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 地域創生の実現には、実学・現場重視の視点や、まちの「全体最適」として、情報共有、役割分担、出番創出、事業構想の一連のストーリー(台本、脚本)作成と実践が必要だ。そこには、健常者の「ひと育て」「まち育て」のみならず、障がい者も地域創生に関わり、全員参加の地域の一体感が重要となる。

     今年7月、北海道乙部町の「バリアフリーホテルあすなろ」を訪れた。乙部町は人口3754人(6月末現在)。このホテルは地元の化粧品会社が建設し営業していたが、2014年2月に閉館。乙部町としては雇用の場の確保、若者の流出を防ぐため、社会福祉法人「江差福祉会」に運営を依頼。江差福祉会は約7億5000万円かけて全面改修し完全バリアフリー化にして15年4月、北海道内初の知的障がい者のために「就労継続支援A型事業所」の宿泊施設としてオープンした。

     このホテルでは、障がい者が接客対応し、所々を健常者がサポートする体制を取っている。客室は一般から高級仕様(2室)の3種類、計29室、最大宿泊人数は70人。1泊2食付きで1万2000~1万5000円。年間約5000人が利用する。フロント・ロビー、レストラン、大浴場、客室に至るまで、全てに段差がなく、車椅子で移動ができる。特に、源泉掛け流し(72度)の温泉の内風呂、露天風呂に車椅子で入浴できるのが料理とともに人気の理由といえよう。

     エレベーターのボタンの高さも車椅子用に工夫され、部屋の自動ドアはカードタッチ式、リクライニング式ベッド、多機能トイレ(オストメイト配慮)、介護者用ベッド、書斎もある。また、視覚障害の方でも歩行がスムーズにできるように床のじゅうたんはダイヤ型デザイン仕様である。

     同ホテルのスタッフは計33人で、そのうち20人が知的障がい者。ホームヘルパー資格保持者による入浴介助、レストランや厨房見習い、ベルボーイ、ウエーター、ウエートレス等を担当し、生き生きと仕事をしているのが印象的だった。障がい者にやさしいホテルは一般の利用客の皆さんにもやさしいといえる。

     江差福祉会は、ホテル経営のほか、災害備蓄用パンやフリーズドライビスケットの開発・製造、自家製パンの工場を運営している。作業工賃は通常の施設の3倍以上を支給、住居の質(高断熱・高気密住宅、安全性、家賃軽減等)、生活自体の質(自ら日常生活を営める環境、食事水準の高さ等)を保障しているという。

     乙部町の寺島光一郎町長は、「地元出身者で全国各地にいる企業経営者らに直接会いに行き、地元での雇用の場づくりに協力いただいている。これからも製造業の工場を誘致するなどして、若者の働く場を設けて定住を図りたい」と話す。江差福祉会の樋口英俊理事長・総合施設長は「遊ぶところのない田舎だが、そこで楽しく仕事し、お金をためる。そして、都会へ旅行に行くなど、おもいっきり遊び、楽しみを満喫するのがいい。従業員はチャーター機でよくハワイへ行っていますよ」という。

     江差福祉会は地域の障がい者雇用の促進につながっているとして評価され、16年度北海道福祉のまちづくり賞(公共的施設部門)を受賞している。

     同福祉会が完全バリアフリー化のホテルをはじめ、福祉施設等の総合経営の成功モデルを確立し全国・世界に広めることは、今後の障がい者雇用の重要な手本になる。施設整備には、これまで地元建設会社等へ約40億円の工事を発注するなど、地域経済をお互いに支え合う配慮がある。理念、目的・目標・使命を明確化し、ひとを大切に事業展開をしている。今後とも、地域経済の活性化、雇用の場の創造など、この実学・現場重視、全体最適思考の取り組みに協力・応援したい。

     きむら・としあき 1960年北海道生まれ。84年小樽市入庁。06年内閣官房・内閣府企画官。09年農林水産省大臣官房企画官。地域創生担い手養成、地域ビジネス創出、地域と大学との連携、6次産業化などを担当。現在、東京農業大教授、内閣官房シティマネージャー、総合政策アドバイザー、(一社)日本事業構想研究所代表理事、日本地域創生学会会長、地域活性学会常任理事ほか。博士(経営学)。NHK番組プロフェッショナル「仕事の流儀 木村俊昭の仕事」ほかに出演。

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