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吉川晃司

六兵衛はボブ・ディランと重なる 「立ち止まって考えてみよう」

「連続ドラマW 黒書院の六兵衛」に主演した吉川晃司さん

 ロックミュージシャンで近年は俳優としての活躍も目覚ましい吉川晃司さんが、“せりふのない”異色の主人公を演じたWOWOWの連続ドラマ「連続ドラマW 黒書院の六兵衛」が放送中だ。的矢六兵衛という役柄をどう捉え、どのような心構えで現場に臨んだのか、吉川さんに聞いた。

 ドラマは、浅田次郎さんの同名幕末小説が原作。無血開城が決まった江戸城を舞台に、時代の波に取り残されそうになりながらも、自らの信義を通し一切口をきかないまま、城内に居座り続ける将軍直属の御書院番士・的矢六兵衛(吉川さん)と、六兵衛の排除を命じられた下級藩士・加倉井隼人(上地雄輔さん)との交流を描く。

運命的なオファー?

 僕は2年ほど前から喉を痛めていまして、去年の段階で、今年は歌手活動を休止することを決めていたんです。そんなタイミングで「せりふのない」役のオファーですからね。ある意味で、運命的なものを感じたのは事実です。

 ただ、それがお引き受けした理由ではないですよ(笑い)。浅田次郎さんの原作が面白かったというのが大きいです。いったい、どうやってこんな設定を思いついたんだろうと思いましたからね。前に「夢に出てきたんだ」とおっしゃっていたので、そんなにカッコいい話があるのかなと思って(笑い)、先日、対談させていただいた際に、直接うかがってみたんです。そうしたら、本当だったみたいです。六兵衛が夢に出てきたというよりは、ヒントになる情景が出てきたんだと。でも、そこから膨らませたっていうのは、やっぱりすごいなあと思いました。

 とはいえ、いくら面白い原作でも、映像化するとなると、特に今回の作品なんて、リスクが高いでしょう。それもまた、乗った理由の一つです。「石橋をたたいて渡る」のは、僕の性に合わない。僕にとっては「石橋は壊して、泳いで渡る」ものですから(笑い)。そういう作り手の方々の気概がうれしかったですね。

弓馬術礼法小笠原流との出会い

 六兵衛をどう演じるか……。これは悩みました。せりふがないということは、何をもって彼の気持ちを周囲に、そして視聴者の方に伝えるかということになるんですが、だからといって、表情の芝居を中心にしたら、上っ面な、薄っぺらいものに感じられてしまう気がしたんです。

 そこで大きかったのが「弓馬術礼法小笠原流」(今作で「所作指導」を担当)の方々との出会いでした。彼らの所作は、とてつもなく美しい。僕は常々「しなやか」でありたい、と言っているんですが、まさに僕の思う「しなやか」を体現しているんです。ただ、この礼法を身に着けるには、これまた、とんでもない体幹と筋力の強さが必要とされる。例えば、座った状態から立ち上がるときは、誰でもまず体を前に傾けてから立つでしょう。彼らは、そのまま垂直に立ち上がるんです。流鏑馬(やぶさめ)も学びましたが、あくまで彼らがやっているのは実戦向けでね。馬と触れているのは足先の部分だけで、腰は常に浮かせているんですよ。僕も体幹や筋力は日々、鍛えているつもりでしたが、お話になりませんでした。衝撃の連続でしたよ(笑い)。

 約2カ月半、ずっと稽古(けいこ)をつけていただきました。撮影の合間に稽古、というのではなく、稽古の延長上に撮影があった、という表現のほうが正しいと思います。そのご厚意に報いるためにも、少なくともカメラに映ったとき、「それらしく」見えるレベルにまでは到達しなくちゃいけない。毎日が闘いでしたね。「小笠原流」は、武士道の極みといえるものでしたから。いつ戦が起こっても対応できるように、日常の動きの中で鍛錬していく……。現代人の感覚では、ちょっとついていけないレベルのことを、あの方々はずっとやっているんです。そして、それを現在まで何百年間も伝えてきたんだから、すさまじいですよね。

 ただ、同時に、その状況下に自分を置くことで、六兵衛の人物像に近づけたかなという思いがあります。「小笠原流」の所作をしっかりやること。それをベースに、小手先の芝居はやらない。誤解を招くかもしれませんが、いかに「何もしない」か、というのが大きなテーマでした。これが究極だと思ったんです。「何もしない」ことによって、六兵衛の意を周囲に伝える。できていればいいんですけど、自分としては、どこまでやれたか分かりません。作品をご覧いただいて、そのあたりを判断していただければと思います。

しゃべらない六兵衛としゃべりまくる加倉井

 六兵衛が全くしゃべらず、ずっと城に居座り続けるので、彼の気持ちを探り、説得しようとするのが上地雄輔くんが演じる加倉井隼人です。上地くんとは「精霊の守り人」(NHK総合のドラマ)でも共演していましたが、同じアスリート出身ということで、馬が合うんですよ。

 でも、彼は大変だったと思いますよ。六兵衛がしゃべれないぶん、単純に考えても、2人分のせりふの分量がある。いや、もっとあったかもしれませんね(笑い)。大変そうだったけど、気合で見事に乗り切っていました。そういうふうに「目の前のハードルを越える」ことは、彼もきっと慣れているんでしょう。

 僕なんかはもう、彼がせりふを間違えたりすると、今度はさらに混乱させるようなことを、わざと言ったりしてね。僕も、彼のせりふを時には覚えていたわけですよ。だから、あえて似たようなせりふを彼に聞かせると「吉川さん、やめてくださいよ! 本当のせりふが分からなくなっちゃうから!」って怒るんです(笑い)。

 劇中では、加倉井が一方的に六兵衛に話しかけるんですけど、上地くんは(横浜高校の野球部で)キャッチャーだったでしょう。僕はどちらかというとピッチャータイプだから、役柄を離れたところでは、バッテリー的な関係だったと思いますね。たぶんキャスティングの時点でも、そういったことが念頭にあったんじゃないでしょうか。とても楽しくやれました。いろいろと話していても、面白かったですよ。キャッチャーって、常に人の心を読む必要がありますよね。だから上地くんはいまでも、どこへ行っても自然とそうなるらしいです。

時代劇への思い

 僕は時代劇とかSF作品が好きで、俳優として仕事をさせていただくときは、そういうジャンルだと食指が動くんです。たとえば「ハードボイルド」だったり、今回でいえば「武士道」がまさにそうかもしれませんけど、現代においては違和感を持たれてしまうようなことも、“今ではない、いつか”や“ここではないどこか”を舞台にすれば、見てくれる人の心にもストレートに届くでしょう。そういうところがうれしいんですね。すごく単純にいえば、そこには「夢」がある。歌手としてもそうですけど、僕自身がエンターテインメントが好きだし、それを伝えられる存在でありたいと思っているので、今後も「夢」が感じられる作品に参加できればいいなと。今回は撮影の拠点も、歴史のある東映の京都・太秦の撮影所だった。各パートの「職人」の方々の技に触れられるというのも、大きな喜びでした。

六兵衛が江戸城に居座った意味

 六兵衛がなぜ、何も語ることなく、江戸城に居座ったのか。あれだけ武士道を体現した人物の行動ですから、きっと意味があるんだろうと。彼なりの信念と哲学は、間違いなく持っていたと思うんです。

 でも、大事なのは、何か「正解」を一つに決めることではない。終わりゆく江戸時代、武士の時代にあって、彼がああいう行動を取ったこと自体が重要なんだろうと。その行動によって、周りに「考えさせた」ことが素晴らしいと思うんですよね。

 僕の中では、六兵衛とボブ・ディランが重なります。「答えは風に吹かれている」という……。なんでも答えを一つに決めようとする風潮があるけど、そうじゃないんだ、立ち止まって考えてみようじゃないか。それが大切なんだよ、って。

 だから、こういう素材が今の時代にドラマ化されるというのも、もしかしたら必然だったのかなと思っているんです。六兵衛の姿を通して「何か」を感じてもらえれば、うれしいですね。

 ドラマは、毎週日曜午後10時にWOWOWプライムで放送。全6話。

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