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隣の国を歩く

田園風景の中にある朝鮮戦争の名残

北朝鮮が掘ったとされる第2トンネルの入り口=韓国・江原道平原郡で2018年7月28日、渋江千春撮影

 4月27日に韓国と北朝鮮の南北首脳会談が開かれて以降、南北関係は融和ムードが続く。この会談は、南北を隔てる軍事境界線がある板門店(パンムンジョム)で開かれた。板門店は1953年、朝鮮戦争の休戦協定が結ばれた場所としても有名だ。南北首脳会談後、「平和の象徴」となった板門店を訪れる観光客が増えたという。

     実は板門店以外にも、軍事境界線に近づける場所はある。7月28日、江原道(カンウォンド)鉄原(チョロン)郡を訪ねる機会があった。この地域に今も残る、朝鮮戦争にまつわる遺跡を紹介しながら、平和について考えてみたい。

    北朝鮮が掘ったトンネル

     まず向かったのは、地下から軍事境界線に近づける「第2トンネル」だ。北朝鮮が奇襲攻撃のため韓国側に向け掘り進めていたトンネルが四つ発見されている。「第2トンネル」は1975年、2番目に発見された。四つのトンネルのうち最大規模とされ、地上から50~160メートルの深さで全長約3.5キロある。

     外は30度を超える暑さだったが、入り口から階段を下りると、すぐにひんやりとした空気が体を包んだ。トンネル内の気温は年間を通じて十数度を保つという。階段がある部分は韓国側が掘削した横穴で、階段を下りきると、北朝鮮が掘ったトンネルに突き当たる。壁は、北朝鮮が掘削した当時のままで、ごつごつとした花こう岩の岩肌がむきだしだ。高さは平均約2メートルだが、足元には安全のためにゴムが敷き詰められ、身長約160センチの私もたびたび頭を天井にぶつけた。幅も両手を伸ばせば届きそうな場所もある。岩肌には数メートルおきに、北朝鮮が掘削のため使用したダイナマイトを差し込んだ穴が残る。

     このトンネルが完成していれば、三つの出口を通じて1時間あたり最大3万人の兵力を送り込む予定で、小型の戦闘車両も運搬できたという。一般人が見学できる約500メートル先まで進むと、「ここから300メートル北側には軍事境界線があります。みなさんの安全のために出入りは禁止されています」との注意書きがあった。300メートル先は、北朝鮮だ。

     北朝鮮はこのトンネルから撤退する際、地雷などを設置した。トンネルの探索の際に、韓国軍の兵士8人が犠牲になった。トンネルが掘削されていた1972年は、統一について南北が「自主・平和・民族団結」の原則で合意した「7・4南北共同声明」が発表された年だ。そのさなかにも、北朝鮮はこのトンネルを掘っていたことになる。

    鉄原の旧市街地にある労働党舎。「すぐに終戦だ」と書かれた旗が飾られていた=韓国・江原道鉄原郡で2018年7月28日、渋江千春撮影

    休戦で保たれる「平和」

     鉄原は日本の植民地時代に、交通の要衝として栄えた。ソウルから港がある日本海側の最大都市、元山(ウォンサン)に通じる京元線が通っていたからだ。有数の景勝地、金剛山に向かう人々は、鉄原駅で金剛山電気鉄道に乗り換えた。

     ところが、日本の敗戦後に勃発した朝鮮戦争により、鉄原は激戦地の一つとなり、旧市街地は荒廃した。1952年10月には、鉄原平野を一望できる白馬高地で中国軍と韓国・国連軍との間で大激戦が行われた。10日の間に27万発以上の砲弾が降り注ぎ、地形が変わるほどだったという。旧市街地があった場所は今、草むらや田畑の中に時折、当時の建物の残骸が点在するだけだ。

     朝鮮戦争が始まるまでの約5年間、北緯38度線より北にあった鉄原は北朝鮮労働党(現・朝鮮労働党)の支配下にあった。私が鉄原を訪ねた7月28日は、朝鮮戦争の休戦協定締結から65年を迎えた翌日だった。旧市街地の中心にあり、共産主義に反発する住民が拷問にかけられた労働党舎前の広場には、締結記念日の関連イベントで飾られた旗が残っていた。旗には、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長、米国のトランプ大統領の似顔絵と共に、「すぐに終戦だ」とのスローガンがあった。

    京元線の韓国側最北端の駅、月井里駅。線路の先には非武装地帯との間を隔てる黒いフェンスが見える=韓国・江原道鉄原郡で2018年7月28日、渋江千春撮影

     韓国側で京元線最北端の駅、月井里(ウォルジョンリ)駅跡にも足を運んだ。元々は非武装地帯内にあったものが移設、復元されたものだ。「鉄馬は走りたい!」との文字が書かれた看板の背後には、国連軍の爆撃を受け、鉄の塊となった車両が置かれている。線路のすぐ先には、黒いフェンスが見えた。その先は、非武装地帯だ。

     南北首脳会談の板門店宣言には、京元線ではないが南北の鉄道連結も盛り込まれた。しかし私には、このフェンスが撤去され、鉄道が連結される様子が想像できなかった。

     この日、ガイドを務めてくれた文化観光解説師、岡本歩美さん(36)は結婚を機に約11年前、鉄原郡に移住した。南北の緊張が高まった際、2回避難したことはあるが、普段はのどかな田園風景が広がるこの土地が好きだという。今や江原道随一の米の生産地となり、冬場には越冬のためツルも飛来する豊かな自然が残るのは、非武装地帯やその周りに民間人の出入りが制限される統制区域があるからだ。

     南北首脳会談後、生活に変化はあったか聞いてみた。「24時間続いていた北朝鮮の宣伝放送がなくなったことぐらいでしょうか。私としては、そんなにすぐに北朝鮮を信じる気持ちにはなれません」という答えが返ってきた。

     岡本さんはこうも続けた。「(韓国と北朝鮮は)もともとは一つの民族で、統一は当然のことと考える気持ちは理解できるし、二つの国に分かれていることが異常だとは思います。ただ、戦争が終わったらここは確実に開発され、今ある『平和』はなくなる。そんなアイロニーを抱えているんです」

     板門店とは違い、鉄原を訪れる外国人は多くないという。実際はソウルから約100キロ。車がなくても、ソウル駅発着の観光ツアーもある。鉄原のある江原道は日本語のブログフェイスブックページを開設し、日本からの観光客を呼び込もうとしている。都会のけん騒を離れた田園風景の中で、「平和」について思いをはせるのもいいかもしれない。【渋江千春】

    渋江千春

    ソウル支局特派員。1981年東京都生まれ。2003年入社。阪神支局、大阪本社社会部、外信部を経て2018年4月から現職。2017年4月から約1年間ソウルに留学し、延世大学語学堂などで韓国語を学ぶ。趣味は6歳の頃から続ける合唱。共著に「介護殺人 追いつめられた家族の告白」(新潮社)。

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