オピニオン

健康をマネジメントするとは 健康学部健康マネジメント学科 准教授
西垣 景太

2018年8月1日掲出

 体によいとうたわれる食品に人気が集まり、こうすれば健康になれるという本がベストセラーになる。老若男女が健康に関心を持つ時代だが、自分の体と向き合い、心身共に健康を管理するとはどういうことなのか。今年4月に新設された健康学部健康マネジメント学科の西垣景太准教授に聞いた。【聞き手・銅崎順子】

 

 ――専門の運動心理学はどのような研究をするのでしょうか。

 運動をすることの心理的な効果を考察します。運動をすることで短期的にはリラクセーション効果が高まったり、達成感や自信も得られます。ストレスや不安が解消されたりもしますので、長期的には心の安寧をもたらし、メンタルヘルスに貢献します。運動をすることで、自他の気持ちの理解にもつながると考え、幼児期から青年期までを中心に運動経験による心理・社会的な発達についての研究をしています。

 

 ――その運動心理学と健康マネジメントの関係について教えてください。

 身体的・心理的・社会的に健康な状態であることが本来の健康です。健康は世代に関係がありません。高齢になり骨や筋肉などが衰えて歩行困難になるリスクもある「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」や「サルコペニア(加齢性筋肉減弱症)」が現代の超高齢社会で問題になっています。しかし、体力は一般的に18歳前後をピークとして衰えていくとされているため、子どもの頃にどれだけ体力を上げて維持するかも重要になります。自分の人生の中で健康に生きていくマネジメントをするために、運動を楽しみながら継続することは、身体的・精神的・社会的に影響を与えます。運動継続のためにも、自身の心理的なマネジメントができるかどうかは重要な要因といえます。

 新聞やテレビの事件報道などで(「激高する」の意味で)「キレる」という言葉が使われることがあります。私の専門は運動心理学ですので、運動と心理学、健康とのマネジメントの部分で、この「キレ」て起こる問題行動を解決できないかと学部生の頃に興味を持ち始めました。運動には、仲間とコミュニケーションを取り、自分自身の感情をコントロールする力が必要です。運動をして自分の気持ちのコントロールができなくなってしまってキレてしまうと、それ以上の上達も運動習慣の獲得もできなくなってしまいます。指導者や対象者は、技術を指導・取得するだけではなく、メンタル面のマネジメントをしていくことも必要です。運動は、時に激しい感情、特に喜怒哀楽を伴います。激しい感情を経験しながら、その感情をコントロールする力も養っていきます。子どもの頃から運動に親しむことで、体力の向上だけでなく、他者と切磋琢磨しながらいろいろな感情を経験することで、理性を働かせて感情をコントロールする力も養えると考えています。

 

 ――健康をマネジメントするためには、運動を取り入れながら、ということですね。健康学部は健康を社会学的にも扱うと聞きました。

 健康学部にはソーシャルウェルネス、メンタルヘルス、健康と栄養、健康と運動、ソリューションという大きな五つの枠組みがあります。健康を広く捉えると全部がつながっていくということを念頭に各教員が授業を進めています。

 健康を維持するために運動は有効な手段です。運動習慣がある人はいいのですが、運動を継続できない人はなぜ継続できないのかを探ります。アンケートをとると「何をやったらいいのか分からない」「自分に合ったものが分からない」「時間がない」――などの回答が並びます。「楽しくない」というものもあります。これらの背景には個々の生活によるさまざまな要因が隠れており、そこへのアプローチも多様になります。運動の場に参加できない人たちへは運動指導の知識だけのアプローチでは困難な場面もあると思います。

 一つの例として、マズローの欲求階層説というものがあります。ピラミッドをイメージした一番下の層から▽食べる、眠るなどの生きていくための生理的欲求▽住む家などの生活環境を求める安心・安定欲求▽家族や恋人、友人など自分を受け入れてくれる愛情・所属欲求▽社会的な地位を得たいなどの承認・自尊欲求▽自分の才能やパフォーマンスを向上させたいという自己実現欲求――の5段階に分けています。(自己実現の上に自己超越を含めた捉え方もあります。)運動を習慣化するためには、まず生理的欲求、安心・安定欲求が満たされていないと難しいと考えられます。なぜ運動を継続できないのかを探ると、生活面で何か問題を抱えているということもあります。その際には、ソーシャルウェルネスといった部分が関係します。まず生活面が安定しないと何もやる気にならないですしメンタルヘルスからの検討も必要になります。生活面では、きちんと食事をするといった栄養面も関わってきます。このように、健康といっても、医療面だけではなく、運動、栄養、社会的背景などが絡み合っています。健康学部では、これらの生活基盤の部分から自己実現によるQOLの向上まで、幅広く学んでいくことが価値あることと捉えております。運動についても、生活面を含めてそれぞれのバリアを解消し、心身の健康に気づき健康寿命を延ばしていけるかを考えられる人材を出していかなければならないと考えています。

 

 ――西垣准教授にとっての「健康」とは?

 私自身は、子どもの頃からバドミントンや陸上競技、スキーなどに親しんできたことで、体力、メンタル、コミュニケーション能力が養われたと考えていました。しかし、慣れない土地での仕事を経験し、生活面での大きな変化によって精神的に負担がかかっていたことも経験しました。その時、生活の基盤はメンタルな面を含めた健康だと改めて気がつきました。運動が好きで体力があるだけではダメで、自分と周りの人の幸せを考えると、やはり第一は健康だと。体力は、運動能力の面だけでなく、意欲やストレスへの耐性、精神力も含めた心身の相互作用です。体力が落ちたら精神力も落ちますし、その逆もあります。まさに、健康は精神的・身体的・社会的な面のバランスが重要だと言えます。

 

健康学部 運動領域勉強会にて実習風景

 ――今後取り組みたいテーマや分野について教えてください。

 運動経験が感情にどのような影響を与えているのか、心理・社会的な発達面から脳波を測定するなどしてアプローチしていくことと、メンタルヘルスへの影響について検討していきたいと考えています。また、運動継続の観点から「良いスポーツの指導者像とはどのようなものなのか」を提示したいと考えています。実際の指導現場を映像で撮影し、発言内容や声の大きさ、対象者の表情などから、効果的なコミュニケーションの質について研究して、指導者を目指す学生にフィードバックしていきたいです。

 

 ――若い人たちへのメッセージを。

 現在は超少子高齢社会です。若い世代から健康を意識することが将来、重要になります。自分の健康を大切にすることは、家族や周囲の人の幸せにもつながります。これを学びたいと思うようになるためにいろいろな経験をし、多様な人と話し、自分自身でも自他の心身の状態や健康について考えるようになってください。健康について一緒に学んでいきましょう。 

健康学部 運動領域勉強会にて

 

健康学部健康マネジメント学科 准教授 西垣 景太 (にしがき けいた)

東海大学体育学部社会体育学科卒業、同大学院体育学研究科体育学専攻修士課程修了。2013年中部大学大学院国際人間学研究科心理学専攻博士後期課程を修了し博士号(心理学)を取得。2010年9月より中部大学生命健康科学研究所助教、2012年に生命健康科学部スポーツ保健医療学科助教、2014年から同講師を務め、2018年4月に東海大学健康学部健康マネジメント学科准教授として着任。2012年度と2015年度に中部大学教育活動優秀賞を受賞。2015年から2018年3月まで、岐阜県恵那市スポーツ推進審議会副会長を務め、こどもの健全育成に関わる運動プログラムの開発や運動習慣と生活習慣の調査を担当。