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我らが少女A

/351 第9章 31=高村薫 田中和枝・挿画監修

 二○一七年十二月二十五日の朝が訪れる。多磨町の栂野(とがの)雪子は出勤前の午前七時、例年通り、ようやく薄明るくなり始めたクリスマスの朝の多磨霊園へ亡母の墓参に行く。今日で事件から丸十二年といった特別な感慨はない。病気や老衰ではない不条理な最期についてことさらに追及することさえしなければ、何かと折り合いの悪かった母節子がいなくなったあとの自分の人生がむしろ穏やかだったこと、いやそれどころか、自分の生き方を自分で選んでいるささやかな充実感があることを、今年もまた一人でしみじみと思い返すだけだ。もっとも、そんなことは娘にも言わないし、墓石の下の亡夫に言うこともない。

 事件のあった年ほどの冷え込みはない、冬の空気の透明さのせいだろうか、雪子は野川公園の事件現場へ立ってみようと思い立つ。霊園の裏門から公園の北門まで歩く間、あえて物思いを退け、真弓が幼稚園のころ、遅刻しそうになってバス停まで手を引いて走ったことなどを思い浮かべていたが、それももう実感などはない。やがて、事件の日以来、近づいたこともなかった公園の北門から野川沿いの遊歩道へ歩き出したが、二つ目の橋まで…

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