応えを感じていた(大村選手の試合の実況中継動画はこちら>)。

 大村選手は子どもの時からゲームが好きで、小学6年からオンラインゲームをするようになった。ハースストーンを始めたのは14年だという。現在はハースストーンの競技大会で得る賞金と、動画投稿サイト「ユーチューブ」でゲーム解説などの投稿をして広告収入を得るユーチューバーとして生計を立てている。eスポーツの魅力を聞くと、「誰でも競技的なプレーができて、みんなにチャンスがあるところ。サッカーなどは子どもの頃から何年もプレーしてプロになるが、ゲームは大人になって始めてもプロになれる」と語った。五輪種目として検討の動きがあることについては「まさかゲームでオリンピックとは思わなかったが、ゲームが世間から認められるのはうれしい」と話した。大会前は仲間3人で毎日集まって1日3時間練習し、「ミスはするものなので、それを引きずらないで頑張って」と激励されたという。「メンタルをもっと強くしないといけないと思う。家で普段やっているような感じでプレーできるようになりたい」と語った。

22年の視聴者数はNFLと同規模の3億人弱に

 ブリザード社のeスポーツ担当、チェ・チャウさん(46)は「昨年の夏季大会には日本の高校の数学教師が出場した。ハースストーンは、時間やエネルギーをかけてスキルを磨けば誰にでも大会出場のチャンスがある」と指摘。さらに、「eスポーツは有望なスポーツだ。テニスをする人が観戦を楽しむのと同じように、ゲームをするのが好きな人はゲームを観戦するのも好きだ。スポーツと同じように観戦でも人々を引きつけると思う」と語る。アジア大会で採用されたことについては「公式スポーツ大会で採用されたことで認知度が高まるだろう」と期待した。

 観客には20代や30代の若い世代が目立ち、子ども連れの姿もあった。夫婦で観戦に来たマーケティングの仕事をするエマ・ザーガーバシさん(30)は「会場に来ると一体感があるので楽しいし、観戦を通して自分のゲーム技術の向上にもつながる」と語った。同じく観戦に来た弁護士のディランさん(27)は「ハースストーンは戦略や知性、メンタルが重要な競技だ。アイスホッケーなど他のスポーツ観戦と同じようにゲーム観戦も楽しい」と話した。

 米ウォルト・ディズニーは今月、ブリザード社の別のeスポーツ「オーバーウォッチリーグ」の放映権を取得した。傘下のスポーツ専門チャンネルESPNなどで初めてプライムタイムに試合が放映されることになった。ニューヨークの多目的ホール「バークレイズ・センター」で7月27、28日にある同リーグの決勝は2万席以上が売り切れたという。

 米金融大手ゴールドマン・サックスが6月に発表した調査では、eスポーツ全体の大会視聴者は22年までに世界で2億7600万人に達する見込みだ。米プロフットボールのNFLと同規模だという。eスポーツの市場規模は同年までに30億ドル(約3300億円)になり、昨年の6億5500万ドル(約720億円)から急増する可能性があるとしている。

 観戦に行く前は「ゲームがなぜスポーツなのか?」と思ったが、選手が試合を目指して練習し、観客が声援を送る姿などはスポーツに重なる。スポーツとして定着させ、ビジネスチャンスを広げようという動きが今後も加速しそうだ。【長野宏美】

長野宏美

2003年入社。水戸支局、社会部、外信部を経て2015年4月から現職。社会部時代は警察庁や裁判員裁判などを担当。2008年の北京五輪を現地で取材した。元プロテニスプレーヤーで、1995年全日本選手権シングルス3位、ダブルス準優勝。ウィンブルドンなど4大大会にも出場した。

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