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「洪水 危険度分布」生かせず 昨年の九州北部豪雨前日公開

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土砂や石で埋め尽くされたままの乙石川沿い。1階部分が壊れた家が無残な姿を残していた=福岡県朝倉市杷木松末で7月12日、中村敦茂撮影 拡大
土砂や石で埋め尽くされたままの乙石川沿い。1階部分が壊れた家が無残な姿を残していた=福岡県朝倉市杷木松末で7月12日、中村敦茂撮影
九州北部豪雨当日の2017年7月5日午後3時の福岡県朝倉市付近の洪水警報の危険度分布。中小河川の流れに沿って危険度が色分けで示されている=気象庁提供 拡大
九州北部豪雨当日の2017年7月5日午後3時の福岡県朝倉市付近の洪水警報の危険度分布。中小河川の流れに沿って危険度が色分けで示されている=気象庁提供

 中小河川の洪水の危険度が随時公開される気象庁の「洪水警報の危険度分布」が、昨年7月の九州北部豪雨で、自治体にうまく活用されなかった。公開から1年。気象庁は西日本豪雨での活用状況も調査し、検証を進める。

 ●元凶は小さな川

 福岡、大分両県で死者40人(関連死1人を含む)、行方不明者2人を出した九州北部豪雨。発生から1年が経過した今も、被災地には豪雨の爪痕が生々しく、あの日のままの姿を残す集落もある。

 辺りは一面の土砂や石に埋もれ、元の道路がどこを通っていたかさえ分からない。犠牲者19人が集中した福岡県朝倉市の松末(ますえ)地区。乙石川に沿ってさかのぼると、被災から1年以上がたったとは思えない光景が広がる。

 乙石川の川幅はせいぜい4、5メートルほどだが、土砂はその何倍もの範囲にあふれて家々を押し流した。川沿いの集落は、今もその土砂に埋もれて生活再建のめどは立たず、居住が制限される長期避難世帯指定の動きが進む。避難先から片付けに戻っていた農林業、井手耕三さん(85)は「こんなに何もかも全部のみ込む災害は想像していなかった。農地も土砂の下。もう10年はだめでしょう」。古里の小さな川がふるった猛威に肩を落とした。

 ●避難の目安表示

 豪雨当日の昨年7月5日は、福岡県の南部と大分県の一部で記録的な大雨が降り、朝倉市の24時間解析雨量は多いところで約1000ミリに達した。無数の土砂崩れにより中小河川は流木を含んだ荒れ狂う濁流と化し、川沿いに大きな被害をもたらした。

 その前日の4日に運用が始まった洪水警報の危険度分布は、そんな中小河川の氾濫に備えるための情報だった。降雨量などから3時間先までの河川の危険度を判定し、濃い紫(極めて危険)▽薄い紫(非常に危険)▽赤(警戒)▽黄色(注意)▽水色(今後の情報等に留意)--の5段階に色分けして地図上の河川を表示。薄い紫は避難開始の目安と位置付けている。10分ごとのリアルタイムでインターネットで公開され、誰でも見ることができる。

 福岡管区気象台は、自治体担当者らとの会議などを通じて事前に運用開始を伝えていた。しかし、同気象台が昨年9、10月、北部豪雨で特別警報が出た福岡、大分両県の38自治体(市町村)を調査したところ、危険度分布を「確認した」自治体は23にとどまり、避難勧告や指示を出す判断に活用した自治体がなかったことが判明した。

 被害が大きく犠牲者が出た福岡県朝倉市、同県東峰村、大分県日田市の3市村でも「確認した」のは日田市のみ。朝倉市は「避難勧告に活用するまでの認識がなかった」、東峰村は「前日に運用が始まったばかりで庁内で周知されていなかった」と言う。同気象台の担当者は「宣伝不足もあったと思う」と分析する。

 洪水警報の危険度分布については、総務省消防庁も公開後の実際の豪雨を例に検証を実施。昨年7月の新潟県の大雨では、増沢川の破堤の約3時間前に避難開始の目安となる「薄い紫」が出現していたことが確認された。北部豪雨当日の朝倉市の赤谷川でも「自宅に水が流れ込む」との被害情報が寄せられる1時間半前に「薄い紫」が現れ、一定の効果が確かめられた。

 ●監視弱点カバー

 中小河川はこれまで、コスト面から水位計や監視カメラの設置が遅れてきた経緯がある。危険度分布は、監視態勢の弱点をカバーできる可能性があり、消防庁は一層の精度向上が課題としつつも「水位上昇の見込みを早期に把握するために活用することが有効」としている。福岡管区気象台の田中満・防災気象官も「中小河川は水位上昇が急で、少しでも早く危険を察知する必要がある。避難勧告などを出す自治体にも、住民にも活用してほしい」と呼びかけている。

 気象庁は、各地に被害をもたらした西日本豪雨でも、自治体を対象に危険度分布の活用状況を検証するとしている。【中村敦茂】

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