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我らが少女A

/354 第9章 34=高村薫 田中和枝・挿画監修

 CCUと聞けば、雪子は即座に患者の状態を想像できる。しかし、そこに至った経緯のほうは頭が受けつけようとしない。旧友の話では、亜沙子は消灯前に胸痛を訴え、心電図検査でAMI(急性心筋梗塞(こうそく))と診断されたため、バルーンで再灌流(かんりゅう)の処置を始めた直後にポンプ失調でショック状態になった。その間わずか二十分。塩酸ドブタミンの投与を続けているが、収縮期血圧は50mmHgで回復しない。JCS(意識レベル)は300。徐呼吸。体温35・3度。冠動脈の詰まりは取れても、末梢(まっしょう)循環不全の状態が続くと、危ない。

 看護師生活三十三年の心身は、動揺はしない。孝一のときもそうだった。胃がんが肝臓や腹膜に転移して手の施しようがなくなってゆく日々を見つめていたのは、半分は妻ではない看護師の雪子だ。そのとき、看護の一方で生命の終末と向き合う厳しい時間を埋めていたのは、モルヒネが効いてよく眠っている夫はいま一番楽しい夢を見ているのだという夢想だった。同じように、いまは上田亜沙子も一番見たかった夢を見ている、野川で朱美…

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