メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

我らが少女A

/351 第9章 31=高村薫 田中和枝・挿画監修

 二○一七年十二月二十五日の朝が訪れる。多磨町の栂野(とがの)雪子は出勤前の午前七時、例年通り、ようやく薄明るくなり始めたクリスマスの朝の多磨霊園へ亡母の墓参に行く。今日で事件から丸十二年といった特別な感慨はない。病気や老衰ではない不条理な最期についてことさらに追及することさえしなければ、何かと折り合いの悪かった母節子がいなくなったあとの自分の人生がむしろ穏やかだったこと、いやそれどころか、自分の生き方を自分で選んでいるささやかな充実感があることを、今年もまた一人でしみじみと思い返すだけだ。もっとも、そんなことは娘にも言わないし、墓石の下の亡夫に言うこともない。

 事件のあった年ほどの冷え込みはない、冬の空気の透明さのせいだろうか、雪子は野川公園の事件現場へ立っ…

この記事は有料記事です。

残り642文字(全文976文字)

毎日新聞のアカウント

話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. ことば 寝屋川中1男女殺害事件
  2. コトバ解説 「被爆」と「被曝」の違い
  3. 日産会長逮捕 ゴーン神話「数字の見栄え良くしただけ」
  4. 大阪・寝屋川の中1殺害 「娘は優しい子」被害者母が証言 公判
  5. 万博 誘致費36億円 大阪府知事「必要経費」理解求める

編集部のオススメ記事

のマークについて

毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです