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特集ワイド

水道民営化は必要か 料金高騰、水質悪化…海外で失敗例続出 運営業者監視にも限界 安倍政権は推進、識者ら懸念

水道事業のコンセッション方式導入が検討されている浜松市の浄水場=同市北区で2017年9月6日、奥山智己撮影

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 政府はなぜ、水道事業の民営化を後押しするのか。22日に閉会した国会で水道法改正案は成立せず、継続審議になったが、秋の臨時国会で再び審議される見通しだ。実は、民営化は海外で失敗例が相次いでいる。本当に必要なのか検証した。【井田純】

 水道は日々の暮らしに必要不可欠なインフラだ。まずは改正案について整理したい。

 水道事業は自治体や広域事務組合といった公的機関が担っているが、水需要の減少、施設の老朽化など課題は山積する。そこで、水道の基盤を強化するため、より多くの市町村による広域連携を図る仕組みが改正案に盛り込まれている。

 これだけなら誰もが賛成しそうだが、論議を呼んでいるのは「官民連携の推進」を目的にした条文だ。水道施設の所有権を公的機関に残したまま、運営権を民間事業者に売却できる「コンセッション方式」導入を促している。コンセッションは「譲歩」「授与された権利」などを意味し、転じて、国などが森林や鉱山の所有権を持ったまま、伐採、採掘の権利を民間に売却する仕組みを指す。

 厚生労働省水道課の説明はこうだ。「水道事業経営は全国的に厳しいが、一方で水道管などの施設更新も必要。コンセッション方式は、全ての自治体に求めるわけでなく、民間活力導入で効果が出そうなところに促す内容です」

 これに対し、海外の水道民営化事例を数多く調査してきたNPO法人「アジア太平洋資料センター」(PARC)共同代表の内田聖子さんは警鐘を鳴らす。「施設老朽化などの課題は厚労省の言う通りです。しかし、改正案は料金値上げをどうチェックするか、議会がどう関与するかなどの重要な点を全て自治体に丸投げしています」

 水道民営化をめぐる最も悲惨な事例として知られるのが南米ボリビアだ。世界銀行が同国への融資条件として、第3の都市コチャバンバの水道民営化を要求。1999年に米国企業に事業が売却されると、水道料金は倍以上に跳ね上がった。市民が激しく抗議し、軍隊が出動、200人近い死傷者を出した。結局、米企業は撤退し、公営に戻った。

 アジアでは90年代以降、マニラ、ジャカルタなどで水道が民営化されたが、料金引き上げや水質の問題が発生。住民が再公営化を求める運動を起こし、裁判などを通じた闘いは今も続いている。内田さんは「一度民営化されると、元に戻すのはきわめて難しく、時間がかかります」と指摘する。

 「日本の水道民営化政策は『周回遅れのトップランナー』とでも言うべき内容です。官民挙げてとんちんかんなお祭り騒ぎを繰り広げている」。痛烈に批判するのは、拓殖大教授(森林政策)の関良基さん。2015年刊行の共著「社会的共通資本としての水」で「水道民営化の悪夢」を論じている。

 関さんの分析では、先に紹介した途上国だけでなく、欧米でも再公営化の流れは顕著だ。「84年に民営化されたパリでは、翌年から約25年間のインフレ率が約70%なのに水道料金は265%アップ。10年に再公営化されました」。住民投票の末、13年までに再公営化されたベルリンでは、事業会社から買い戻すために12億ユーロ(1500億円)以上を要した。80年代にサッチャー政権下で世界に先駆け、国営だった水道事業を民営化した英国でも、各種世論調査では6~7割の市民が再国営化を望んでいるという。英国に本部を置く調査機関の15年の報告によると、水道再公営化は00~15年の間に世界37カ国の235カ所にのぼる。

マニラでは水道事業の民営化後、水道料金が引き上げられたため、井戸で水をくむ子どもたちの行列ができた=2003年8月、井田純撮影

 途上国、先進国の双方でこうした事例が目立つのはなぜか。関さんは、電気などと異なる水道インフラゆえの特性を指摘する。「電気は一つの送電網を複数の電力会社が利用できます。一方、水道管は水を流しすぎると破裂する恐れがあり、必然的に1社が独占する形にならざるを得ない」。だから、料金やサービスに関する競争原理が働かず、民営化のメリットはないというのだ。

 では、国や自治体が運営権を持つ業者への監視を強化すればいいのでは? この問いに、関さんは英国の「失敗例」をもとに説明する。水道民営化後の公共性を担保するために英国では、水質監視、料金監視、住民からの苦情受け付け--の3機関が設置された。「ところが、運営業者は帳簿上の赤字を膨らませて収益はタックスヘイブン(租税回避地)に隠しました。水道管更新などの設備投資を逃れたのです」。結果、水道料金は3倍に高騰、水道管の老朽化による漏水も増大したという。

 関さんは言う。「利潤を追求するのが民間企業の論理です。独占で競争がないので、企業はもうけを膨らませるため帳簿をごまかし、役所はそれを見破ろうとする。双方の側にそのコストがかかり、最終的なツケは納税者に回ってくる。だったら、最初から水道事業でもうけようと考えない自治体がそのまま事業を続ける方がいい」

 水道事業の民営化は、12年12月に民主党(当時)から政権を奪取した安倍晋三政権下で政策課題として浮上した。

 13年4月17日、安倍首相が議長を務める「産業競争力会議」で配布された資料に「上下水道について(中略)コンセッションに係る制度運用体制を構築」の文言がある。この資料をまとめたのは、同会議民間議員の竹中平蔵氏。小泉純一郎政権で経済財政担当相、総務相などを歴任、現在はパソナグループ取締役会長を務めている。

 この2日後、同会議にも出席した麻生太郎・副総理兼財務相は米シンクタンク「戦略国際問題研究所」(CSIS)で講演し、質疑応答で水道事業を「すべて民営化します」と大見えを切った。水道法改正案は22日閉会の国会で継続審議になったが、成立した改正PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)では、水道事業にコンセッション方式を導入する自治体に、地方債の利息に関する特例措置を設けるなど「民営化後押し」の方向があらわになっている。

 前出の関さんは、学校法人・加計学園問題などを引き合いに、規制緩和に代表される安倍政権の新自由主義的政策に疑問を呈している。「規制緩和で政権に近い人たちが利権を得るとすれば、インドネシア、フィリピン型のクローニー(縁故)資本主義と同じです」。かつての東南アジアの強権的指導者が、自分の取り巻きや政権を支える外国企業に国の財産や公営事業を渡していく構造だ。「フィリピンの森林はコンセッションで荒廃してしまいました。日本の水道にも同様の危惧があります」

 では、水道事業の理想的なあり方は? 関さんはこう話す。「再公営化後のパリでは、議員のほか環境NPO、消費者、水道局の労働者、水道に関わる業者などそれぞれの代表が水道局理事会のメンバーとして運営にあたる仕組みができて、料金も下がりました。日本も、これまでのような『官営』でなく、社会的共通資本という意味の『公営』の水道を考えるべきではないでしょうか」

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