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はやぶさ2

「水のないリュウグウ」失望から期待へ 初めて手にする物質の可能性も

リュウグウ表面の水の存在を観測する近赤外分光計(NIRS3)の観測状況。灰色のところは未観測の場所。極域などに一部ある灰色以外の部分は観測済み=会津大、宇宙航空研究開発機構提供

 そのとき、観測装置開発の責任者、北里宏平・会津大准教授は思わずノートパソコンを閉じた。「まさか水がまったく検出されないとは……」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2日、探査機はやぶさ2による小惑星リュウグウ観測の途中経過を公表した。リュウグウには、地球の海や生命のもとになった可能性のある水や有機物が豊富に存在すると考えられていた。ところが、水を観測する装置「近赤外分光計(NIRS3)」がリュウグウ表面の約9割の観測を終えた結果、水が存在するデータが得られなかったのだ。

 リュウグウは小惑星の中で、炭素を多く含む「C型」と呼ばれるタイプに分類される。これまで地上から観測されたC型小惑星のうち、約8割では水分が存在するデータが得られていたため、リュウグウにも水があるだろうと期待されていた。人類が訪れる初めての天体だからこそ直面した意外な結果に、北里さんは「パソコンで水が検出されないというデータを確認した瞬間、もう(データを)見たくないと思ってパソコンを閉じてしまった」と振り返った。

 NIRS3は、リュウグウの水分を含む鉱物の有無と分布を調べるために開発された。近赤外光をリュウグウ表面に当てたときの光の波長を分析する。水が存在すると3マイクロメートル付近の波長が弱くなる(吸収される)という。

「これまでの観測では、小惑星リュウグウに水はないという結果になっている」と発表する北里宏平・会津大准教授=東京都千代田区の宇宙航空研究開発機構で2018年8月2日、永山悦子撮影

 リュウグウの観測は、到着前の6月21日から始まり、これまでに約5万4000件、リュウグウ表面の9割以上をカバーする大量のデータを取得した。それらを分析した結果、3マイクロメートル付近の波長の吸収が検出されず、リュウグウ表面は「予想していたよりも水が枯渇している」、つまり「水がない」ということが分かったのだ。北里さんは「リュウグウの水分量はほぼゼロ%」と説明する。水がない理由としては、(1)リュウグウのもとになった母天体で水分を含む鉱物が作られなかった、(2)リュウグウができた後の太陽光の照射などによって水分が蒸発した--などが考えられる。

 一方、北里さんは「最初はショックを受けたが、データを見てから1日たって仲間と議論するうちに、結果としては『当たり』だと考えるようになった」と話す。C型小惑星から来た隕石にも水がほとんどないものはあったが、その反射率は高かった。リュウグウは水がないうえ、反射率が2%と非常に低い小惑星だから、これまでの隕石(いんせき)とはまったく異なる。「リュウグウの物質を持ち帰ることができれば、私たちが初めて手にするものになる可能性が高まってきたといえる」(北里さん)。

 現在は、まだ北極、南極など極域の観測ができていないほか、地下に水が存在するかもしれないため、観測を続ける。北里さんは「可視光カメラの観測によると、南極にある大きな岩の性質が他の場所と異なる可能性がある」と話す。記者説明会では、北里さんが「科学探査の意味からは極域への着陸を狙ってほしいところだが……」と漏らし、吉川真・ミッションマネジャーが「工学(運用)の面からはなかなか難しい」と返す場面もあった。

 また、小惑星の表面(深さ数センチ程度)は、宇宙線によって風化していたり太陽光の熱によって水分が蒸発していたりするため、衝突体によって人工クレーターを作った場所で水が確認される可能性も残っているという。

 有機物の存在については、リュウグウの特徴として反射率が2%程度と非常に低く、それを説明するには有機物が必要だと考えられるため、有機物は水とは関係なく存在していると考えられるという。

 はやぶさ2は6日午前、これまでで最も低い高度約1キロまでの降下を始めた。はやぶさ2を高度5.5キロからリュウグウ表面に向かって自由落下させ、リュウグウの重力と質量を測定する。計画では、6日午後8時ごろから自由落下を始め、7日朝に最も低い高度1キロ付近に到達し、すぐに上昇する。より詳細な画像などの撮影も期待される。

 今後のスケジュールについて、吉川さんは「観測結果をもとに着陸場所の検討をしている。工学(運用)チームは安全に着陸させるため、なるべく平らで傾きが小さいところを探し、十数カ所をピックアップした。サイエンス(科学探査)チームは科学的に意義の大きな場所を探している。それらを総合し、8月末までに着陸場所を決めたい」と話す。

クレーターに高さ5メートルの縁

 2日の記者説明会では、これまでのはやぶさ2の観測結果について、レーザー高度計(LIDAR)や画像からの作る形状モデルの現状についての説明もあった。

リュウグウの段彩陰影地形図。赤いところほど高い。岩塊(ボルダー)の分布も分かりやすくなる=会津大、宇宙航空研究開発機構提供

 LIDARは対象の天体へレーザー光を発射し、反射して戻ってくるまでの往復時間を測定して天体表面からの距離を測定する。はやぶさ2では、高度25キロ~30メートルまで測定できる。カメラでとらえられない凹凸をとらえることも可能だ。

小惑星リュウグウのクレーターの特徴などについて説明する水野貴秀・宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所准教授=東京都千代田区の宇宙航空研究開発機構で2018年8月2日、永山悦子撮影

 リュウグウ到着前日の6月26日に初めて測定に成功、その後は主にリュウグウ表面のクレーターや岩石など凹凸の様子を観測している。リュウグウのクレーターの特徴として、比較的明瞭な高さ5メートルほどの縁があるクレーターの存在が確認された。また、小惑星がどのような物質で構成されているか、どのように作られたかを推測する際に参考にされる「クレーターの深さ÷直径」の比率は0.1~0.2程度だった。この数値は、従来知られている小惑星や彗星の単純クレーター(断面が単純なおわん形をしているクレーター)と一致していた。

 クレーターの縁については、LIDARの運用を担当する水野貴秀・JAXA准教授は「先代のはやぶさが訪れた小惑星イトカワのクレーターでは観測されなかった特徴なので、イトカワとは異なる状態の小惑星ということが分かってきた。どのような原因でできた地形なのかは、今後に得られるデータを分析して突き止めていきたい」と話す。

小惑星リュウグウの形状モデルを手にする平田成・会津大上級准教授=東京都千代田区の宇宙航空研究開発機構で2018年8月2日、永山悦子撮影

 形状モデルとは、可視光カメラがさまざまな方向から撮影した天体画像をもとに、3次元の立体的な天体の姿を再現する研究だ。形状モデルがあれば、はやぶさ2が撮影した画像をもとに「どこにいたのか」「どんな姿勢だったのか」ということを高い精度で推定できるほか、リュウグウ表面の状態をより立体的に把握できるようになるという。つまり、はやぶさ2が着陸するときに、安全に着陸できるかどうかを評価する情報になるほか、リュウグウの形成過程を分析するのにも役立つという。

 はやぶさ2では、会津大と神戸大がそれぞれの手法で形状モデルを作り、ほぼ一致した結果になっている。今後の着陸に向け、それぞれのデータを比較しながら地形を分析したり、補完しあったりすることを想定しているという。

 形状モデルのデータがあると、平面の地図(段彩陰影地形図)を作ることもできる。この地形図は高さによって色分けし、起伏に陰影をつけて分かりやすくしたもの。平田成(なる)・会津大上級准教授は「そろばんの玉のような形といわれているように、赤道あたりが出っ張っている様子やいろいろな場所に岩が散らばっている様子を復元できる」と話す。【永山悦子】

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