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(名古屋大学出版会・3888円)
職のたんなるネガではない胃袋の問題
近代化は、こと経済にかんしては労働者の移動に集約される。農村で田畑を長子が相続する家制度が確固としていた明治から大正にかけ、長男以外すなわち次男以下や女子は多くが「職」を求めて都市を目指した。神戸や横浜のような港町なら危険な沖仲仕(おきなかし)が大量に必要となり、工場が増えてくると職工が憧れの的となった。女性も「女工」として製糸場で雇用された。対照的に近世まで人は農地に張り付いていた。移動したのはもっぱら商品で、米などは廻船(かいせん)に乗せられ大阪・堂島の市場に向けて周航した。
この違いは都市が「職」を提供するか否かによるが、本書はここで見逃されていた問いに光を当てる。移動した人びとは何を食べたのか、だ。これは興味深い論点で、「食」は日に二、三度の必要事である。故郷の農村であれば米や野菜は自給でき、魚を手に入れたければ行商が物々交換の仲介をした(愛媛では「かへこと」と呼ばれた)。都会が提供する職からは現金が得られるが、賃金の多寡や職の有無さえも景気に左右される。都会で手…
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