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炎のなかへ

/222 アンディ・タケシの東京大空襲 石田衣良 望月ミネタロウ・画

「タケシ坊ちゃん、なにをなさるんで」

 よっさんが驚いて叫ぶ声が背中に飛んだ。無理もない、いきなり炎の壁に走りこんだのだ。こつんと鉄兜(てつかぶと)に火のついた木片が当たる音がした。指先が熱くて、手は自然に拳骨(げんこつ)を握ってしまう。まだ湿っている国民服から、一気に蒸気が湧きあがった。交差点を埋め尽くす炎に直接ふれて、頬と首筋に焼けつくような痛みが走る。見る間に目から涙が乾いていく。タケシは思い切り目を細めた。炎はこんなに苦しいのだ。渦巻く炎のなかでは轟々(ごうごう)とガスが噴きだすような音が鳴り続けている。

 一歩また一歩と足をすすめていった。タケシの意思は固かった。息をとめたまま、両手で顔を隠すように、炎の交差点の奥へと侵入していく。ようやく中央の境界線までやってきた。服が焦げ始めている。あと三歩もいけば、炎の壁の向こう側が見えるだろう。全身に火傷(やけど)を負ったタケシの身体(からだ)が悲鳴をあげ始めた。もう歩くことはできない。地面に倒れ身体を丸めてしまう。だから丸まった遺体が多かったのか。

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