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炎のなかへ

/221 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

 タケシは腹の底から叫んだ。母はゆっくりと棒のように道に倒れた。左腕を失(な)くした登美子の腕からは警防団の手押しポンプの勢いで血が噴きだしている。直邦は地面に倒れたままぴくりとも動かない。

 タケシは正面に立ちふさがる炎の壁をにらみつけた。顔を撃つ輻射(ふくしゃ)熱は拳のように硬い。四人を死から奪い返すには、よっさんのときのように自分が死ぬしかない。炎の壁をくいいるように見つめた。黄色の火と橙(だいだい)色の火と白っぽい煙が渦巻くように透明に躍っている。あのときはよっさんに続けて自分も直撃を受けたので、死の恐怖はなかった。

 けれど今回は違う。四人を救うためには自分から炎のなかに跳びこまなければならない。炎は恐ろしかった。今夜目にした焼死者のひとりひとりが、この恐怖に撃たれてから命を落としていったのだ。手足の先が痺(しび)れ、目には涙がにじんでくる。なにかが怖くてたまらずに泣くのは、生まれて初めてだった。

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