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(鳥影社・1728円)
身体を通して人と歌の全体つかむ
名著である。
西行をめぐる著作は多い。新たに書くにはその理由がなければならない。本書においてはそれが「身体」である。いわば西行の身体を通して人と歌の全体をつかもうとし、それに成功している。
冒頭、白河院が建てた、いまは幻の八角九重塔の姿が描かれ、院政期の華やかさが提示される。権力者は彼岸の光景をこの世に見ようとしたのだ。筆は、その勢いのまま鳥羽離宮の勝光明院跡に向かう。現実に京都駅からタクシーに乗り、鳥羽離宮跡公園で降りるのである。現地探訪。むろん昔日の面影はない。離宮の金剛心院があったあたりは連れ込みホテルになっている。歩き続けた著者は白河天皇御陵の前に立ちつくす。空から高速道路の走行音がシャワーのように降ってくる。
歌枕を訪ねる紀行は少なくないが、本書は独特。生身の身体を使っているからだ。移動は基本的に電車であり徒歩である。日常に接している。要するに自身の身の丈を尺度として差し出し、西行を実測しようとしているのである。
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